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ようこそ三日月堂へ!

全てを話すときがきたようだ。

第64話

「心配かけまいと思ってついた嘘なんだろーけどよ、そんな心配こそいらねーんだよ。お前がなにしようが、心配しないやつもいりゃあ、なにしても心配するやつはいんだよ。」



心配する側の勝手だ勝手、そういって銀さんは面倒くさそうに耳をほじくりながら、足を組んだ。その動きに少しだけ張り詰めていた空気が緩んだ気がして、私は涙を拭った。それでもこみ上げてくるものがあって、なかなか口が開かない。



「心配されんのが迷惑だってんなら、話は別。無理強いまでする気はねーよ。…けどよ、なにか悩んでることがあって、お前はそれを俺に話したいんだろ?前に言ってた、聞いて欲しい話があるって、そういうことだろ。」

「、っ…」



約束を覚えてくれていたんだと思うと、さっき拭ったはずの涙がまた出てくる。そしてますます嘘に対して罪悪感が生まれてくる。私には、これから先、平気な顔をして嘘を突き通す自信なんてものはこれっぽっちもなさそうだ。大切な人たちと距離が縮むほど、楽しいことがあればあるほど、ひどく辛い気持ちになることにもう耐えれそうにもないことに気付いてしまった。



さっきまでだって、総悟といて楽しかった。総悟の知らない一面を知れて嬉しかった。土方さんとだって、一緒に仕事をしながら他愛もない話をして、美味しい大福を買ってきてくれたその優しさが嬉しかった。近藤さんも山崎さんも、私なんかに優しくしてくれて、本当に嬉しかった。



新八くんと神楽ちゃんだって、お妙さんやお登勢さん、深月さんたちやお店の常連さん、そして銀さんだって。みんな優しくて、いつのまにか私の周りにはたくさんの優しい人たちがいて、それが嬉しくてとても幸せなのに、その分辛くもなるなんて、おかしな話だ。



いつだって私の心はアンバランスで、それを必死に保ってきた。それなのに、いまこの人はそれを"分かっていて"崩そうとしてきている。それは面倒なことに違いないのに、どうしてわざわざ、



「どうし、て…」

「…全部、ってどれだけのもんかわかんねーけどよ、それでも俺で受けれるもんはよ、…全部受け入れてやる。約束忘れてんじゃねーぞ、コノヤロー。」



そういって銀さんは私の頭を少しだけ乱暴に叩いた。ああ、この人はやっぱりどうしようもない人たらしだ。最初からそうだった。面倒見のいい、人たらしだ。



今が、話すときなのかもしれない。



「約束、覚えてますっ…忘れるわけありません…だから、だから銀さん…今からわたしの話、終わりですっていうまで…何も言わずに聞いていてください。終わったあとに、いくらでも答えますから…」

「…ああ。わかった。改める必要もねー、このままで、話せるところまで話せ。」



そういって銀さんは乱暴な手を優しい手にかえて、私の頭を数回撫でて手を離した。そしてそのまま前を向き、私が話しやすいように、そっと私から視線を外した。

私はゆっくり何度も何度も深呼吸を繰り返し、まずどこから話そうかと頭を巡らせた。話してもいいんだろうか、怖がられたり、気味悪く思われたりしないだろうか。そもそも本当に話をしていいのだろうか。

なんて不安は、もう私にはなかった。



受け入れてくれるといった、この人の言葉を信じて。



「深月さんたちに救っていただいた一年前、…わたし、気が付いたら三日月堂の前にいたんです。それまでどこにいたか…、覚えていない、記憶喪失だってことにしていますが、本当は一応、…覚えているんです。…でも、わたしの記憶は…事細かに話しても、誰にも理解してもらえません。…それは、ここに似て、ここではない、場所というより、世界が、違うところでの記憶だから、です。」



まず、戸籍上、私には他界した父と母がいることになっていますが、どちらも、…知らない名前の方なんです。本当の私の父と母はまだ元気に生きて、いると思いますし、ちなみに兄弟もいます。村山さんの時に少し盗み聞きされてしまいましたが、姉がひとりいます。



でも、戸籍上の自分の名前や誕生日は間違いありません。そもそも、戸籍があること自体が、本当に不思議な話なのですが…。その、さっきも理解しがたいことを言いましたが、私がこれまで生きてきた世界と、ここでの世界は全く"別"なんです。



ここでの生活と、私がこれまで生きてきた世界での生活は、似ているところもありますが、大方違うことばかりです。具体的な例を挙げるとキリがありませんが、特にそれをあらわしたのは、天人と幕府、その存在です。

幕府というものは、似たような歴史が私の世界にもありましたから、"存在"の理解はできました。けど、天人というものは、そもそもの存在がないので、私としては"ありえないもの"でした。

存在しないものが存在することが決定打となり、ここが異世界だと分かりました。

さらにその考えを裏付けるために、私はまずこの世界の"歴史"を学ぶことから始めました。深月さんたちに教えてもらったり、本も何冊か読んだりしてです。

結果は、やっぱり私の知っている歴史はなにひとつなく、知らないことばかりでした。つまり紛れもなくここは異世界で、私はなぜかその異世界にいる、ということです。

とはいっても、その現実を"理解"できても、"受け入れれるか"どうかは別問題なので、しばらくは放心状態でした。けど、…深月さんご夫婦のおかげで、いまこうしてここでの暮らしにも慣れた私がいます。



「…なあ。」

「…終わりましたって言ってません。」

「いや無理じゃね!?!?!?!?どう考えても黙ってられなくね?!?もう口がずっとうずうずしてんだけど!!もうとにかくなんでもいいから喋りたくてうずうずしてんだけどォォォ!?!?」

「じゃあ、続けますね。」

「続けんのォォォ?!?!名前ちゃんちょっと待ってェェェ?!?!」

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