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ようこそ三日月堂へ!

空気が読めません。

第63話

そういえばよ、といって銀さんは万事屋に向かう道中、急に思い出したかのように私の顔を覗いてそう尋ねてきた。

「昨日、ってなに?」

「え?」



さっき沖田くんが言ってたろ、昨日って。そういってこちらの顔を覗き込んできた銀さんから、私は咄嗟に目をそらしてしまった。まずい…。いや、真選組からの依頼で屯所に仕事で行き、いろいろあって帰れずお泊りしただけだであって、そのことは別にまずくもなんともない。まずいのは、



「(嘘、吐かなきゃよかった…!)」



昨晩、銀さんからの電話で心配かけさせまいと吐いた嘘のことだ。まさか昨日の今日このタイミングで銀さんに会うなんて予想外だった。私はその問いになんて答えようかと、この後に及んでまだ小さな嘘に嘘を重ねようとしていた。



「(…それは、よくない。)」



嘘に小さいも大きいもない。ここはちゃんと言おうとすぐ思い改めた私は、小さく深呼吸をしてから、実はですね、と切り出したのだが、銀さんがその前にと言って、くるっとこちらに振り返った。



「なんか買ってくか?」

「へ?あ、こ、コンビニですか?」

「おー。なんもねーから。ここ寄っていこうぜ。」



そういって先にコンビニ入っていく銀さん。私は突然の銀さんの行動に呆気にとられながらも、あとでゆっくり、それこそ万事屋についてから、きちんと話そうと思い、そのまま口を閉ざしてコンビニへと入った。



「…神楽ちゃんたちは?」

「今日はお妙のところ。仕事もねーから遊びに行ってんだよ。」

「ああ、それで銀さんはパチンコ屋に?」

「散歩だよさーんぽ。散歩がてら仕事探してんの、俺は。パチ屋にだって依頼はあるかもしれねぇ。どこにあるか分からねぇ依頼を俺は自らの足で、」

「はいはい、そーですか。」



分かりやすい嘘を適当に流しながら私は適当にお菓子をカゴに入れていく。神楽ちゃんたちがいないとはいえ、人様の家にお邪魔するのだ。何か手土産くらいは持っていかないと。あ、ついでにジュースも買っていこうとドリンク売り場の方へ移動すると、銀さんが両手にいちご牛乳を持って、これもーといってきた。いや、これもーじゃないです。



「ご自分で買わないんですか?」

「え?買ってくんねーの?」

「…今回はお邪魔するので買いますけど、普通なら買いませんからね。」

「おー、とりあえずアイスもいい?」

「聞いてます?」



コンビニに寄ろうと言いだしたのは、このためか!なんて小賢しい男だ!と増えていくカゴの中身をみながら悪態をつく。お菓子は軽いとしても、ジュースは重たい。そろそろ片手で持つのが限界になってきたので、両手で持とうとすると、銀さんがあ、悪ぃといってパッと私の手からカゴを奪い取った。



「アイス選ぶのに夢中になってたわ。俺、これね。名前は?」

「あ、ありがとうございます…。私は、…これで。」

「抹茶?チョコじゃねーの?」

「チョコも好きですけど、今は抹茶気分です。銀さんは、いちご牛乳といちごみるくアイスですか?」

「おう。極上の幸せだな。」



なにそれ、安い幸せだなぁと小さく笑えば、銀さんもうるせーと笑いながらついでだ、ついでといってビールまでカゴにいれだしたので、それはさすがに止めた。買うなら、ご自分でどうぞ、です。



「…お前さぁ、ご自分でって、」

「すいませんすいませんすいません!!!!本当にすいません!!!」



そういって偉そうにしておきながら、いざレジに並んでから、大きな失態に気がついた私。そ、そうだ…財布なかったんだった…!本日二度目の失態に青ざめ、あわてふためいたが、隣にいてくれた銀さんがすぐに状況を理解してくれて、支払いを済ませてくれた。ニタニタと笑って文句言いながらだけども。支払うお金持ってんじゃん!と思わなくもないけど!でも文句なんて言えるはずもなく、私は店員さんにも銀さんにも平謝りをしながら店を出た。






