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ようこそ三日月堂へ!

デートってなんですか。

第58話

洗面所で身支度を整え、呼吸を大きく、深くする。総悟は一体なにを考えているのだろうか。さっきからデートという単語がずっと頭の中をぐるぐるしている。もっと他に言い方があるだろうに、なぜその単語を選んだのか。これまでの知っている総悟とキャラが違いすぎる。銀さんなら、普通に冗談で、そういうことを言いそうだけども。相手は総悟だ。全くもって不可解で、思考が追いつかない。



「(…また表情も読めないんだよなー、あのポーカーフェイス。)」



私の知る限り、総悟はあまり表情を顔に出さないタイプだ。いつも年の割には凛々しく涼しげな表情でいて、かと思えば幼いガキのような悪さを楽しむ腹黒の笑みを浮かべる時もある。(この笑みがどれほど恐ろしいものか!)屈託のない笑顔なんて、見たことがないし、想像もできない。そういう人間が"デート"なんていう言葉を口にするなんて、冗談でしかありえない。…と、思うのだが、あの時の表情は、特に悪巧みを考えているような顔ではなかった。



「(まぁ、首輪つけようとしてたけど。)」



冗談なのか、冗談じゃないのか。いつもより増して分かりにくい総悟の言動に今からどれほど振り回されるのかと思うと、また無意識に溜息がもれる。とりあえずいつまでも考えて溜息をついていても仕方がない。私は鏡に映る自分をじっと見つめ、よしっと気合をいれてから廊下に出た。



「あ、」



すると、扉近くで座り込み、ケータイを弄っている総悟に気がついた。総悟の方も、私が出てきたことに気がつき、少し不機嫌そうに遅ェと一言文句を漏らした。まさかここで、私の用意が済むのを待っていてくれたのだろうか。てっきり屯所内のどこかで暇を潰しているのかと思っていたのに…。気にもせずゆっくり準備をしていたことを申し訳なく思うのと同時に、なぜか妙にくすぐったい恥ずかしさがこみ上げてきた。どうしよう。待たせてごめんね、って言いたいのに、どうしてか言葉が詰まる。



「…お、お待た、」

「…おめぇ、これはねーだろ。」



そういって総悟は首を傾げながらこちらに近寄ってきた。そして、何をするのかと思いきや、突然私の背にあるリュックを思いっきり引っ張り、取り上げようとした。



「痛い痛い!なに!?どうした!?」

「着物にリュックは似合わねェでさァ。おめぇ、ファッションセンス皆無か?」

「し、失礼な!似合わないことくらい知ってるわ!」



突然の指摘に思わず声が上擦る。しかも、気付かれたくないことを指摘されが故に、恥ずかしさも増す。くそう、分かってたし!知ってたし!だってさっき、鏡で全身チェックをした時に、自分でもこの黒のリュックがどう考えても着物と合わず、どうしようかと悩んだのだ。だからといって泊まり先でどうこうすることもできず、仕方がなくこのままで行こうとしていた。そう、これは仕方がなくだ。センスが皆無だなんてとんでもない!女としてそこは否定したい!



「一応、ここには仕事で洋服で来たからね!だからこれしかないの!でも、一旦家に帰れば、ポシェットが、」



ある。だから、一旦家に帰らせて欲しいとお願いすると、総悟は何かを考える様子でまた首を傾げ、そして、それなら必要ねぇでさァといって、そのまま前を歩き始めた。



「ちょ、待って!リュック返して!」

「重てェ。」

「それは仕事道具が入ってるから!それに財布とかケータイも!」



そう総悟の背中を追いかけながら訴えかけるも、見事なまでにスルーされる。そしてそのまま何を思ったのか私のリュックを廊下の端にポイッと投げた。



「ちょっとォォォォォ!?!?」

「あ、ケータイはいるか。」

「待て待て待てェェ!!勝手にリュックを開けるなァァァ!!」



出かける前からこの疲労感。私、これから大丈夫だろうか。





「まずは腹ごしらえでさァ。」

「椿さんたちがせっかく作ってくれたおにぎりはよかったの?」



あれはあれで美味しいから夜食用にすでに確保しているという総悟。ちゃっかりしているなぁと思いながら、辺りを見渡す。どうやら町の中心部に来たようだ。

あれから総悟は私のリュックを遠慮なく開け、ケータイだけを取り出し、渡された。財布は?といっても、いらないといって持たせてもらえず、意味が分からないまま屯所を出てきた。道中、勝手にリュックを開けたことの文句や、財布がないと落ち着かないこと、そもそもこれからどこに行くのかと、矢継ぎ早に話しかけたが、帰ってきた言葉は一言。黙れ、だった。

ますます、デートの意味がわからない。



「ここでさァ。」

「…ここ?って、甘味処…だけど。」

「朝食もやってんでさァ。」



町の中心部には商店街に買い物にくるくらいで、この辺をじっくり歩いて見て回ったことなんてなかった。だから、こんなところに甘味屋さんがあったことも、また朝食メニューをやっていることももちろん知らず、私は素直に驚いた。そして、総悟がのれんをくぐり店に入るのに続いて私ものれんをくぐった。


「あ、総悟くん!」

「おばちゃん、適当に席に座りやすぜ。」

「いいよー!今日の日替わりメニューは鶏ごぼうのトーストだからねぇ!」

「へぇ、うまそうでさァ。」



そういって総悟は店内の奥、窓際のテーブル席についた。私もその向かいの席に座り、手渡されたメニューに目を通す。どうやら朝食メニューとして何種類かのトーストがあるようだ。しかも、ドリンクセットには私の大好きなコーヒーもついてくるらしい。



「コーヒーいいねぇ。」

「…ここのはきちんと豆から挽いてんでさァ。」

「やっぱり!さっきからいい匂いがすると思ってたんだよね!そっか、ここ自家焙煎なんだ!」

「どれも美味しいですぜ。」



まずはどの朝食にするのかと尋ねられ、メニューとにらめっこをする。そういえばさきほど、日替わりのメニューが鶏ごぼうのトーストだと言っていたことを思い出す。普通のトーストも、フレンチトーストも美味しそうだが、食べたことがない珍しいその日替わりとやらを頂くことにした。



「おばちゃーん、日替わりメニュー二つ!コーヒで頼みまさァ。」

「はーい!ちょっと待っててねー!」



注文を通してくれた総悟の声に負けないくらい威勢のいい声で返事をするおばさんについ笑ってしまう。元気いっぱいのおばさんに、カウンターの向こう側では物腰の柔らかそうな男性が手際よく動いているのが見えた。



「ご夫婦?」

「そう。仲のいい夫婦で、おっちゃんが軽食、おばちゃんが甘味を作ってんでさァ。」

「へぇ!総悟はよくここにくるの?」

「食堂もうめぇけど、たまにここのトーストが食べたくなるんでィ。それに、むさくるしい男共に囲まれて食うより、断然外の方がいい。」



意外なようでどこか分かるような気もした。だって、総悟はひとり狼っぽい。常に一人の時間を大切にしていそうだ。それにと、思い出す。



「総悟って結局何歳なの?」

「なんでィ、唐突に。」

「ほら、前に私より年下だって言ってたけど、年齢は聞いてなかったから。ちょっと気になって。」



私のことを冗談なのかそうじゃないのか、ババァとたまに呼ぶのだ。それなら総悟は一体、何歳なんだと気にならずにはいられない。



「…十八。」

「…はい?」

「だから十八でさァ。」


おまわりさん、ここにとんでもないことを言ってる人がいます。って、目の前のこの人がおまわりさんだなんて、どうなってるの。



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