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ようこそ三日月堂へ!

気の抜けた顔も素敵だと思う。

第57話

寝れないと思っていたのに、いつのまにか眠っていたようだ。突然、激し開く襖の音に驚いて目が覚め、まだ視線の合わない中でそんなことをぼんやりと思った。



「おーい、朝の挨拶はどーしたんでィ。」

「…おは、」

「声が小さーい。」

「………。」



うるさいなぁもう。そう言いたいのに口は開かず、瞼がゆっくり降りてくる。ダメだ、眠い。というか、どうして一言声も掛けずに、この男は部屋に入ってくるんだろうか。二回めだ、二回め。



「寝んな。」

「いひゃ…なに、すんの、」

「起きろっつてんでィ。出かけんぞ。」



頬を引っ張られながら、そんな文句を心の中で思いつつも、気を抜けばすぐ意識が遠のき、首からこくんと落ちそうになる。しかし、総悟が頬の引っ張っりを強めたことで、睡魔より痛さが勝ち、私は反射的に元の体勢に戻った。



「…ん〜…ひとりでいって、」

「おめぇも一緒にでさァ。」

「…どこに?」

「ちゃんと目開けてから喋れ。」



そういって総悟が急に布団を剥がした。その力強さに私が勝てるわけもなく、小さく溜息をつきながら、仕方がなくという風に体を起こした。



「おはよーさん。」

「…おはよう、総悟。ありがとう、起こしに来てくれて。」

「朝弱いとは意外でさァ。ババァは早起きだって、」

「誰がババァ。」



私がババァという歳なら、近藤さんや土方さんは一体どうなるんだと溜息をつく。朝から総悟のドS攻撃は寝不足だと尚更堪える。



「で、俺の話聞いてやした?」

「…えっと、どこかに行くって。…その前に朝食は、椿さんたちのおにぎりが、」



あるから食堂にと言う前に、総悟がずいっと私の目の前に何かを差し出してきた。これは、着物?



「とりあえず風呂に入ってこれに着替えろィ。」

「あー…ありがとう。」



そうだ、急なお泊りで着替えも持ってないしお風呂も入っていない。土方さんたちが帰って来たらと思っていたのだが、あの騒動の中で忘れていた。



「…あれ、この着物って。」

「まだ返してなかったみてぇでさァ。いいタイミングでィ、着て帰れ。」

「ありがとう!!」



受け取った着物は、数日前、総悟に吐かれ、こっちでクリーニングに出してもらっていた大切な着物だった。深月さんたちから貰ったその大切な着物を受け取った私は、ぎゅっと抱きしめもう一度ありがとうとお礼を伝えた。



「えっと、それでどこか行くの?」

「デート。」

「……はい?」



総悟の口から出てきたその単語に、ちょっとまだ覚めきれない頭が、一瞬にして覚めた。は?え?なんて言った?いや、もしかしたらそういって私を驚かして起こそうと?だとしたら、成功すぎる。



「…め、目が覚めました。」

「そりゃよかった。んじゃ、デート行くぜ。」

「…え、いや目が覚めました…よ?」

「…会話しろ。」



いやいや待って、会話しろってこっちのセリフ。目が覚めたって言ってるじゃん!もう驚かす必要ないんだよ?!と言えば、総悟は心底呆れた様子で、お前バカだろといい、とにかく着替えたら声を掛けろといって部屋を出て行ってしまった。



「…なに、なに企んでるの。」



納得のいかないデートという単語に私を頭を抱えながら、とりあえず布団を畳み、着替えることにした。





着替えが済み、襖の向こう側に用意できたと声をかけたが返事がないため、そのまま部屋を出ると、ちょうど隣の部屋から出て来た土方さんと遭遇した。



「?!お、おはようございます、土方さん。」

「…ん?はよ。」



驚いた。どうやら寝起きの様子らしく、いつも綺麗な髪の毛がボサボサで、ところどころ髪がはねている。それに加え掠れた低い声。いつもビシッとしているだけに、気の抜けた土方さんの姿がやけにレアものに見えた。



「(す、すごいものを見てしまった…!)」

「…寝れたか?」

「あ、はい、いつのまにか。…土方さんは、寝れなかったですか?クマ、できてますけど…」

「……熊だァ?んなもんいねーよ、いたら、…俺が倒してやる。」

「え、いや熊じゃなくて、目の下のクマです。」



冷静にツッコミを入れるが、内心は気が気じゃない。だって、考えたような間があったのに出た答えが熊なんて…!ど、どうしたの土方さんんんん!!??



