ようこそ三日月堂へ! |
まさかの未成年のおまわりさん。 第59話 「…いや、待って。なにいってんの?この前焼肉いったときお酒じゃんじゃん呑んで吐いたじゃん。」 「そういう日もあらァ。」 「…あらァじゃないよ!!何してんの!?マジか!未成年か!!」 「心は大人でさァ。」 「そういう問題じゃないよ!なんで警察が未成年飲酒!?しかも土方さんも近藤さんもまさかの容認!?」 「こっちは公務員で立派に働いてんでさァ。年齢が十八だろうと、真選組内では大人なんでィ。」 「……はぁ。」 よくわかるようで分からない理屈だが、真選組内でそれが容認されているなら、私が口を出せることではない。とりあえずそうなんだ、といって納得したところで、いい匂いのするコーヒーが運ばれてきた。 「なーに?総悟くんもそういう子がいたのねぇ、おばちゃん安心しちゃった。」 「え、」 「おばちゃん余計なことは言わなくていいでさァ。」 「うふふ、お二人さんごゆっくりと。」 そういっておばさんは口元に手を当てて、うふふ、うふふふと、何だか意味ありげな笑い方をしながら、カウンターの奥へと引っ込んでいった。なにかよからぬ勘違いをされているような気がしてならないのは、気のせいだろうか。 「…十八って…同じ歳というか近い歳の人とか、隊内にいるの?」 「いねぇ。だいたい二十代後半が一番若ェ。」 「じゃあ、その中で隊長を務めているんだ。」 「おめぇ、俺の役職なんて知ってたのか。」 「ナンパ野郎に絡まれたとき、その人たちが言ってたから。一番隊隊長って。」 ああ、あの時か。といって総悟は、コーヒーに砂糖もミルクもいれず、そのままカップに口をつけた。…ブラックでコーヒーを飲む十八歳。まじか。それに比べて私は苦すぎるものは飲めないため、少しだけ口をつけて、少しだけミルクを足した。 「…じゃあ同年代のお友達っていったら、神楽ちゃんくらいか。」 そういって私はミルクをいれてちょうどいい味になったコーヒーをゆっくり、味わうように飲んだ。そしてカップから口を離し、視線を前に向けると、すごい顔でこちらを睨む総悟と目があった。 「…どういう顔、それ。」 「こっちが聞きてェ。その目はどうなってんでィ。」 「なにが?」 「チャイナ娘と友達なんて、口にするだけでも気持ち悪いこと言うんじゃねーやい。」 確かに殴り合いの喧嘩はドン引きするほど、お互い本気で、仲がいい雰囲気ではないが、でも何となくあの時の総悟は、いつもの総悟とは違うように見えたのだ。それがどういう顔なのかあの時は分からなかったが、いま、年齢を知ったおかげで納得がいった。あの時の顔は、年相応の顔なんだろう。 「お話の最中にごめんなさいねぇ〜。」 そういって再びカウンターから出てきたおばさん。手にはふたつ、トレーを持っている。どうやら頼んでいたトースターが出来上がったようだ。 「とってもいい匂い!」 「そぉでしょー?焼きたてのパンに、新鮮な鶏を使った鶏ごぼうサラダだからねぇ、本当に美味しいのよぉ〜。自分とこの主人をベタ褒めするなんて恥ずかしいけど、でも本当に美味しくって!」 そういって総悟と私の前に降ろされたトレーを見て、その品数に驚いた。メインの鶏ごぼうトーストの他にも、フルーツヨーグルトと小鉢のサラダ、スープまでついている。これはなかなかボリューミーなモーニングセットだ。 「私ら夫婦が食いしん坊だから、トーストだけじゃ足りないだろうって思って、身体にいいように、サラダとヨーグルト、それからスープまでつけてるのよぉ。でも、ほら、最近食の細い子が多いから、残されることも多くってねぇ。メニュー見直しが必要かしらって思っているんだけど…。」 そういって困ったように眉を下げ溜息をつくおばさん。確かに人によっては、トーストだけで足りる人もいるだろうが… 「私は、外食するならこれくらい普段食べれない美味しいものを食べたいと思うので、ちょうどいいです!いつもと違った朝食をお腹いっぱい楽しめるなんて、すごく幸せな気分になります!それに、値段もすごくリーズナブルですし。コーヒーもついてですからね、お店的には大丈夫ですか?ってこっちが心配になるくらい!」 「あはは!そうなのよぉ、もう少し値段をあげないと割に合わないって、経営的には思うんだけども、やっぱり気軽にお腹いっぱい食べて欲しいじゃない?」 「ならおばちゃん、単品売りしたらいいんじゃねーですかィ?」 「単品売りー?」 私も総悟と同じことを言おうとしていた。話している最中も手元のメニューを見ていたが、朝食メニューには単品のメニューがないようだ。単品があれば、トーストとスープ、トーストとサラダだけってその人にあった量で選べる。そうしたら食い残しがなくなるんじゃないかと考えていた。もちろん、値段設定が難しくはなってくるが。 「いいわねぇ!その案、ちょっと考えてみるわぁ!」 おばさんは嬉しそうにそういい、お客さんに変な相談しちゃってごめんなさいねぇといって、その場を離れた。なんだか話し方は違えど、雰囲気がどうも深月のおばさんに似ている。朗らかな、温かい人だ。 「最近、朝食メニューやりだしたから、きっと色々試行錯誤なんでさァ。」 「そうなんだ。わたしたちの意見、ちょっとでも役に立つといいね。」 総悟はそうだねェといって、早速いただきますといって、トーストに男らしく大きな口でかぶりついた。カリッといういい音が聞こえる。そして総悟は、数回咀嚼をしてから、目を見開いて、小さくうめぇと声を漏らした。…自然と出るうめぇだ、それ。絶対に美味しいやつだ、それ! 「い、いただきます…!」 総悟のうめぇに続き、私もトーストにがぶりつく。パンの外側のカリッと、中のふわに驚きながら、鶏ごぼうの食感を楽しむ。ああ、ごぼうが美味しい…!鶏がものすごくぷりぷりで甘くて肉の味が濃厚…! 「美味しすぎるっ…!!」 あまりの美味しい驚きに、噛み締めるようにそう感想を漏らすと、総悟は驚くほど優しい目で、ふっと笑った。 「……。」 なんだ、そんな風に笑うこともできるんだ、総悟って。私はなんとなく、そんな総悟に嬉しくなり、また一口、トーストにかぶりついた。 top | prev | next |