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ようこそ三日月堂へ!

休みは誰にでも必要なもの

第35話

騒がしくなる玄関先に降りていくと、銀さんは私を見つけるなり、どういうことだ!と必死の形相で詰め寄ってきた。



「おいおい名前ちゃん熱出てる時に男を家に連れ込むなんてナニかあってからじゃ遅いからね?!わかってる?!」

「だって、おとーさーん。」

「銀さんはお父さんじゃありませんっ!!」



でも、どう見てもその心配っぷりはお父さんだみたいだ。私のとかじゃなくて、なんとなく一般的にのイメージだが。そんな銀さんが可笑しくて、つい笑って冗談口をたたけば、銀さんは大袈裟に肩を落としてみせた。



「あのなぁ、俺はお前のこと心配していってんだよ?それなのに笑うなんて」

「てめぇに心配なんざされなくても、こいつはてめぇよりしっかりしてやがるぜ。」

「うるせェェェ!!つーか、だからなんでお前がいんだよ!!あいつは?!サドは?!」

「総悟ならもう帰ったって。総悟を連れ戻しにきたついでに土方さんが看病に、」

「ならその時に一緒に帰ればよくね?なんで残ってんの?お前まさか名前の寝顔ずっと見てたわけ?熱に浮かされた名前の顔見て」

「なに言ってんのかな銀さん!?!?!」

「お前…大丈夫かよ。」



銀さんの心配の度合いが凄すぎて、つい口を挟んでしまった。土方さんも少しばかり、いやかなり引いている。しかし、当人はまだ怒りが収まらないのか、まだぐだくだと言っている。



「そもそもなんで総一郎くんが家にいんの?神楽と新八から聞いて銀さん慌てて駆けつけてきたんだけどぉォォ?!」

「…パチンコ屋さんから?」

「……ハイ?」

「いや、だって銀さんからタバコの匂いするもん。」

「そりゃあ…あれだろ、こいつのだろ。」

「ここに来てから一本も吸ってねーよ。」

「近くにいるだけで移るんですぅ〜!」

「嘘つけ!人のせいにしてんじゃねーよ!」



俺がどこから駆けつけたとかそんなの今はどうでもいいんだよ!それよりもだ!と銀さんは自分に都合の悪いことは隠し、そして話を無理やり最初に戻した。



「総悟からたまたまメールが来て、熱出てることいったら、わざわざ来てくれたんですよ。」

「メール?…名前ちゃん、ケータイ持ってんの?」

「……あ。」



ケータイを買った日、銀さんたちにたまたま出会ってそのまま一緒に万事屋でご飯を食べたというのに、すっかり銀さんにケータイを買ったことをいうのを忘れていた。私は思わず、気まずさから曖昧に笑ってみせた。



「酷くなァァァイイィィィ?!」

「や、いろいろあって!わざとじゃないですよ?!」

「このご時世、ケータイ持ってねぇもの同士仲良くしていこうって誓ったじゃねーか!!」

「誓ってない誓ってない!なにその無意味な同盟!」

「俺なんか月々の支払いができるかどうかわかんねぇから持ってねーっていうのにっ!!」

「知りませんよ!!!」

「おい、お前らそこまでにしとけ。万事屋も、こいつ病人だぞ。」

「「あ。」」



そうだ、私、病人だった。銀さんもハッとして、バツの悪そうな顔をした。今朝よりずいぶんと楽になっているとはいえ、まだ熱は完全には下がりきっていない。とにかく銀さんにもあとで番号教えますからねと私がいうと、銀さんもそれ以上は言ってこなくなった。



「じゃ、俺は帰るぞ。」

「あ、すいません、本当に今日はありがとうございました!」

「…おい、てめぇは帰らねーのかよ。」

「は?なんで俺がお前と一緒に帰らないといけねぇーの?まさか一人で帰れないとか?寂しいとか?まさか鬼の副長とも呼ばれるお方が夜道が怖いとかかァァァ?!」

「そうじゃねェェェ!!てめぇあんまりおちょくってっと、このまま屯所にしょっぴくぞ!!!」

「ざーんねん!俺はこれからこいつの面倒みんの。はいはい帰った帰ったー。おまわりさんが善良な市民の家でサボってんじゃありません。どうぞお帰りくださ〜い!」

「てめぇっ…ほんと腹立つな。…まぁいい。名前、こいつになにかされたらすぐに電話してこいよ。すぐ逮捕してやる。」

「あはは…。」



帰れ帰れ!と手を払う銀さんに、言われなくても帰るわ!!といって土方さんは声を荒げて帰って行った。せっかくお見舞いにきてくれたのに、帰り際がこれでは少し申し訳ない気持ちになる。あとで謝罪と改めてお礼のメールをしようと考えていると、銀さんがぐるりとこちらを向いた。



