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ようこそ三日月堂へ!

お探しの本は、いったいどのような本ですか?

第4話

この日は朝から土砂降りの雨で、いつもは朝から立ち寄ってくれる常連さんも今日はまだ一人もいない。たしかに好んで雨の日に外に出ようとする人なんてそうそういるもんじゃない。こういう日は徹底的にお店の掃除をして、それから本の配置も少し変えてみようかな。あの本の売り上げはいいけど、あの本はいまいち・・・もう少し展開場所を入口側に・・・



「おー、すげぇな、コンビニだとその日に行かねぇと売り切れるわ、そもそも一冊しかねぇわなのに、なにここ2冊もあんじゃねーか。」



雨で静かな町のせいで、店内もひっそりとしていたところに、突然男性の声が響いて、思わず肩をびくつかせて驚いてしまった。振りかえると、入口に銀髪の男性がジャンプを片手に立っていた。



「お姉さん、これ昨日発売の?」

「あ、はいそうです。たいてい残っていても翌日の午前中には品切れてしまうんですけど、今日はあいにくの雨ですから、まだこの時間でも残っていまして…。」

「ラッキー。これちょーだい。」



銀髪の男性は嬉しそうにジャンプを片手にレジ近づいてきて、カウンターに雑誌をおいた。



「しっかし、見ないうちに店内ちょっと変わった?ばあさんとじいさんの姿も見えねぇけど。」

「あ、深月さん夫婦をご存知の方ですか?」

「まぁな。俺ぁ、本はジャンプしか読まねぇから、ここに立ち寄ることはあんまりねぇんだけどよ、じいさんとはよく外で呑んでた仲だったぜ。」

「あ!確かにおじさん、週に一度、嬉しそうに外に呑みに行くことがありました!お相手、あなただったんですね。」

「でもよ、ここ数週間見てねぇんだけど、なに?ついにあれ?召した?」

「はっ!?いやいや!な、なんてことを!!召してません!!不躾です!!」

「いやだってよ、てか娘とかいた?あのじいさんに娘いた話とか聞いたことねぇんだが、あれか…おまえ…じいさんついに外で若い女と、」

「おっ、!おじさんは稀に見る愛妻家で、おばさん一筋ですっ!!!」

「ってことはなに?ばあさんと頑張っちゃった?あの歳で頑張っちゃった?あー、だから腰やられて、」

「ちょ、子どもに親のそういう話は結構キツイんでやめてくれませんか!?」



正直なところ、前の世界での私は人間関係を面倒くさいと思っていた。だけど、この世界にきてから深月さん夫婦の人柄の影響もあって、たくさんの人と関わっているうちに、その考えも改め直してきたと思っていた。それなのに、それなのにこの男性ときたら、



「(…え、すごく面倒くさい。)」

「あれ、なんかいますごくめんどくせぇみたいな顔しなかった?一瞬にして笑顔消えて、」

「260円でーす。」

「いや人の話遮って、しかも目も合わせず、お金寄越しなさいと言わんばかりに手のひら突きつけられても困るんですけどお!?」

「こっちだってお金もらわないとジャンプ売れないんで困るんですけどお!?」

「お姉さんそんなキャラだった!?」



なんなんだ!この人は!と内心いらつく気持ちを落ち着かせるように、数回深呼吸を繰り返した。そして少しだけ落ち着いた頭は、おじさんの知り合いならもしかしたら預かっている手紙があるのでは?と、大事なことを思い出した。



「あの、興味はないんですが、お名前ってお伺いできますか?」

「いや、興味ないっていわれて名前教える人とかいんの?」

「(くっ…!!)」



わかっている。頭ではわかっているのだ。私のこの態度は接客業としてアウトだ。きっと土方さんなら、仕事ならちゃんとやれって怒るに違いないレベルだ。



「(あ、まただ。)」



私はここ最近、自然と土方さんを思い浮かべることが増えた。というのも、土方さんがお店によく顔を出すようになり、その都度いろいろ小言を言っていくのだ。飯は食べてんのか、ちゃんと寝てんのか、お店はどうだ、売上金の管理は大丈夫なのか、などなど。なんだか深月さん夫婦に代わって親のような、お兄ちゃんのような存在になりつつある。ああ、だけどまず何よりも深月さん夫婦なら、絶対にこんな態度はしないだろうな、ということに私は気付いた。どれだけ横暴で、理不尽な相手がきても、いつもの優しい顔とゆったりとした口調で丁寧に対応し、そして最後は必ず口負かす。そう、あの二人はめっぽう話術が上手だった。



