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ようこそ三日月堂へ!

おいしいお肉とおしゃべり

第41話

7時丁度にお店に迎えに来た車の運転席にはやっぱりというべきか、山崎さんが乗っていて、助手席に土方さん。後部座席に近藤さんと、私と総悟が乗り込んだ。ここから少し走らせた先に、予約した店があるという。



「いや〜、びっくりしたよ。名前ちゃんの着物姿!前に会った時は洋服だったよねー?」

「は、はい。あの、」

「うんうんよく似合ってるよ!その髪型もいいね〜!やっぱり女の子はオシャレすると印象ものすごく変わるよね!ね!総悟!」

「そうですねィ。」



車内ではずっと近藤さんが私の着物や髪型を褒めてくれた。山崎さんもミラー越しに、とってもお似合いですと言ってくれたし、土方さんも悪くないと言ってくれた。なんだかそれがくすぐったくて、私は落ち着かないでいた。それにこれをしてくれたのは総悟なんですよって言いたいのに、なかなかタイミングが掴めず、言えないままあっという間に目的地についてしまった。





「どう名前ちゃん!お肉のフルコース!」

「わぁぁああ!!!」



通された座敷には、すでに料理が用意されており、机の上に並べられたたくさんのお肉を目の前にしてついはしゃいでしまった。な、なんて幸せな光景なんだろう…!これは夢か?夢なのか?とにわかに信じれずにいると、近藤さんは笑いながら、俺が焼いていくからといって、トングに手をかけた。



「あ、いえ!そこは私が!」

「今日は俺が無理言って誘ったんだから!名前ちゃんは気にせず食べなさい!ほら、トシも!総悟も!」



なんて豪快で良い人なんだろうと思いながら、近藤さんのお言葉に甘えて、私は目の前の網で焼かれていくお肉をじっと見つめた。あぁ、この匂い!この音!た、たまらない…!



「おめぇ、そんなに肉に飢えてんのかィ?」

「牛には特に。」

「じゃあいつもは共喰いか。」

「そりゃあ豚の方が安…ねぇ、それってなに、ブタっていいたいの?」

「こら総悟!レディにそんなこと言っちゃダメ!それに名前ちゃんは全然気にすることないくらい痩せてるじゃん!」

「いやぁ、きっと脂肪はたっぷりでさァ。」

「うるさいっ!!(このやろう!!)」



お肉食べる時くらい体重なんか忘れさせてよ!そうじゃないと楽しめないじゃん!と隣に座る総悟に言えば思いっきり鼻で笑われた。誰かこの人のこの屈折した性格直してあげてください。



「あ、そうそう、名前ちゃん。深月さんたちは元気かい?」

「近藤さんも深月さんたちのこと、よくご存知なんですか?」

「うん、トシの教育をしてくれたのは深月さんたちだからね。俺らにとっちゃ恩師さ。」

「教育?」

「あれ言ってなかったか?」



そういって目の前に座る土方さんは驚いた様子で、私のお皿の中に焼けたお肉を入れてくれた。



「マガジンを買う常連さんとしか、」

「田舎侍として刀しかふるってこなかった俺らは、からっきし勉学がダメでなぁ。組織としてやっていくには、頭のキレるやつがいてこしたことはない。その役を買って出たのがこのトシでなー!」



そういって近藤さんはずいぶんと懐かしそうに話してくれた。



「深月のおやっさんはすげぇ博識で、色々なことを教えてくれたんだよ。本も惜しみなく読ましてくれたしな。」

「そうだったんですね…!」



そんな昔からの付き合いだったなんて知らなかった。けど、その話を聞いて私はやはり深月さんたちがどれだけ素敵な人たちかを知り、改めて感謝せずにはいられなかった。



「でも、総悟は深月さんたちのこと知らなかったよね?」

「頭使って人動かす仕事に俺ぁ関係ねぇからでさァ。つーことで、いただきます。」

「ああっ!!それ私のハラミ!!」



そう言って、総悟の手が横から伸びてきたかと思うと、私の小皿に乗っていたハラミを総悟が奪っていった。…なにしやがるんですか。



「自分のあるし自分で焼けばいいじゃん!(ハラミが一番好きなのにっ!)」

「うるせぇな。」

「(こ、このやろう!!)」

「がははは!総悟と名前ちゃんはすっかり仲良しだなっ!」

「やめてくだせぇ、近藤さん。俺がこいつの相手をしてやってるだけでさァ。」

「おい総悟、ちゃんと自分の食べやがれ。ほら、名前もまた焼いてやるから、まずはこれ食べとけ。」

「…はい。」



土方さんにそう言われて私はおとなしく総悟に仕返しするのは諦めた。なんだかこうして話していると、近藤さんも土方さんも、総悟も真選組という立派な組織の人たちなのに、思ったよりも緊張感はなく、とても楽しくて居心地がいいことに気が付いた。そのことが嬉しくて、私は頬を緩ませながら、土方さんが取り分けてくれたお肉を口にした。…お、おいしいっ!!!



「そうだ、名前ちゃん。事情はトシから聞いているが、何か思い出したことがあれば遠慮なく言ってくれよ。必ず力になるから。

「えっ…」



一瞬なんのことだが分からなかったが、すぐに自分の記憶喪失のことだと気付き、慌てて私は口の中のお肉を飲み込み、ありがとうございますと返事を返した。



「今のところ何もか?」

「…そ、うですね…何も。」

「まぁ、焦ることもないさ。」

「はい…。」

「…昨日の晩飯はなんでィ?」

「え?……いやいや、それはさすがに覚えてるよ!えっと、あれ…いやいや…あれ?!なんだっけ?!」

「これはやべぇですぜ。」

「お前まだ若いだろうが…」

「えっ?!引かれてます?!わたしいま、引かれてますか?!」

「大丈夫だぞ、名前ちゃん!俺なんか今日の朝ごはんすら思い出せねぇからな!」

「いやそれは、さすがに…。」

「しっかりしてくだせぇ、近藤さん。」

「頼むぜ、近藤さん…。」

「えっ?!これ俺も引かれてる?!勲引かれちゃってるの?!」



私は、総悟に弄られている近藤さんを見て笑いつつも、心の中ではまたいつもの罪悪感に苛まれていた。



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