「で、熱は?」

「どうでしょう?ずいぶんと楽にはなりましたけど…。」

「一応測っとくか。ほら、部屋行くぞ。」



そういって銀さんが先に階段を登りだしたので、また勝手に我が家のように!と文句を言えば、万事屋の俺らと名前はもうそういう仲だからいいの!と、よくわからないことを言われた。そういう仲って、どういう仲なんだろうか。





「…お前その首の傷どーしたんだよ。」

「(しまったっ…!!)」



部屋に入り、銀さんに促されるまま布団に入ると、銀さんはあれ?といって、鋭い指摘をしてきた。いままでスカーフで隠してきた傷だが、寝間着姿のいまでは傷は丸見えだ。総悟と土方さんは事情を知っているし、神楽ちゃんと新八くんもなにも言わなかったので、正直いまのいままですっかり忘れていた。



「…怪我しました。」

「見て分かるわ。そうじゃなくて、なんで怪我したのかって聞いてんの。それも、斬りつけられたような傷。」



もうバレてんじゃん!斬りつけられたような傷ってバレてんじゃん!!私は無駄なあがきはやめて、正直に先日ナンパされて連れ去られそうになったこと、その時に総悟に助けてもらったことをぽつぽつと話した。



「…ほぉ。」

「(こ、怖い!!)」



銀さんは私の話に口を挟むことなくすべて聞き終えると、そーかそーかといって、下品にも鼻をほじくりながら頷き、そして不自然なほど笑顔で、なんでそれ黙ってたの?と聞いてきた。



「いや、あの…ほ、報告義務とかってありましたでしょうか…。」

「あんだろ、どー考えてもあんだろ。」

「えー…」

「俺ぁ、じーさんに娘を頼むって言われてんだよ?それなのにその娘が俺の知らねぇとこで怪我したなんて、んなもん俺が怒られんだろうが。」

「怒りませんよ、おじさんは。」

「とーにーかーく!これからは何かあったら銀さんに言え。いいな?間違ってもニコチン野郎とかサドとかにはいくなよ?」

「でも、あっちはおまわりさんですよ?」

「万事屋をなめるんじゃありません。」



分かったらとっとと反省して寝ろといって、銀さんは私に無理やり掛け布団をかぶせてきた。銀さんって深月のおじさんに何か弱みでも握られてるの?って思いたくなるほどの、心配っぷりだが、別に嫌な気はしない。むしろなんだか、私を心配してくれる人がいるなんて、つい嬉しい気持ちになってしまう。



「なに笑ってんだよ、ったく名前ちゃんは世話の焼ける娘だねー。」

「えへへ、なんだかその子ども扱いは嫌じゃないです。」

「…あっそ。ま、とにかく休め。夕飯は俺が作ってやるから。」

「ありがとうございます。」

「あー、それから元気になったらじーさんに連絡いれとけよ。そうそう、あと休みも相談しとけ。」



休み?なんの休みですか?と聞けば、銀さんは呆れた表情で、お前は年中無休で働くつもりかといってきた。



「世の中法律で働いていい時間数が決まってんの、だいたい週休二日制なの。それなのにお前、店継いでから休んでねーだろ。」

「だっておじさんたちも…」

「じーさんとお前は違うの!じーさんたちも別にそこまで働いてくれなんて望んでねーよ。だから、相談してちゃんと休み決めてもらえ。それともまた倒れてぇの?」

「……そ、うですね…。」

「わかればよろしい。」



完全に納得したわけじゃないが、有無を言わさない銀さんの圧に負け、私はとりあえず頷いた。

そしてそのあと、銀さんの作ってくれたおかゆを食べ、総悟が買ってきてくれた薬をちゃんと飲み、銀さんが帰ったあとには土方さんと総悟に忘れずお礼のメールを送ると、二人から体調を気遣う返事が返ってきて、その文面にほっこりしながら、私はようやく眠りについた。

銀さんに言われた通り、とにかく明日はおじさんたちに連絡しよう。でもなんて切り出そう?そんなことを考えながら。



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