×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
ようこそ三日月堂へ!

坂田銀時さんは万事屋の主人でかぶき町では結構名の知れた人でした。

第5話

冗談でも結婚してくださいと男性にいわれたら、そりゃあちょっとは嬉しくなったり、恥ずかしくなったりするものかと思っていたが、第一印象最悪なこの人に言われても、当然嬉しくも恥ずかしくもなく、何なら正反対の怒りの感情しか沸いてこなかった。



「娘に何かあったらよろしく、ってそれだけの一言をとんだ勘違いしてくれましたね。」

「いやぁ、俺ぁてっきりそういうことかと。だってそうじゃん、世の中の父親が娘のことを頼むってったら、そういうことだろ。」

「短絡的すぎますバカなんですか。初対面の女性に結婚を何のためらいもなしに申し込むってどういう神経の持ち主なんですか。」

「こういう神経の持ち主なの銀さんは。あ、ばあさん団子もう一本ー。あと、名前ちゃん、最初の清純派キャラ忘れてんぞー。」



あれからしばらくお店で言い合いを続けているうちに、坂田さんが突然「お前あれだろ、そんだけカリカリしてるって糖分足りてねーんだろ。しゃあねぇな、銀さんがなけなしの金でうまい団子でも奢ってやっから行くぞ。」といって、断るすきもなくお店から連れ出されてしまった。



「お店を閉めてまで、あなたと団子だなんて、深月さん夫婦に申し訳ないです…。」

「銀さんが珍しく奢ってやるっていってんだから気にせずに食えよ。」

「珍しいかどうか知りませんけど、そのへんは気にしてませんから、大丈夫です。おばさーん!お団子一本追加と、あと宇治抹茶パフェもお願いします!」

「おい、団子はいいっていったが、パフェを許した覚えはないよ?」

「わたしが気にしているのは閉店時間前にお店を閉めてきてしまったことです。」

「ねぇ俺の話聞いてる?おい、ばーさん!パフェはキャンセルで頼むわー。てか、大丈夫だろ。この雨で客もこねぇよ。つーか、天気関係なく客なんか」

「それ以上喋ったらいま加えてる棒を喉の奥にためらいもなく突っ込みます。おばさーん!パフェキャンセルをキャンセルでお願いしまーす。」

「いや、どんなエスキャラ。ほんと、最初の清純派キャラどこに忘れてきちゃったの。おい、ばーさん!パフェキャンセルをキャンセルでをキャンセル、」

「銀さんうるさいよっ!私はほかの客の接客でも忙しいんだい!!」

「…んで、俺だけ。」

「ざまあです。」

「おい。」



団子を頬張りながら、この男から顔を背けると、そんな汚いことばっかいってると可愛いもんも可愛くねぇぞ?と、聞こえてきた。可愛くない娘に軽々しく結婚なんていったのはどこのどいつですかあなたですよ、と言い返えすと、まだ言ってんのかよと、なぜか私が呆れられてしまった。



「(人を腹立たせることに天才かこの人は。)」



坂田さんと会ってからずっとくだらない喧嘩が続いていて、そろそろ嫌になってくる。純情派キャラが何だか知らないが、それは私がこの世界にきてからずっと深月さん夫婦やお店にくる常連さんたちの優しさに触れていたからであって、わたしの口の悪さはもともとだ。それでも、



「…久々ですけどね。」

「ん?なにが?団子が?」

「いや、団子はおばさんの大好物でよく食べてたんですけど。そうじゃなくて、こうやって…なんていうか、気を張らずに話すってことが、…ずいぶんと久しぶりな気がします。」

「そりゃあよかったじゃねぇか。ずっと猫かぶってんのも、疲れんだろう。」

「かぶってませんよ。別に、好かれたいとかそういうので、無理してたとかじゃないですから。」



何だかうまいこと自分の言葉がまとまらず、もどかしい気持ちになりながら、追加で出てきた団子を頬張る。そういえば、いろいろやけになってパフェなんか頼んでしまったけど、本当にこの人の懐事情は大丈夫なのだろうか。勝手に連れ出された身の私は、当然財布なんて持っていない。だんだんと不安になってきた。なぜだか会計時に「あ、悪ぃ、お金足りねぇ。」ってなる展開が想像できてしまったのだ。やっぱりパフェ、キャンセルしようかな。



