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ようこそ三日月堂へ!

大丈夫、怖くなんかない。

第54話

椿さんと仲良くいろいろなお話をしながら食事を終えたあと、私は部屋に戻り、片付けを再開した。椿さんからは、食堂に大抵誰かはいるから、何かあれば申し付けてくれていいと言われている。どうやら椿さんの他にも女中さんたちがいて、今日は泊まり込みで待機しているらしい。



「何かあるのかな…。」



独り言と同じことを、食事中に椿さんに尋ねてみたが、バタバタするかもしれないので…。とだけ返されてしまった。



「…わたしは、わたしの仕事を!よし、やろう!!」



また考え出したら手が止まってしまう。私はだんだん膨らんでいく不安を押し込めるように、目の前の片付けに集中することにした。





「ふぅ〜…いい感じに進んだかな。」



書類と書物の仕分けが終わり、まだ土方さんからの連絡がないことを確認した私は、今度は書物の仕分けに手をつけた。どこまでやれるか分からないが、今日中にこの仕分けが終われば、次回は少し楽になると思い、また集中してひたすらやっていたら、案外この作業も早く終わってしまった。



「…もう少しで日付変わっちゃう。」



ケータイを取り出し画面を見るが着信もメールもない。そろそろ自分の集中力も切れてきた。土方さんに言われた通り、今日は泊まりになりそうだなと思っていると、やけに部屋の外が騒がしいことに気がついた。



「…?あ、あの!!」



何事かと思い、襖を開けて廊下に出ると、丁度走ってきた女中さんと鉢合わせた。私は思い切ってどうしたのかと声を掛けた。



「あ、名前さん!すいませんがしばらくお部屋の方で、決してお部屋からは出ずにお待ち頂けますか?」

「え、」

「これは副長からの命令ですので、すいません…!!」



そういって女中さんは大げさに頭を下げて走って行ってしまった。副長の指示ってなに?その意味がわからずその場に立ち竦んでいると、外の方から大勢の男の人の声が聞こえてきた。夜中だというのに、怒号が響き渡っている。



「!!」



その騒がしさに、瞬時に土方さん達が帰ってきたんだと分かった。その声の方に私も行こうとして、さっきの女中さんの言葉を思い出した。部屋にいろという副長の命令。私は一瞬迷ったが、すぐに言い訳を考えて廊下を走り出した。





「っ……!!」

「名前さん?!」



玄関先に出てきて目に入ったその光景に、私は言葉を失い、無意識に後退りをした。そんな私を見つけた椿さんは、ひどく驚いた様子で駆け寄ってきた。



「部屋に居たのでは?!」

「…これは…?」



私が目の当たりにしたのは、多くの隊士さん達が地面に座り込み、女中さんに怪我の手当てを受けている光景だった。そう、みんな頭や腕、足、身体のあちこちからたくさん血が出ている。



「…大きな討ち入りがあって、みなさん奮闘したようです。…私はこれから手当てに回りますから、名前さんは部屋に、」

「わ、わたしもっ!!!」

「え、」



椿さんが優しく私の背中に手を当てながら、部屋に戻るよう促したのを否定するように、私は大きな声を出した。



「こ、こんなに怪我人がいるなら、わたしも何か手伝います!!」

「そ、それは…」



返答に困っている椿さんにもう一度、お願いしますといって私は頭を下げた。こんなに、こんなにたくさんの人が怪我をしているのを目の当たりにしておいて、部屋に戻れなんて無理な話だ。たとえ、怖くてその声が震えていても、私は覚悟してぎゅっと拳を握りしめた。



「いいじゃねーですかィ、俺も名前に手当てしてもらいてーや。」

「っ…!!!」

「沖田さん!!」



そういって突然背後から現れたのは、総悟だった。その顔を見ると、顔にベッタリと血が付いていて、私は一瞬小さく悲鳴をあげてしまった。



「おい、名前。早く手当てしやがれ。」

「つ、椿さん…!」

「…分かりました。では、沖田さんのことは任せますね。」



椿さんは、しぶしぶといったように了承し、手に持っていた救急箱を私に渡すと、他の隊士さん達の方へと向かっていった。私は我儘を聞いてもらったことを少し申し訳なく思いながら、自分から言いだしたからには、少しでも役に立てるようにと、総悟に向き直った。



「…どこ、怪我したの?」

「見て分かりやせん?」



見て、と言われても顔以外にも、全身べっとりと血が付いているが、総悟からは痛そうや苦しそうなどは感じられない。私が怪我の箇所が分からず首をかしげると、総悟はため息をつきながら、その場に座った。



「…返り血でさァ。」

「な、!!」



驚いた。この血の量が返り血だなんて、どれだけ…と考え出したところで私は慌てて考えることをやめた。そんなことよりも、総悟に大きな怪我がないことに安堵し、頬や手にある小さな傷を手当てすることにした。



「…血、拭いてもいい?」



とはいえ、まずはこの血を拭かないと手当てができないため、私は座り込む総悟の前に膝立ちをし、そう訊ねた。総悟は少し悩んだ末、どうぞ。といって目を瞑ってくれたため、私は近くにいた椿さんに濡れタオルを借り、そっと総悟の顔に触れた。



「…痛い?」

「…いや。痛くはねー。けど、」



そういって総悟はゆっくり目を開き、タオルを持っている私の手首を思いの外強く掴んだ。



「…おめぇが痛そうな顔してんじゃねーや。」



総悟は私の手から乱暴にタオルを奪い取り、そのまま自分で雑に顔を拭きだした。…私が痛い顔なんて、そんな顔していただろうか。



「怖ぇなら無理すんじゃねーよ。」

「え、」

「手、震えてらァ。」



そう言われて初めて自分の手が震えてることに気がついた。それは、きっと無理もない。こんな間近に血を、血に塗られた人を見たことがない。



「…怖ぇって思うなら、近づくんじゃねーや。手当てするなんて、腰が引けてるくせに偽善者ぶってんのかィ?」



…ん?いま、何て言った?総悟の口から出た言葉が理解できず、私は眉を顰めた。えっと、私の耳が可笑しくなければ偽善者って言った?



「ちょ、っとまって、怖いのは認める、認めるけど偽善者ってなに?喧嘩売ってんの?!」



総悟の言葉に苛立ち、つい私は声を荒げてしまった。周りの隊士さんたちが何事かとこっちを見ている視線を感じるが、そんなの今はどうでもいい。そんな私を見て総悟はふっと笑い、さらに本当のことだろと言った。



「本当って何?偽善者ぶってるってこと?んなできた人間じゃないわ!!」

「うるせぇ。」

「うるせぇはこっちの台詞!!」



こいつなんなの?なんで急に喧嘩売ってきてんの?私は苛立ちを抑えるため深呼吸をし、そして総悟が何を言っているのか、何を思ってそんなことを言っているのかを考えた。どうして突き放すようなことを…?どうして拗ねて…拗ねてる…?そこまで考えて、私はそうかと、あることに気がついた。



「…怖いのは総悟じゃないよ。」

「…は?」

「血、血が怖いの。そんな、血だらけになることわたしはないし、なってる人は初めてみたから。そんな、危険から離れたところて生きてきたから。」



だから、怖いのは血であって総悟じゃないと、私はもう一度しっかりと口にした。



「私が怯える顔して、それで総悟を傷つけたなら、ごめん。誤解させた。何回でも言うけど、総悟は怖くなんかない。むしろ、…ありがとう。」

「…なんでィ、ありがとうって。」



「だって、誰かのために何かのために…その刀を握ってるんでしょ。」



私の言葉がどうか、どうかこの目の前にいる、大切な彼に届きますように。



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