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やすらかな日常のひとときを

第68話

ふと目が覚めて横を向くと、愛らしい寝顔をした神楽ちゃんがいた。布団はひとつで、その布団に潜り込むように私のそばで寝息を立てている。わずかにひらいた口が無防備で、私はクスッと笑いながら、彼女の肩までそっと布団をかぶせた。



「…(まあ、なんで隣に神楽ちゃんがいるのかは謎だけど。)」



なるべく神楽ちゃんを起こさないように、そっと布団を出て部屋の襖をあけると、ソファーには、だらしなく足を放り投げてソファーで寝ている銀さんがいた。居間の掛け時計をみやると、すでに時刻は昼前。まさか、こんな時間まで自分が他人家で眠りこけていたとは…。



「あれ、名前さん、起きたんですね。」

「おはようございます…、新八くん。」

「はい、おはようございます。連絡ありがとうございました。事情は分かったとはいえ、ちょっと心配だったので、朝方に神楽ちゃんとふたりで帰ってきたんですよ。」



酔った天パ野郎が何しでかすかわかりませんし。そういって新八くんは、邪魔なものをどかすかのように、放り出された銀さんの足をバシっとちりとりの柄で叩いた。



「外掃除?」

「はい、毎朝の習慣なんです。このあと部屋を掃除するんですけど、たぶん銀さん起きないから、先に朝ごはん、いや昼食の用意しますね。」

「ごめんなさい、こんな時間まで眠ってて…あ、昼食の用意は手伝うよ。」

「ありがとうございます!」



昨日の晩、土方さんたちが帰ったあと、銀さんは土方さんの話には触れず、呑みなおそうといって酒を浴びるように呑み続けた。酒盛りは深夜遅くまで続き、銀さんがようやく酔いつぶれたあと、いつものことだと言わんばかりにお登勢さんとたまさんが、二階の家まで銀さんを運んでくれた。自分もタクシーを拾って帰ろうとしたが、この時間はタクシーも走っていないからと、お登勢さんは慣れた手つきで寝室に布団を引いて、泊まっていきな。もちろん、酔った勢いで銀時が何かしてきたら大声を上げるんだよと言って引き上げてしまったのだ。

残された私はさすがに家主に断りもなく泊まるのは…と思ったが、自分も銀さんに付き合って酒を呑み、酔って眠たかったので、せめて新八くんにはとメールで泊まらせてもらう連絡をいれて、眠りについたのだった。



「帰ってくるなり神楽ちゃんたら、眠っている銀さんを一発殴ってから、すぐ名前さんのところにいって、何もなかったことを安心するかのようにそのまま隣で眠っちゃって。驚きましたよね。」

「うん、そうだね、でもあまりにも可愛いからすぐ受け入れちゃった。え、ていうか殴った?神楽ちゃん、銀さんのこと殴ったの?それ、大丈夫?」

「しばらく悶えてましたけど、そのあとすぐイビキかいて寝てたんで問題ないです。」

「すごいね、万事屋の絆。」



当たり前のように話す新八くんに苦笑しながら、一緒に台所にたつ。何を作るのかと聞けば、気まずそうに新八くんはたまかごかけご飯と口にした。…本当だったんだ、よろず屋の主食、卵かけご飯。



「冷蔵庫、覗いてもいい?」

「なにもなくて…」

「たまごのストックの多さすごいね。んーっと…ああ、でも調味料はちゃんと揃ってるし、野菜も少しあるね。」

「…姉がああですから、僕が日頃、家でもここでも料理するんですけど、簡単なものしか作れなくて。もっとふたりの健康面を考えたら、僕がしっかりしなきゃとは思うんですけど…。」



そういって新八くんは申し訳なさそうにメガネをくいっと押し上げた。新八くんの年齢を考えたら、十分すぎるほど家事一般やれていると思うよとフォローするが、新八くんは、これまで何度も不器用さからバイトをクビになっている経験を、自傷気味に話してくれた。



「不器用だろうとなんだろうと、やろうとすることが偉いんだよ。しかもそれが人のためなんだから、立派だよ。料理は失敗して成功するもんだし、慣れていくものだから。わたしも、うまいわけじゃないけど、最低限のスキルはあるし、よかったら教えるよ。」



そういって新八くんの肩をポンっと優しく叩くと、新八くんは照れたように笑い、ありがとうございますといった。ちょうどそのとき、襖が大きくひらく音がしたので、台所から居間に顔を出すと、寝ぼけ顔の神楽ちゃんが目をこすりながら立っていた。



「名前、どこアルかぁ…?」

「おはよう、神楽ちゃん。」



神楽ちゃんも起きてきたし、パパッと昼食をつくって、銀さんも起こして、みんなでご飯を食べよっかといえば、神楽ちゃんは目をキラキラ輝かせながら、名前の料理が食べれるネ!といってぴょんぴょん跳ねた。その音に居間の端っこで寝ていた定春も起きてしまい、大きなあくびをして、銀さんを踏みつけながらこっちに近寄ってきたので、私は定春にも、もふもふしながら、おはようと声をかけた。



「(にしても、みんな家主への扱いがすごいな。)」



定春に踏まれてもなお起きない銀さんを少し心配しながら、私はどうせ二日酔いでまともにご飯も食べれないであろう銀さんのために、限られた食材でご飯を作り始めることにした。