「……クマな、クマ。分かってるそれくらい分かってる呆けただけだ。」

「…急に朝イチでキャラ変えですか…?」

「うるせせせェェェ!聞かなかったことにしろォォォ!!」



そう叫んで土方さんは乱暴に頭を撫でてきた。よく見ると耳が少し赤い。どうやら目が覚めて、自分の勘違いに気づき照れているようだ。



「(れ、レアすぎるううう!!)」

「なにしてんでィ土方さん、とりあえず死ね。」



そんなレア土方さんを目の当たりにして、どうしていいか分からず、ひたすら心の中でレアだ!レアだ!と、叫んでいると、前方から総悟が歩いてきた。



「お前語尾に死ねってつけるのやめてくんない?そっちこそどーした。今日は非番だろ。お前いつも非番の日は昼まで寝てんじゃねーか。」

「やですねェ、部下の休日まで把握とは。」

「把握したくてしてんじゃねーよ!!」



そう言って土方さんは珍しくこの時間に起きているという総悟に、心底驚いた表情を見せ、そしてさらに外に行くのか?と驚きの声を出した。



「あんた、俺をなんだと思ってんでさァ。俺だって朝から用事がある日だってありやす。」

「あ、ああ、まぁそうだが、」

「で、名前用意できたんだろーなァ?」



急に話の矛先を向けられ私は、とりあえず着替えだけは、と戸惑いがちに答えると、総悟は、それなら風呂に行ってこいと洗面所の方に親指を指した。



「…お前らどっか行くのか?」

「あ、…そう、みたいで。」

「んで、答えが曖昧なんだよ。」

「いや、それがわたしも何が何だかで…。」



そういうと土方さんは、おそらく総悟がまた私を振り回しているのだろうと察し、すまねぇなと、ため息まじりに呟いた。



「名前早くしろィ。」

「あ、うん!…あ、いやいや!待って!思いだした!無理だ無理!!」

「…おめぇ、俺の誘いを断るとはいい度胸でさァ。」

「そうじゃない、そうじゃないよ?!?!」



今にも抜刀しそうな総悟に慌てて誤解を解く。土方さんの顔を見て思い出したのだ。なぜ自分がここにいるのかを。



「昨日のお仕事の続きしなくちゃ!きちんと今日中には買取査定したいの!!」

「…近藤さんが言っていたあの部屋の整理ですかィ?」



そう総悟が土方さんに尋ねると、土方さんも忘れていたのか、そうだったなといって、今日中に終わりそうなのか?と、私に訊いてきた。



「仕分けは昨日で終わってますから、あとは本当に査定していくだけです。物によっては
わたしでは判断しかねるので、そういった場合は持って帰るか、電話で知り合いに聞いたりしますので、時間はかかりますが…」



そこまで言うと総悟は何も今日じゃなくていいじゃねーですかィと、土方さんに言いだした。



「なんなら早めにお前の身柄を解放してやりまさァ。」

「身柄解放?!わたしは一体なにされるの?!」

「……急ぎじゃねぇからな。…行っていいぞ。」

「土方さん?!」



仕事を途中で放棄して出かけていいだなんて、依頼主である副長から許されるなんて驚きのあまり開いた口が本当に塞がらない。



「…ただし、名前も他の仕事があったりすんだろ。」

「え?あ、…はい。」



もちろんこの仕事以外にも他の仕事は山ほどある。仕入れ発注や店の整理、そして請け負っているアルバム制作。もし一日なにも予定がなければこれらを存分に時間を活用して取り込みたいところだ。



「なら、夕方までだ。」

「子供じゃねーんですぜィ。」

「そういう意味じゃねーよ!とにかくこっちの仕事は名前が休みの日、土曜の午後か日曜日でいい。さっきも言ったが、急ぎじゃねぇ。」

「で、でも、」

「何度も言わせるな、急ぎじゃねぇ。日程の指定もこっち依頼側の要望だろ?」

「そう言われると…」



分かりましたと頷くしかない。私は渋々、では来週の土曜日の午後からまた来ますというと、土方さんは少し困り気味に笑って、たぶん今日は疲れるだろうから、帰ってゆっくり寝ろといってくれた。



「…疲れる?」

「……先に謝っておく。」



え、なに。なにの謝罪なんだと思いつつも、自分で心当たりがあったようで、背中がスッと冷えるような気がした。



「じゃあ行きやすぜ、名前。これつけて。」

「首輪は人間につけるものじゃありません!!!!!」



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