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ようこそ三日月堂へ!

デートの定義とは。

第62話

「次はどこに行きやす?」

「えっと、そうだねぇ…。」



書店を出て適当にぶらつきながら総悟がそう尋ねてきた。私がどこに行きたいだろう?と悩んでいると、隣で総悟が小さく舌打ちしたのが聞こえた。え!?まだ数秒しか悩んでないけど!?そんなすぐ答えなきゃダメなの!?と驚いて総悟を見やると、総悟が違ェといって、顔を小さく前方のほうに振った。なに?と思って、私も前方を見やると見覚えのある顔がこちらに歩いてくるのが見えた。



「あ、」

「ん?おー、名前……ハァァァァ!?」

「旦那ァ、こんなとこでなにやってんでさァ。」



いつもと同じくやる気のない顔で前方からゆったりと歩いてきたのは、銀さんだった。銀さんは私に気づいたあと、隣にいる総悟にも気づき、ひどい驚きをあらわにした。



「ちょ、なんで、お前ら一緒にいんの?え?てか総一朗くん、私服ってなに、仕事じゃねーの?!」

「今日は休みでさァ。」

「名前もなんで着物!?」

「あ、たまたまちょっと着る機会があって、」



何をそんな慌てているのか、銀さんは私と総悟を交互に指さしながら質問を繰り返す。そういえば着物姿を銀さんに見せるのは、この前神楽ちゃんと着た時以来で、自然とあの時の銀さんの言葉まで思い出してしまった。そのせいで何となくむず痒いような気持ちになり、私は無意識に着物の皺を伸ばすようにささっと整えた。



「いやいや、待て待て待て、なにこれなんの絵面?なに二人して、どこ行くの?」

「デートでさァ。」

「「デート!!??!?!?」」

「…旦那が驚くのも無理はねーが、なんでおめぇも驚いてやがんでィ。」



そういって総悟は自分の肩で私の肩をこつんと当ててきた。いや、だってまたその単語が総悟の口から出てくるだなんて。もしかしたら聞き間違いだったかも、私だけが変に意識しているものなんだって思っていたのに。やっぱりこれはデートだったのか!と、内心ひとりパニックになっていると、銀さんはますますわけが分からないと口元を引きつかせた。



「…んじゃ、旦那ァ、俺らはそろそろ、」



そう総悟がいうと同時にピピピピと電子音が聞こえてきた。総悟はなんでィといいながら、自分のケータイを取り出した。どうやら総悟のケータイの着信音だったらしい。



「…なんでィ土方コノヤロー死ねさようなら。」



物騒な言葉、それも名指しで電話に出たことから、着信の相手は土方さんなんだなと、横目で総悟を確認していると、銀さんが私の腕を引っ張り、少し背を屈んで私の耳元に手をあて口を寄せてきた。



「え?マジでなに、その…え?で、ででで、でーと?」

「…デートじゃないですけど、お出掛けは今まで一緒に。」

「デートじゃねーか!!!」

「え、やっぱりデートなのこれ!?!?」

「だからなんでお前が驚いてんだよ!!」



最初こそは小声で話していたのに、だんだん大きくなる銀さんの声に、私もつられて大きくなる。デートですか?はい、デートですっていえるような関係じゃ一切ないのに、デートなんて言えるか!と私が反論したところで、通話を終えたらしい総悟がなにしてんでィといって私と銀さんの間に割り込んできた。



「名前、悪ィが緊急出動命令が出やしてね。」

「え!?ま、また?!」

「…昨日とはまた別でさァ。ただ、昨日みてぇに騒がしくなるんでね、今日はこのまま帰りなせェ。」

「え、でも、荷物…」

「荷物はザキに届けさせやす。」



総悟がいう昨日みたいというのは、おそらく隊総出になり、帰りも遅く、昨晩のような状況になるということだろう。真選組の依頼は土方さんとの約束で来週に持ち越しになっているし、屯所に戻る理由といったら確かにカバンを取りに戻るくらい。それを山崎さんが持ってきてくれるというのなら、戻る理由は確かにない。



「デートの続きはまた今度でさァ。」

「え、」



総悟の言葉になんて返せばいいか分からず戸惑っていると、総悟は気にもせず、そういうことなんで旦那、といって銀さんの方へと振り返った。



「今度は邪魔しねぇで下せェよ。」

「は?!どういうこと!?」

「名前、また連絡しやす。それじゃ、お二人さん。」



そういって総悟は手をひらひらさせながら屯所の方向へと去っていった。その姿が角を曲がり見えなくなってから私は、一体今日の総悟は何だったんだろうと、小さく言葉を漏らすと、銀さんはそれはこっちのセリフだろといって、頭を掻いた。



「おい、またあいつデートだつったぞ。なんなの?そういや、神楽とこの前出掛けてた時もデートだつってたけど、若者の間で、出掛けることをデートって言うの流行ってんの?」

「え?ああ…!そういう感じかも!そういうニュアンスかも!流行ってるのかも!」



そうだ、それだ!銀さんの何気ない一言で、私は救われたかのように納得する。そうだよ、私も前の世界で女友達と出かけるとき、無駄にデート行こうね!とか言ってたもの。仲良しだから、仲良し同士で遊ぶからデート。神楽ちゃんの時もそういう意味だったからこそ、その言葉になにも違和感はなかった。そうか、なんだ。そういう意味で、



「男に対しても?」

「…。」



グサッと刺さる言葉。そう、相手は男だ。女友達じゃない。でも相手が男でも、友達なら、男友達ならそういうことをいうんじゃないだろうか。男友達なんて、いたことがないから分からないけど。



「……いや、まぁ、なんだ、あれだ。…それならすっか、デート。」

「え!?」

「俺と。出掛けるって意味がデートなら、俺と出掛けるのも、呑みに行くのも、デートってことだ、うん、そういう深い意味はきっと……ねーよ。すまねぇな、混乱さしちまって。」

「あ、いえ…。」

「…とになく気にすんな、それよりもほら、行くぞ。」

「え、どこに?あ、というより私いま財布持っていなくて…なので、どこも行けないというか、」



は?財布ないの?そういや、カバンもあとで届けさせるっていってたっけ、と銀さんが不思議そうにいうので、今日は朝から総悟と出掛けていて、ご飯や本を奢ってもらったことを説明すると、あの総一朗くんが?!と銀さんは心底驚き、そのあといやいや、と咳払いをして、あの子だってたまにはそういう人間としていいことを…と何やらぶつぶつを言い出した。



「俺もさっきパチ屋でスったしなー…。」

「…本当、パチンコ屋さん好きですね。」



万事屋の仕事は大丈夫なのかとか、ちゃんと新八くんと神楽ちゃんに食べさせてあげているのかとか、色々なことが心配になり、無意識に溜息をつくと、銀さんはそれなら、といって行くかと前を歩き出した。



「?どこに、」

「決まってんだろ、万事屋だよ。」


そういって銀さんはにんまりと笑った。

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