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ようこそ三日月堂へ!

万事屋とはいったい何なのか。

第74話

ごはんを食べ終え、片付けも終えたところで居間に戻ると、銀さんはいつもの怠そうな目でテレビを見ていた。私も向かい側のソファーに腰を下ろして同じくテレビを見る。バラエティ番組から楽しそうな笑い声が聞こえる。



「…送ってやれねーし、外が暗くなる前に帰れよ。」

「分かってますよ。じゃあ、そろそろ身体拭きましょうか。」

「何ちょっとその発言、なんかヤラしくない?」

「全くもって下心ないんで、気持ち悪いこといわずに服脱いでください。」

「気持ち悪いって真顔で言うのやめてくんない?ていうかなんで恥じらいないの!?」

「え?銀さんはまさか恥じらってんですか?それで最初嫌がってたんですか?え、銀さん、嘘でしょ?」

「お前は俺を何だと思ってんの?」



俺はどっかのゴリラと違って裸族じゃねーんだよ、とかなんとかぶつぶついいながら銀さんが上の服を脱ぐ。私はその間に風呂場にいって桶に湯をいれてタオルを用意する。用意ができたところで、それらをもって居間に戻ろうと後ろを振り向くと、扉にもたれかかってこちらをみている銀さんと目があった。



「び、…っくりした〜…」

「俺がこっちにきた方が早いんじゃね?と思って。」

「…確かに。」

「ん、じゃあ…頼むわ。」



そういって銀さんは浴室内のバスチェアに座った。確かにわざわざ居間じゃなくて、ここでした方が効率はいい。私は手に持っていた桶とタオルを足元において、銀さんの背後に立った。



「…包帯、外しますね。怪我の部分のガーゼはどうしますか?張り替えますか?」

「いや、ガーゼはいい。医者にも数日はこのまんまでって言われてるし。」

「りょーかいです。」



じゃあ、包帯外しますねと一言声をかけてから、銀さんの身体に触れる。どれくらい痛いのか想像がつかないが、なるべく痛まないようにゆっくり、丁寧に外していく。時々、ふたりの前にある鏡で銀さんの表情を盗み見るが、痛がってる様子はなくて安堵する。



「(…自分でやるっていっといてあれだけど…なんか、ちょっと、ねえ…。)」



さっき、なんで恥じらいないの!?と銀さんはいっていたが、恥じらいがないわけがない…!!銀さんとはいえ、男の人だ。男の人の裸なんて見慣れてるわけがないし、こんな風に触れたことだって、…これまで一度もないのだ。



「(…すごい筋肉…と、…傷。)」



ここだけの話、銀さんが居間で上の服を脱いだとき、あまりの筋肉質の身体にちょっとだけ驚いて、そしてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ見惚れてしまった。本人にいえば調子にのるので絶対に言わないが、日ごろのダメダメっぷりと、極度の甘いもの好きからは想像がつきにくい、しっかりとした身体だと思った。そう思った瞬間、不謹慎ながら顔が火照るのがわかり、慌ててバレないように風呂場へと逃げたのだった。けど、こうして間近でみてみると、いくつも小さな傷があることも分かった。



「…背中、拭きますね。」

「おー。」

「痛かったら手あげてください。」

「それ歯医者のやつじゃん。あいつらさぁー、こっちが正直に手あげても、え?痛くない痛くない!これくらい我慢してくださいねーとかいって、」

「はいはい。」



急にこどもみたいに歯医者について悪態をつく銀さんに呆れながら、背中にゆっくりタオルをあてて拭く。大きな背中は一度では拭ききれず、何度もゆっくりタオルを動かす。



「聞いてんの?名前チャン。」

「一応、耳はついてるんで。」

「聞き流してるってことですか、ソウデスカ。」



背中が一通り拭けたところでタオルをいったん桶にいれて洗い、絞りなおす。それを銀さんに渡して、背中以外のところを拭くよういい、リビングに置き忘れてきた包帯を取りに行ってきますといって、私は浴室を出た。銀さんはそれでもまだ歯医者さんの悪口をいっている。どんだけ歯医者嫌いなんだ、このひと。





