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ようこそ三日月堂へ!

ぶらりかぶき町さんぽ。



第80話



さて、これからどうすっかといって銀さんは満たされたお腹をさすりながら、私の一歩先を歩く。どうやらこの後のことは本当にノープランだったようだ。



「どこか行きたいとこある?」

「お出かけに誘ってくれたの銀さんですよね?」



銀さんらしいといえば銀さんらしい。私はわざとらしく、聞こえるようにため息をついて、じゃあといって銀さんに話しかけた。



「依頼してもいいですか。」

「は?依頼ぃ?」

「普段、銀さんが行くところを一緒に散歩させてください。お腹もいっぱいですし、ちょっと歩きたい気分なので。」

「んなのでいいの?女なら、どっか買い物行きたいとかじゃねーの?」



怪訝そうに立ち止まっている銀さんを追い越し、私は早く連れてって下さいよーと言って銀さんを急かした。銀さんはそんな私をどう思ったのか、少し俯き加減で、後ろ頭を掻きながらハイハイと言って、今度は私の隣を歩き始めてくれた





「だからって、さっそく、予想通りにパチ屋に連れて行かれるとは思わなかったです。」

「お前がいたら絶対今日は勝てると思ったのになんで全敗?!で、なんでお前は逆にそんな勝利品もってんの?!」

「台がよかったんですかね?みなさん私の台の取り合いしてましたし…まぁ、銀さんもですけど。」



パチンコなんて生まれて一度もしたことがない私を、銀さんが手取り足取り教えてやるよと言ってくれたので、まぁ何事も経験だと思い、言われるがまま台の前に座ってやっていたら、次第に隣の銀さんが慌てだし、気付けば周りの人たちも何やら立ち上がってソワソワし出した。

そんな私の足元にはあっという間にたくさんの玉が。



「銀さんなにこれ?!止まらないんですけど?!いつまでこの玉出てくるんですか?!」

「フィィィィバァァァァァァ!!!!」



銀さんの叫びを合図に、そこらかしこから「お嬢ちゃん、そこの台を譲ってくれ!」と声が上がり、意味のわからない私はだんだんと恐ろしくなり、席を立とうとしたら、「これは俺のだァァァ!!!」と銀さんが血眼で、私の台にダイブしてしがみついていた。



「…あれこそが残念な大人の姿の見本ですね。」

「逆だ、あれが何に対してもいつも本気のいい大人の姿だろ。」



ちなみに当たり玉は新八くんと神楽ちゃんのためにお菓子に還元しておいた。これでしばらくはお菓子に困らないだろう。あとで、差し入れしに行こう。



「あ、そうだ銀さん!喉が乾いたんで、何か買いませんか?」

「ああ、それなら、」

「おや、銀さんじゃないか。」



いろいろ叫びすぎて喉がカラカラだったので、近くに見えたお茶屋さんで一休みしようとしたところ、お店の軒先に立っていた店主さんらしき人に呼び止められた。どうやら銀さんの知り合いらしく、軽くふたりで雑談をし始めたので、私はそれを邪魔しないようにそっと隣で看板メニューを確認することにした。



店内を見渡すと、色々な茶葉が棚に並んでいて、さらに香ばしい匂いもする。きっとこれは、淹れたてが格別に美味しいに違いない。ワクワクしながら何を飲もうかと悩んでいると、隣からほらよ、といって湯のみを渡された。



「…あれ?もう注文通したんですか?」

「いや、じじぃがサービスでいっぱい飲んでいけだとよ。」

「えっ!?」



思わず店主さんの方に視線を向けると、店主さんは以前、万事屋に屋根の修理依頼をしたとき、依頼以外のこともたくさん手伝ってくれたからそのお礼だといった。でもそれは万事屋への好意であり、私には関係がないので、自分の分は払います!と申し出たが、



「銀さんの彼女なんだから遠慮せず飲んでいきな、それでまたふたりで来てくれや。」



と言われ、咄嗟に訂正しようとしたが、銀さんがごちそうさんといって、勝手に湯のみを置いて歩き出してしまった。私はそんな銀さんを追いかけるように、慌ててお茶をありがたくいただき、ごちそうささまでしたと一礼してからお店をあとにした。



「ちょ、ちょっと銀さん!先に行くなら一言、」

「お前らなにやってんの?」

「あ、はくはつー!」

「てんぱー!」

「おい、坂田銀時様って偉大な名前教えてやっただろうが、くそがきども。」



先に行く銀さんに走って追いつくと、銀さんは川で水遊びをしているこどもたちに、ちょうど声をかけているところだった



「あそこ、ダンボールあるだろ!」

「あの中から声がすんだよ!」

「声ぇ?」



こどもたちがいうには、川の真ん中らへんで木枝に引っかかっているダンボールがの中から声がするらしく、何かを確認するために川の中に入ろうとしていたらしい。けど、ここの川の流れは穏やかではないし、万が一足を滑らしでもしたら、これくらいのこどもなら、川の流れに持っていかれるかもしれない。



「たしかに声がするような気もするけど…でも、川に入るのは危険だよ!ちょっと、ふたりとも!こっちにおいで!」

「おとなはすぐみてみぬふりするー!」

「そうだ!すぐ、びびるー!」

「なっ!」



子供の身の安全を案じた自分に対して、まさかこんな言葉を返されるなんて!衝撃すぎて一瞬言葉に詰まったが、とにかくこどもたちが、川の中に入るのは阻止せねばと思っていた矢先、目の前にいた銀さんが、こどもたちを押しのけ、ザバザバと豪快に川の真ん中まで進んでいった。



