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ようこそ三日月堂へ!

不思議な夜と朝

第45話

「すまなかったなー、名前ちゃん。」



土方さんに連れられ、近藤さんの部屋に入ると、近藤さんは一言目にそう言って頭を下げた。



「だ、大丈夫です。こちらこそ、お風呂とか着替えとか…ありがとうございました。」

「それくらいは当然さ!」

「あの、総悟は大丈夫ですか?」

「あいつなら自室で気持ちよさそうに寝てやがるよ。」

「そ、そうですか…。」



人に吐くだけ吐いて気持ちよさそうに寝るなんて…。今度会った時には盛大に文句言ってやろうなんてひとり意気込んでいると、突然近藤さんが、よかったら名前ちゃんも泊まっていくかい?なんて言い出した。



「…はい?」

「いや、もう夜も遅いし、お風呂はいったから湯冷めしてもダメだし!部屋は空いてるから、遠慮なく泊まっていって!あ、布団はもう用意してあるから!」

「ちょ、ちょっと待ってください!すごくありがたいお誘いですが、あの帰ります!泊まるだなんて他の隊士さんたちに申し訳ないです!」

「いいのいいの!な!トシ!」

「…大将のあんたがいいっていうんだ、別に異論はねぇ。」

「え、あの…いやいやいや!ダメですダメです!帰ります!」

「大丈夫、他の隊士たちが間違って部屋に入るとかないから!トシの隣の部屋で角だし、保証するよ!」

「(そう言う問題じゃないいいいい!!)」



屯所から家まではほんのちょっとの距離だ。車を出してもらえないなら歩いて帰りますというと、こんな夜中に女一人歩かせれるか!と土方さんに怒られた。それから、車を出せる奴はもういないから諦めろとまで言われる始末。



「や、山崎さん!山崎さんは?!」

「その山崎が密偵の仕事に出たんだよ。」

「(山崎さんんんん!!!!)」



絶対危機的状況に視線を泳がしながら、頭をフル回転させるが、何一ついい案が浮かばず、渋々、すいませんがお世話になります…といって、私は今晩屯所に泊まることを決意した。





「この部屋だ。隣は俺の部屋だから、お前に何かあればすぐ気付くし、困ったことがあれば声かけてこい。」

「…はい。」

「明日仕事だろ?」

「あ、いえ、明日は祝日なのでお休みなんです。」



あ?今まで休みなんかあったか?と土方さんに問われ、私はこの前体調を崩したことをきっかけに、深月さんたちと相談して、定休日を設けたことを説明した。



「なら朝はゆっくりできるな。隊士たちは6時に朝稽古、7時に朝食でな。8時には各任務に就きはじめるから、朝飯は8時過ぎでもいいか?」

「…すごい自然に朝ごはんまでご馳走になるお話になってますけど、いいです!大丈夫です!隊士さんたちが朝稽古始める前にでも帰ります!」

「断る。」

「断るううう?!?!」

「起こしにくるからそれまで部屋で大人しくしとけよ。じゃあな、おやすみ。」

「お、おやすみなさい…。」



そういって土方さんが部屋を出て行った後、私はとりあえず落ち着こうと、用意された布団の上に座って、部屋をぐるりと見渡した。誰かが使ってる様子はないが、手入れはされているようだ。布団もふわふわだし、きっとその辺のビジネスホテルよりかはいい。…この世界のその辺にビジネスホテルがあるかどうかは知らないけど。



「…疲れたー。お酒も抜けたー。」



独り言を小さく漏らしながらそのままこてんと横になる。屯所にお泊まりだなんて、普通はありえないに違いない。それに、この世界に来てあの家以外で寝るのは、これが初めてだ。



「…ちょっとわくわくする。」



我ながら子供みたいだと苦笑する。そうして横になっているうちに、だんだんと睡魔がやってきた。ここは屯所で、隣の部屋には土方さんがいる。十分緊張して寝れなくても可笑しくない環境なのに、だんだんと瞼が落ちていく。私はもぞもぞと布団の中に潜り込んで、そのまま呆気なく意識を手放した。





襖から漏れる陽の光と、遠くから聞こえる威勢の良い声に自然と目が覚めた。一瞬自分がどこにいるのかが分からず焦ったが、すぐにここは屯所だと気付き、ゆっくり布団から起き上がった。



「……寝れた。」



驚くほど熟睡できた私はあくびをひとつして、周りを見渡した。…今何時だろう?と、カバンの中からケータイを取り出して時間を確認すると7時前だった。



「朝稽古の声か…。」



朝早くから隊士さんたちは大変だなぁと思いながらケータイを枕元に置いて、ぐっと両腕を上げて伸びをしていると、突然、襖が勢い良く開いた。



「なんでィ、起きてやがったのか。」

「びびびびびっくりしたぁ!!!寝てたらどうするつもりだったの…っていうかなんで声掛けずに入ってくるかな!?」

「おい、朝起きたらまずはおはようだろうが。」

「総悟もねっ!おはよう総悟!!!(理不尽!!)」

「おー、おはようさん。よく寝れたよーじゃねーか。寝癖ついてらァ。」



そういって笑いながら総悟は部屋に入ってきた。いやいや、笑う前に何か言うことあるよね?!



「昨日のこと!」

「おー。」

「……えっ、謝罪なし?!」

「覚えてねーんでさァ。」

「覚えてなかったら許されると思ったらダメだからね!ごめんなさいしてもらうからね!」

「…ごめんなさい。」

「へ?…あ、あああ謝った?!」

「おめぇがごめんなさいしろって言ったんじゃねーか。」



何驚いてんだよといって総悟は私の寝癖を掴んで引っ張った。痛い痛い!髪引っ張るなんて最低だ!しかも謝ってすぐ悪いことするなんてどういうことだ!と、私が騒ぐと、総悟はいつものにやりとした表情で、うるせぇと一蹴した。



「直してやったんでさァ。」

「直るか!!」



私が呆れながらため息をつくと、総悟は悪びれた様子もなく、私の布団のそばであぐらをかきながら、あれ?直らねーなといって首を傾げた。どっちかっていうと、なんでそんなことをするのかと首を傾げたいのはこっちの方だ。



「朝飯は食べてくんだろ?」

「うん、土方さんにお誘い頂いたから。でも、皆さんが食べ終わってからだよ。8時過ぎって言ってた。」

「じゃあ俺もその時でいい。」

「でもさっきまで稽古してきたんでしょ?お腹空いてないの?」

「別に。あ、ここに着替え置いときやすぜ。」



そういって総悟が差し出したのは、私のではない着物だった。



「昨日着付け教えてやったんでィ、ひとりで着れんだろ?」

「あ、うん。でも、これ…いいの?いま借りてるジャージで帰れるけど…。」

「近藤さんの計らいでさァ。文句言わずに着ろ。」


文句だなんてとんでもない!と、私は着物を受け取り、じゃあといって、ありがたく着物を貸してもらうことにした。



「んじゃ俺ァ、シャワー浴びてきやす。」

「え、うん、いってらっしゃい。」



いや、なんの宣言?と思いながら、部屋を出て行く総悟を見送った後、私はとりあえず昨日の総悟の教えを思い出しながら、着物をひとりで着てみることにした。



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