「真選組は仕事上、危険と常に隣り合わせなのは分かるけど、万事屋もそうなのかな。」



リビングに戻り、包帯を探しながらつい独り言が漏れる。万事屋が日頃請けている仕事といえば人助けが主なもので、ペットや人探しが多いって聞いていたけど、たまに聞く大きな依頼っていうのは、今回のような危険を伴う類のものかもしれない。そういえば以前、スナックお登勢で呑んでいるとき、お登勢さんが言っていた。こいつらは面倒ごとが好きなバカたちで、そういうバカたちはそう簡単にくたばらないもんなんだよって、笑っていたっけ。



「あれ、そういえば土方さんも同じようなこと言ってたっけ…?」



そうだ、初めて土方さんと銀さんが知り合いだと知った日に土方さんも、あいつらすぐ厄介ごとに首をつっこむからと言っていた。



「万事屋って…なぞ。」



今度機会があれば、これまで万事屋はどんな仕事をしてきたのか、ちょっとだけ聞いてみようかなと思いながら、私はようやく包帯を見つけ風呂場へと戻った。





「拭けましたー?」

「おー、さっぱりしたわ。」



サンキューと言って銀さんがタオルを渡してきたのでそれを受け取る。ついでに、タオルと一緒にいま着ている服も洗濯機で回して帰るので、部屋に戻ったら着替えてくださいねというと、銀さんは俺の裸だけならず、パンツまでみるだなんて名前ちゃんは破廉恥ね!と謎のおねぇ言葉で茶化してきやがったので、ついイラっとして悪態を吐いてしまった。



「…おっさん臭いんで柔軟剤たっぷり入れておきますね。」

「え?嘘ォォォォ!?!?!え!?俺もう加齢臭すんの!?マジで!?そういや神楽のやつも、銀ちゃんの枕臭いアル〜とか言ってたけど、あれ冗談じゃなくてマジなの!?」



これが思いのほか打撃が強めだったようで、銀さんは慌てた様子で鏡越しの私に、マジで!?本気!?俺、臭いの!?いまも!?と必死に否定を促してくる。ここまで焦っている姿をみると、少し哀れにも思えて、謝りたくなってくる…。



「いや、ついイラっとして言っただけで、本気で思っては…、でも枕はちょっと、一緒に住んでる神楽ちゃんが言うんだから…まぁ…どっちかっていうと、こっちがマジですか?って聞きたいくらいですよね。え、マジですか、銀さん。」

「分かった。名前ちょっと嗅いできてくんない?」

「バカですか、絶対に嫌です。」



心底嫌な顔をしながら、頭を抱えて項垂れている銀さんを鏡越しに見やる。…別に、加齢臭がするような年でもないし、不潔なわけでもない。気にしすぎなような気もするが、何か思いあたる節があるのだろうか?とりあえず、妙に居た堪れない気持ちになったので、フォローはいれておこうと思う。



「あの、まぁ…なんていうか、少なくともわたしは銀さんの傍にいると甘い匂いがしますよ。」

「は?」

「なんだか甘い匂いがするんですよね、いつも。銀さんってわかる、甘い匂い。」



いちご牛乳とかパフェとか、そういう銀さんが好きな甘い食べ物の匂いじゃなくて、なんていうか香水のような、説明しづらいけども、確かに銀さんってわかる不思議な甘い匂いがしますといって、これがフォローになっているのかどうなのかわからないが、前に思ったことをそのまま言いながら、目を瞑って冗談で鼻をひくひくさせると、突然グイっと腕を引っ張られた。



「っ…!!!」

「お前も…名前も甘ェ…うまそうな匂いするけどな。」



腕をつかんだまま、胸元に私を引き寄せ、耳元で囁くようにそういった銀さんの声は、浴室の音響環境のせいなのか、それよりもこの密着度のせいなのか、いつもより低く脳に響くような感覚がして、私の思考が一瞬にして停止した。



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