「ぎ、んさん?!」

「っし、おいガキ、そこからこれ受け取れるか?」

「うん!!」

「んで、親でも呼んできな、こいつのことどうするか、助けようとしたお前らで考えろよ。」



そういって銀さんはダンボールを持ち上げ、こちらに戻ってきた。銀さんからダンボールを受け取ったふたりは、中を覗き込むなり、慌てた様子でおかーさん!といって駆けていった。



「銀さん!!」

「猫だよ、子猫。今どきいんだな、ありきたりな捨て方するやつ。」

「…靴もズボンもびしょ濡れですね、とりあえず意味ないかもですけど、ハンカチどうぞ。」

「さんきゅー。」



銀さんは靴に入った水を出して、そのまま川沿いの砂利に座り込んだ。



「こんだけ天気がいいんだ、すぐ乾くだろ。」

「…ふふ、そうですね、疲れましたし、ちょっと一休みしましょうか。」



私は笑いながら銀さんの横に腰を下ろした。確かにこれだけ日差しが強ければ、靴もズボンもすぐに乾きそうだ。



「さすが万事屋ですね、反応と対応が早い。」

「べっつに、たまたま目に入っただけだし。あとで親に金請求すっから。」

「こわっ」



そんなこといって、それが照れ隠しであることくらいはわかる。銀さんはそう言う人だ。

困ってる人を見過ごせない。

けど、だからといってなんでも首をつっこむわけじゃない。今だって、捨て猫を自分がどうにかするわけじゃなくて、あの子たちが「どうにかしてあげたい」という気持ちを手伝っただけだ。そのあとのことはあの子たちに任せている。けど、あの子たちがどうにかしてほしいと頼ってきたら、その時はまた助けるのだろう。

銀さんがさっき、気が付いたら背負うものが増えたと言っていたが、あれも照れ隠しの一つだと今なら分かる。銀さんは責任がなにか分かっている。分かっていて、背負っている。それって、



「銀さんって、この町のこと、大好きなんですよね。」



今日に限らず、銀さんと町を歩くと、必ず誰かが声をかけてくれる。それは万事屋としての仕事の成果というよりかは、銀さんのこういう人柄が好かれているからだと思う。銀さんのことをみんな好きだから、万事屋はこの町で必要とされている。それは、深月さんたちと同じともいえる。



「必要とされる、って、責任も負担も伴うから、安易に必要とされ続けようとすると、疲れたり壊れたり、…なくなったりするけど、でも、ちゃんと芯があったら、逆に強くいられるんですね。」

「…芯ってーのは?」

「…うまくいえないですけど、愛情?」



とか?って笑ってみたけど、笑えてるかどうかはわからない。けど、冗談ではなく本気でそう思う。好きな気持ちは強い。好きだと思われることも、好きだと思うことも、どちらもすごい力を持っている。だって、現にそうだ。私が、深月さんたちの大切な本屋を同じように大切にしようとしているのは、本に対してはもちろんだけど、深月さんたちのことが好きな気持ちが強いからでもある。



「…ババァに借りがあんだよ。」

「お登勢さん?」

「そ、だからここで生きていくしかねーなって。お前と似たようなもんだ。だから、言いたいことはなんとなく分かる気もする。」



そう言って銀さんは砂利の上に寝転がった。腕を枕にして、日差しが眩しいからと目を瞑る。川面のキラキラのように、銀さんの髪もそよ風に揺れてキラキラしている。



「こんなこというと、銀さんは嫌がるかもですけど、」

「ん?」

「わたし、銀さんのこと尊敬してます。」



最初の出会いこそは最悪だったけど、一緒に過ごす中で、銀さんのことを割と本気ですごいなって思うことが多々ある。この人の中にあるまっすぐな芯が羨ましいと思う。自分をしっかり持っていて、他人をしっかり見ることができる人なんて、そうそういない。これは決して妬みではなくて、羨望だ。私も、そうなりたいと願う羨望。



「…だから、銀さんのこともっと知りたくなったんです。何度も一緒に呑んでるけど、あんまり銀さん自身のことは知らないなって、思ったから。だから今日こうして銀さんのこと、」

「俺のなに知りてーの?」



話してる途中で突然銀さんは私の手を握ってきた。驚いて銀さんの方を見ても、寝転がって目を閉じたまま。片方の手だけがしっかりと私の手を握っている。



「…なんでも、好きなもの、嫌いなもの、苦手なもの、…普段何してるとか、そういう他愛もないことですよ。」

「スリーサイズは?」

「いちばんいらないですね。」



お前になら特別に教えてやんのに、って言われて思わず吹き出した。私は握られっぱなしの手に力を少し込めて握り返した。



「…お前さ、それって…さっき言ってた、尊敬なんちゃらの意味でそれ言ってる?」



そう言って銀さんはゆっくり目を開けて上体を少し起こし、私の顔を下から覗くように近づいてきた。



「それとも、違う意味で俺のこと、知ろうとしてくれてんの?」



だんだんと近づいてくる銀さんの顔は、看病しに行った時のような、お風呂場でそっと耳元で囁かれた時のような、そんな感じの、なんだか普段と違う銀さんで、私は咄嗟にそのことを思い出し、近づく銀さんから身を引こうとしたが、



「無自覚?」



銀さんの方が動きが早く、一瞬にして自分の視界が真っ直ぐ自分を射抜くような、赤い目の銀さんに覆われた。



「あっれー、そこにいるのは旦那じゃねーですかィ。そこでなにやってんです?」



銀さんとの距離に一瞬息をするのも忘れていた私の背後から、聞き覚えのある声がまぁまぁな大きさでして、私は驚くように銀さんの視線から目をそらし、そのまま握られていた手もバッと離した。



「…総一郎くんこそ、そこでなにやってんデスカー。」

「総悟でさァ。」




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