「お邪魔しまーす。」



そうしてコンビニで大量の買い物を済ませたあと、万事屋までの距離はわずかで、あっという間に着いた。居間にあがるなり、銀さんが買ったものを冷蔵庫に入れてくるわーといって台所に引っ込んでしまったので、とりあえず適当に座ることにした。部屋をぐるっと見渡して、定春もいないことに気が付く。そっか、もふもふしたかったの定春もお出掛けかぁ。…あれ?ってことは、いま、もしかして



「…え、銀さんとふたりっきり?」

「どうした?」

「べっ?!?!」

「べ?」

「べべべ別にっっ!!し、静かだなぁと思いまして!」

「ガキ共がいねぇからなぁー。っしょと、んじゃいちご牛乳いただきまーす。」

「あ、はいどうぞ…。」



台所から戻ってきた銀さんから手渡された、さきほどコンビニで買ってもらった飲み物を冷静さを装いながら受け取ると、銀さんは特に気にする様子もなく隣に腰を下ろした。



「…(よかったさっきの独り言、聞かれてないみたい…。)」



そうだ、ふたりっきりだから、なんだっていうんだ。自分の店や家で何度もこれまで銀さんとふたりっきりになっているじゃないか。それなのに、何を今さら。でも、なんで…なんで、隣に座るのこの人。



「(いや向かい側が銀さんの定位置じゃなかったっけ?前もそこに座ってたし、一応来客の定位置っぽいところに座ったつもりなんだけど…。)」



ふたりしかいないのだ。座るなら明らか向かい合ってだと思うのだが、なぜか銀さんは隣に座った。おかげで緊張が増してさっきから鼓動がうるさい。それは決して顔を赤らめる緊張ではなくて、さっきから薄々感じていた



「(ちょっと重たい空気のせいだ…。)」



やっぱり気のせいじゃなかった。ここに来るまでの道中、いつもの銀さんのようでちょっと違う気がするなと思っていたのだが、それが今まさにひしひしと感じるこの謎の空気。最初会った時、それこそ万事屋に行こうとなった時は、そんなことなかったと思うのだけど…。



「…で、さっきの質問だけどよォ。」

「あ、」



そうだった、万事屋についたら話そうと思っていたんだった。私は謎の重たい空気の中でさらにこんなことを話すのは気が引けたが、私は昨日の夜、電話をもらった時のことをまずは謝った。嘘をついていました、あの時、寝るところではなく、真選組の屯所にいました。それからなぜ、屯所にいたのか、どうして帰れなくなったのかという経緯もゆっくりと説明を続けた。



「…心配かけると思い、咄嗟に嘘を…すいません…。」

「おまえねェ…。」



銀さんは大きくため息をついて、ソファーの背に腕をのせ、首を仰け反らせてもたれかかった。その腕が自分の肩に回されているかのような距離の近さに、つい背筋が伸びる。ああ、これは説教パターンだろうか。



「…俺が昨日ってなに?って聞いた時のあの顔よ、顔。もう悪いことしてバレちゃったこどもがする顔だよあれは。ああ、こいつ俺になにか言えねぇことやったな。隠してんなって、バレバレなんだよ名前チャン。」

「…はい。」

「見て見ぬフリしてやってもよかったよ?銀さん大人だからね、その辺の距離感?てーの?見極めつーのは、できるワケ。」

「はい…。」

「でもよ、嘘つくの下手とか上手とか、んなもんじゃなくて、お前が何かを隠していきたいんなら、もっと強くなきゃいけねーんじゃねーの?」



わかる?と念を押すように銀さんは私の顔をじっと見つめてそういった。…強く?



「辛そうにされるとこっちは見て見ぬフリできねーんだよ。」



そう銀さんに言われた瞬間、なにがスイッチとなったのか。私はその一言に驚いて目を見開き、そして堰をきるように涙が溢れた。

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