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ようこそ三日月堂へ!

整理整頓は定期的に

第52話

土曜日。午前中の仕事を終えた私は、手早く店を閉め、真選組屯所へと向かった。今日1日であの部屋の片付けと買取査定が終わるとは思えないが、なるべく依頼は早く終わらしたい。そう気合を入れながら、屯所の門の前に立つ門番の人に私は声をかけた。



「あの、三日月堂の名前と申します。本日、依頼でこちらに、」

「あ、副長から聞いています。どうぞ、こちらへ。」



そういって門番の一人に案内され、屯所内へお邪魔すると、どこからか威勢のいい声が聞こえた。稽古は朝だけじゃないんだと思いながら歩いていると、先を歩いていた門番の人が振り返り、このまま依頼の部屋に案内しますねと言った。私はお願いしますといって、軽く頭を下げ、後をついていった。





「副長、三日月堂さんが来ました。」

「おー、入れ。」



そう言われた門番の人は、どうぞといって襖を開けてくれた。私はその丁寧な所作に驚きながらも、ありがとうございますとお礼を言って、部屋の中に踏み込んだ。



「…相変わらずの埃っぽさで。」

「お前が来る前に先に空気の入れ替えくれぇはしとこうかと思ったんだがな。」



そういって部屋の真ん中であぐらをかいて座っている土方さんは、申し訳なさそうに眉を下げた。私は苦笑しながら、改めてこんにちはと土方さんに挨拶をし、部屋の中をぐるりと見渡した。



「書類、綴じてないもの多いですね。どれも、一枚ものですか?」

「いや、そうでもないんだが…。その所為で、今日、風が強いだろ。襖開けっ放しにできねーんだよ。」



なるほど、それで空気の入れ替えが出来ないのか。私は事を察し、マスクすれば大丈夫ですよといって、鞄の中からマスクを取り出した。



「用意周到だな。」

「もう何件も出張買取してますから!」



そういってもう一枚マスクを取り出し、土方さんにも差し出すと、土方さんは悪いなといって受け取ってくれた。



「では時間も惜しいので始めましょう!なにかこうして欲しいとかっていう指示はありますか?」

「いや、特に。書類は俺がするからお前は、」

「私は本、とはいっても、書類の間に本があったりしますよ。」

「あー…。」

「まずは一緒に部屋の片付けをしたほうが、きっと効率いいですよ。書類は極力見ないようにしますから、まずは部屋の左側に書類、右側に書物、真ん中にはそれ以外のものを分けましょう!」

「…片付け得意なのか?」

「いえ、ただ綺麗にするのは好きです!」



私がそう言うと土方さんは、そうかといって笑った。そして私が渡したマスクをして、始めるか。といって、立ち上がった。



「はい、始めましょう!!」





お昼に始めた片付け。夕方になるというのに、驚くほど終わらない現状に一つ溜息をつく。隣で作業している土方さんもひきりなしにタバコを吸っていて、片付かないことの苛立ちが伝わってくる。



「あー゛、くそっ!悪いな、査定じゃなくて片付けになっちまって。」

「あはは…とりあえず落ち着いてそろそろ外の空気吸いに行きますか?タバコばっかはよくないですし。」

「そうだな…少し休憩するか。…そういや、お前大体何時まで作業すんだ?今日1日じゃ終わらねーぞ。」



一応、目処をつけて夕方には一旦作業を終えて、また日を改めて作業しに来るつもりだったが、ここまで全く目処という目処が立っていない。



「何時までいてもいいんですか?」

「お前に任せる。とりあえず茶淹れてくるわ。」



そういって土方さんは立ち上がり部屋を出て行った。残された私はせめてこの書類書物の仕分けくらいは今日中に終えたいと考え、とりえず再び手を動かした。そしてこの状況をもう一度、しっかりと把握してみる。…うん、夜になるのは確実だな。私は溜息をつくのを我慢し、ゆっくりと深呼吸をして、気合いを入れ直すことにした。そして何度か深呼吸を繰り返していると、土方さんがお盆に湯呑みを二つ乗せて、戻ってきた。



「あ、すいません!」

「こんなもんしかなくてすまねぇな。」



そういってお茶と一緒に差し出されたのは、大福だった。



「い、いいんですか?」

「嫌いか?」

「いいえ!大好きです!!」



土方さんのそうかといって可笑しそうに笑うのを見て、私は子供みたいに喜んでしまったことに気が付き恥ずかしくなった。私は恥ずかしさを誤魔化すように、そういえば!と、上ずった声をあげた。



「か、考えてたんですけど、せめてこの仕分けは今日中に終わらしたいんです。けど、このままのペースだと夜までかかりそうで…邪魔じゃなければ夜までいさせて欲しいんですが…。」

「それは構わねぇ。俺も今日は緊急事態がなけりゃ、夜まで付き合ってやれるしな。帰りはきちんと送っててやるよ。」

「ありがとうございます!」



こうして許可をもらった私は、淹れてもらったお茶と大福をありがたくいただき、その後も土方さんと一緒に片付けに勤しんだ。





日も暮れて部屋の明かりをつけて作業をしていると、廊下から騒がしい足音が近づいてきた。



「なんだ?」

「副長ーー!!」

「…土方さんをお呼びですね。」



誰だ、廊下で騒いでる野郎は…といって土方さんが立ち上がり部屋の襖を開けると、そこに勢いよく山崎さんが現れた。



「…どうした。」

「緊急事態です!!」



その一言に何かを察したような土方さんは、少し席を外すといって部屋を出て行ってしまった。なぜか私は無性に不安になり、立ち上がり、意味もなく部屋をうろうろする。緊急事態。緊急事態ってなんだ?緊急だから、それはとてつもないことだ。副長が呼ばれて出て行くんだ、ことは大きいに違いない。



「…外、騒がしいな。」



何が起きているのかは分からないが、はて、自分はここにいていいのかが分からず、さらにそわそわして部屋をぐるぐると回っていると、突然襖が勢いよく開いた。



「ひっ!!」

「…なにしてんだ。」

「ま、回ってました…。」



なんでだよ、といって苦笑しながら部屋に入ってきたのは、先ほど出て行ったばかりの土方さんだった。胸ポケットに手を入れ、今日何本目になるか分からないタバコを取り出した。



「…隊総出で少し仕事してくる。」

「総出…ってことは、大きなお仕事ですね。」

「 あぁ、…外は危ねぇし、送っていってやれる奴もいねぇ。一人にして悪いが、しばらく屯所にいてくれ。」

「いて、いいんですか?」



こういう時、部外者は邪魔じゃないんだろうか?そう思っていうと、土方さんは何も言わずこちらに近づいてきた。



「夜までいんだろ。夕飯は食堂に行けばある。何時に戻るかわからないが、遅くなりそうならまた泊まっていけ。その場合はお前の身の回りの世話は女中頭がやってくれる。」

「は、はい…」



的確な指示に少し戸惑っていると、土方さんは私の頭に手を乗せ、そして雑に髪を撫でた。



「仕事、無理すんなよ。」

「…土方さんこそ。その、…気をつけて行ってらっしゃいです。」

「…あぁ。すぐ戻る。」



そういってまた部屋を出て行く土方さんを見送り、私また静かな部屋にひとりになった。さっきよりも外が騒がしい。もう一度私は心の中で、どうぞご無事にと祈った。



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