お昼ご飯は、昨日総悟が食べていたのをみて自分も食べたくなった親子丼、にしたかったが、鶏肉がないので、たまねぎときのこだけのいわゆる玉子丼を新八くんと神楽ちゃんに、二日酔いの銀さんにはたまご粥を作った。いつも卵といえば、たまごかけご飯だったよろず屋の食卓には、これが珍しいのか、みな驚いてそしてがっついて食べてくれた。



「そういえば新八くん、ここから近いスーパーってどこ?」

「そうですねー、ここからだと大江戸マーケットで、僕が買うのはいつもそこです。」

「今日、祝日だけど、安い?」

「はい!祝日でも月曜日特価のたまごは安い日ですよ!!」

「いや、たまごはまだいっぱいあるから…。それよりもよかったら、一緒にスーパーいく?その時に食材選びながらレシピいくつか教えれると思うけど…。」

「いいんですか!?」

「うん、仕事も休みだし。神楽ちゃんもどう?」

「行くアル!!」



それじゃあ決まりだねといって立ち上がり、食べてすぐ寝転がっている銀さんに目配せすると、銀さんはいってらっしゃいと手を振った。



「銀ちゃんは行かないアルか?」

「俺ぁ、二日酔いで動けねーからな。」



ガキどもで楽しんでこいやといって、銀さんはそのままジャンプを読みはじめた。私は身支度をさっと整え、二人に行こうかと声をかけて、銀さんにはまた連絡しますねといって万事屋をあとにした。





ふたりとこうして出掛けるようにいってくれたのは銀さんだった。昼食を食べ終え、後片付けをしているときに、そっと銀さんが耳打ちしてくれた。昨日のこと、もしガキどもにも話してぇなら外に連れていって話してこい、と。咄嗟のことに、なにも昨日の今日に…と思ったが、このままズルズルと、また言えないまま、嘘を通し続けるのは辛くなるだけだろうと銀さんが後押ししてくれた。そして、大丈夫だから、とも。私はその一言に力強く頷き、ふたりに話す決心をつけたのだった。



「これだけ買って出費はこれだけって、すごいですね…しかも一週間の献立、ほとんどできてるなんて…。」

「まあ、食べる量に気を付けないとすぐなくなるけどね。それに万事屋は収入が安定してないから、来週も同じように買い物できるわけじゃないと思うし、得なときに買っておいて、ある程度は冷凍保存しとおいたらいいよ。」

「酢昆布もいっぱいアル!」

「それは名前さんに奢ってもらったんでしょ、ったく神楽ちゃんたら。」

「いいのいいの、酢昆布くらい!(何百円…)あ、ふたりともあそこのベンチに座ってて!荷物も重たいでしょ?」

「あれ、名前さんは?」

「すぐ戻ってくる!」



そういって、ふたりに荷物を預けて、私は近くのクレープ屋さんに小走りで向かう。本当はどこかお店にはいってと思ったが、自分がこれから話すことを考えれば、周囲に人がいるのは気が引けた。けど、今日は天気もいいしスーパーと万事屋のちょうど間くらいにあるこの公園なら、ゆっくり話せると思い、ちょうど近くにあるクレープ屋さんに立ち寄り、ふたりにご馳走しようと思い立ったのだ。



「すみませーん、これとこれ、あと、これ。三つ、クレープください。」

「はーい!」



注文して出来上がりを待っているあいだ、遠くのほうでサイレンが聞こえた。そのサイレンの音で昨日の土方さんの言葉がふと思い出される。



「高杉…って誰だろ。」



確かにあの一言で銀さんの雰囲気が変わった。表情は見えなかったが張り詰めた空気が確かにそこにあった。自分に関係ないことならば勝手に首をつっこむわけにはいかないが、どうやら自分に関係ないこともなさそうだ。だからこそ余計に気になる。

「高杉って、あの高杉だろ?どうりで昨日から町が騒がしいわけさ。」



クレープを焼いていた若いお兄さんが、私の独り言にそう答えると、レジ打ちをしていたお姉さんも、今日も朝から真選組がこの辺をウロウロしているものねぇと相槌をうった。



「…その人は…犯罪人ですか?」

「あれ、お姉さんはこの町の人間じゃねーのか?」

「あ、いえ…近くに住んでいますが、そのへんの情報に疎くて…」

「高杉は過激の中の過激、過激攘夷一派の頭だよ。穏健派の桂とは比べものにならねぇくらい恐ろしいってはなしだ。」

「以前、将軍様もいらした祭りにテロを仕掛けようとしたこともあったものねぇ…。」

「ああ、ありゃあ未遂に終わったが新聞で知ったときにはさすがに肝が冷えたよ。」



なるほど。それで真選組は一昨日も昨日もバタバタしていたのか。土方さんと総悟の緊急出動命令も、きっとこの高杉とやらに関係していることを知り納得する。でも、どうしてそんな危険人物が銀さんと関わりあるのかは、さすがに繋がりがみえなかった。



「お待たせしました〜!はい、クレープ三つね。」

「あ、ありがとうございます!」



いろいろ教えてくれた店主さんたちに再度お礼をいい、私はふたりが待つ公園のベンチへと急いで戻った。

その間も、サイレンの音はずっと鳴りっぱなしだった。



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