ようこそ三日月堂へ! |
ここは一体どこですか? 第44話 「なんでこんなことに…。」 屯所に着くなり私は車から降ろされ、近藤さんに担がれて屯所内へと駆け込んだ。すると屯所内では女性数人が待ち構えており、あれやこれやと土方さんの指示が飛び交う中、私はそのまま浴室らしき一室まで運ばれた。あとは、この人達に任せるから!といって、近藤さんが私を下ろしてその部屋から出て行くと、両脇にいた女性たちに何の戸惑いもなく私の着てきた服をすべて脱がされ、そして私はなぜか今湯船に浸かっている。 「…はぁ。どうしよう…。」 知らない女性に裸を見られたことも、着物を台無しにされたことも、土方さんの羽織を汚してしまったことも、考えば考えるほど穴があったら入りたくなる。もちろん悪いのは私ではなく、吐いた総悟なのだが。私は鼻の下までお湯に浸かりながら、ほぼ半泣き状態でいた。 「…あの、名前様、お湯加減は大丈夫でしょうか?」 「は、はい!!すいません!!」 すると突然、磨りガラスの扉の向こう側から、女性の声がかかり、私は思わず湯船から立ち上がった。 「あ、まだゆっくりなさってて下さい。その間にお召し物を用意しますので、サイズを教えて頂けますか?」 「サイズ…ですか?」 「ええ。」 何の話?サイズってなんだ?と返事に困っていると、女性は少し戸惑い気味に下着の…と言った。私は瞬時に理解して、慌ててすいませんと謝ってから、サイズを答えた。 「承知しました。用意ができましたらお声掛け致します。あと、洗顔やシャンプーなどはこちらに一式用意しておりますので、ご使用ください。」 それでは、といって女性が去っていくのを確認すると、私は勢いよく湯船に浸かり頭を抱え込んだ。 「恥ずかしい…!」 ここはどこぞの高級旅館か?!と思いながら、私は終始落ち着かないまま、お風呂を済ませた。 お風呂から上がり用意されたお召し物とやらを見ると、予想外に洋服が置いてあった。それもジャージ。…ジャージなんてこの世界にもあったんだ!と驚きながら私はいそいそとその服を着た。 「局長らがお待ちですので、用意が整いましたらお声掛け下さいね。」 そう言われた私はこれ以上迷惑はかけられないと、急いで髪を乾かそうとすると、何やら脱衣所の外で女性が誰かに話し掛けられているのが聞こえた。 「では私共はこれで。」 「あぁ、すまなかった。…おい、名前大丈夫か?」 「土方さん!!」 その声に私は慌てて脱衣所の扉を開けると、土方さんは驚いて手にしていたタバコを落とした。 「なっ!なにやってんだ!!!」 「わかりません!!わたしなにやってるんでしょう?!?!」 「……は?」 「……え?」 「……あー…落ち着け。まだお前パニックになってんのか。」 そういって土方さんは苦笑して私の頭を軽く小突くと、まずは髪の毛乾かせといって、脱衣所に連れ戻された。 「悪かったな。着物はこっちでクリーニングに出す。」 「いえ、土方さんの羽織物も…」 「元凶は総悟だ。お前が謝ることなんもねーだろ。こっちは詫びとして最低限できることをやってるまでだ。あんな姿で家に帰れねーだろ。後始末はこっちで全部やるよ。」 そう言われた私がすいませんと謝ると、土方はそうじゃねーだろといって、ドライヤーを手にした。 「…あ、ありがとうございます…。」 「…それでいいんだよ。ったく、ていうかお前なぁ、いい年した女が髪も乾かさず、簡単に脱衣所の扉開けてんじゃねーよ。」 「いや、土方さんの声に安心したというか、なんといいますか…。」 「ほら、前向け。」 「……あ、えっ゛?!じ、自分でやれますやれます!」 「うるせー、ありがたく大人しくされとけ。詫びだ、詫び。」 そういって土方さんは私の髪を触りながらドライヤーを当ててくれたが、その手つきが思った以上に不器用で、つい笑みがこぼれる。 「そういや今日の着付けと髪、総悟がやったんだろ。」 「そうなんです!器用ですよね総悟!」 「まぁな。」 「料理もできるし、女子力高いですよ、彼。」 「…お前はどうなんだよ。」 「総悟より女子力低いのは確かです。」 私がそう即答すると、土方さんは威張るなよと言って笑った。 「…あいつ姉がいたんだよ。」 「一人っ子じゃなかったんですね!」 あの自由奔放などエスキャラはてっきり一人っ子のワガママからきているものだと思っていたが、意外にもお姉さんがいたとは驚いた。…でも、あれ? 「…ごめんなさい、いたというのは…?」 「…亡くなったんだよ。」 そういって土方さんは、ドライヤーのスイッチを切った。私は乾かしてもらった髪を手で軽く整えながら、ありがとうございましたといって頭を軽く下げると、その頭にポンっと土方さんが手を置いた。 「似てはいねーが、どことなく総悟はお前に甘えてる気がする。」 「甘えてる…ですか?」 「…適度に相手してやってくれ。」 そういった土方さんの表情は、少し悲しそうで、私は何て返事をしていいかが分からず、ただただ頷いた。 top | prev | next |