「あれだろ、今までお店でしか客と喋ってこなかったんだろ。仲良くなったつもりでも、カウンター越しに話せばそりゃあ接客同然。無意識に気も張らァ。」

「あー…なるほど。それは…一理ありですね。」

「まあ、俺の場合はそのカウンター越しでもこんな調子だったけどな。」



そういって坂田さんは可笑しそうに笑った。それはあなたが初対面の距離感をぶち壊してきたからじゃないですかと、言い返してやろうかと思ったがやめた。正直な話、もうそれほど坂田さんのことを鬱陶しいと思っていない自分がいた。さっき出会ったばかりなのに、気の知れた仲のような錯覚になるほど話しやすく、なぜだか憎めない雰囲気を坂田さんは持っていた。だからつい、口が滑ってあれやこれやと言ってしまうのだろう。これが俗に言う人たらしというやつなんだと、私は私の考えに納得した。



「お前さん、わけあってじいさんところに世話になってたんだろ。恩返しのつもりで仕事に励むのも結構だが、若いんだからもっといろんなこと楽しんだらいんじゃねーの?」

「急になんですか。それに、楽しむって、…何をですか?」

「何って、人生をだよ。」

「…人生、ですか。」

「寝て食べて働いても大事だが、人間、息抜きも上手にできないようじゃダメなんだよ。遊ぶことだって、立派な仕事みてぇなもんだ。そうやってお前の人生に、思い出ってーもんを増やしていかねぇと、いざって時に後悔すんぞ。」



何を急に説教じみたことをと思ったが、坂田さんが言おうとしていることがわかってしまい、私は言葉を詰まらせた。それは、初めて言われたことじゃない。これまで幾度となく、深月さん夫婦にも言われてきたことだった。もっと外に出てらっしゃい、と。だけど、私は身寄りのない自分を救ってくれた夫婦に恩返しがしたくて、あの三日月堂で二人の傍にいたくて、この一年間過ごしてきたのだ。



「難しい、ですね。」

「そうか?遊ぶなんて一番簡単なことじゃねーか。今こうして団子食ってるのだって、思い出だろうよ。」

「…坂田さんと団子を食べていることがですか?」

「え、不満なの?」



驚いた表情をした坂田さんに私は思わず吹き出してしまった。ああ、確かにこうして深月さん夫婦以外と団子を食べたのは、これが初めてだ。それは確かにこの世界にきて、深月さん夫婦たちがいなくなってからの、初めての私の思い出といえる出来事かもしれない。



「あれ、店の看板に書いてあった新しいサービス?大切な思い出、本にしますって。それ書いた本人のお前さんが思い出がないんじゃあ、世話ねぇだろ。」

「あはは、まったくですね。…ったく、そんなこと、本当にどこまでも、…ずっと優しいお二人…っ…ですっ…」



やっと坂田さんのいままでの不可解な言動が腑に落ちた。それに気付いたらもうどうしたって、泣くのを止めることなんかできなかった。

深月さん夫婦は心配してくれていたんだ。自分たちがいなくなったあと、私がちゃんと一人でやっていけるかどうか。一人でちゃんとやっていって欲しかったんだ。あの日、おばさんが私に言ったように、新しいスタートをちゃんと始めれるように。自分たちがいなくなったあとも、寂しがることもなく、不安がることもなく、生きていけるように。それを支えるものがこの町にあるってことを伝えるために、きっとおじさんたちはこの人、坂田さんに託したのだ。あの手紙にはきっと、そんなことが書かれたいたに違いない。

だからこの人は、私をお店から連れ出し、こうして美味しいお団子を食べさせてくれたんだろう。そうか、もしかしたら土方さんがあれだけ心配して店に顔を出してくれるのも、他の常連さんが買い物ついでにやたらと私を気にかけてくれることも、最初はみなにとって大切なお店を私なんかが継いだのが、不安だったからだと思っていた。だけど、そうじゃないかもしれない。きっと、深月さん夫婦が常連さんひとりひとりに宛てた手紙の中には、私のことが少なからず書かれていたのかもしれない。



「いい母ちゃんと父ちゃんじゃねぇか。」

「はいっ…っ!」



私は幸せ者だ。きっと、前の世界にいたときよりもずっと、ずっと。


top | prev | next