「(土方さんや深月さんたちを見習わなきゃ。)すいません、わたしが大人気なかったです。」

「いやなんか大人気ないを理由に謝られると、明らかお姉さんより年上の俺の立場が悪くなくなるからやめてくんない?」

「(なんなんだよっ!)」



どうもこの人とは波長が合わないようだ。人間誰ともうまくいくとは限らない。中にはどうやっても合わない人だっている。そうだ、この人はそういう人なんだと自分で自分を励まし、どっと疲れを感じながらとりあえずカウンターに出されたお金を雑にレジにしまい、ジャンプを素早く袋にいれた。



「(物に当たるな!って、これも土方さんに言われそう…だけど、)」



名前なんかはもうどうでもよくて、私は早くこの人に帰ってもらいたかった。そうしてジャンプのはいった袋を手渡そうとすると、さっきまで目の前にいた男性はいつのまにか移動して、お店をぐるりと見て回っていた。



「(ジャンプしか読まないんじゃなかったっけ。)」

「俺ぁ、坂田銀時ってんだ。ここより少し離れた場所で万事屋をやってる。」

「え?あ、名前…えっと、万事屋の…坂田さん?」

「そ。あ、この本ちょっとエロそうじゃん。なにこれ、卑猥談とかのってるやつ?体験談ってやつ?」

「(やっぱだめだ!まともに相手したら負けだ!)」



私は坂田さんの存在を無視することに決め、急いでおじさんたちから預かっている手紙の中から坂田銀時という名前がないかを探した。早く、早くと忙しなく手を動かしていると、確かに"万事屋銀時の旦那へ"という手紙が見つかった。



「あのー。坂田、さん。これ。」

「ん?」

「おじさんたち、この前から長旅に出たんです。それで、常連客のみなさんに直接挨拶するのは恥ずかしいからって、こうしてひとりひとりに手紙を書いていて、…その、坂田さんのもあるので受け取ってもらえないですか?」

「…ふぅん。悪ぃな、確かに受け取ったぜ。」

「どーも。(これでやっと解放される!)あ、ちなみにちゃんと弁解しておくと、わたしはおじさんの愛人とかじゃなくて、一年前からここでお世話になって、」

「ああ、知ってる。じいさんが可愛い娘ができたって、鼻の下伸ばしてよく酒の席でいってたからな。」

「…は?」

「うん、知ってた。」

「し、ししし知ってたのにあんな不躾なこと言ってたんですかあなたって人は!!!」

「なに、ちょっとしたコミュニケーションだよ、コミュニケーション。」

「そ、そんなのいりませんっ!!!」



私がこんなにも声を荒げているといのに、坂田さんは別段気にする様子もなく、受け取った手紙をその場で読み始めてしまった。



「(家に帰ってから読めばいいじゃん!てかわたしが怒っていることは無視ですか!そうですか!!!)」



ふつふつと湧き上がる苛立ちを抑えつつも、ふと、おじさんが大切な人たちに書いた手紙にはいったいどんなことが書かれているのかと気になった。この坂田さんに、おじさんは一体何を書いたんだろうか。それとなく手紙に視線を向けると、ちょうど坂田さんは読み終えてしまったらしく、手紙は着物の懐に入ってしまった。



「…じいさんの依頼は承った。んじゃあ、名前ちゃん。」

「はい?」

「明日俺と結婚しよっか。」

「…はあああ!?!?!?!」

「いや、依頼だよ依頼。じいさんからの依頼。」

「ど、どんな依頼ですか!バカなんですか!!冗談は天パだけにしてください!!!」

「おまっ、天パは冗談じゃねぇ大真面目だコノヤロー!!つーか、ちゃんとここに名前ちゃんをよろしくお願いします。幸せにしてやってくださいって書いて」

「嘘だあああ!!!!!!!!」



おじさん、おばさん。この人は一体、誰なんですか。


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