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ようこそ三日月堂へ!

優しくて温かいもの

第34話

誰かが私の髪を優しく撫ででいるような気がした。それがとても心地よくてつい頬が緩んでしまう。あぁ、でもこの優しい手は誰の手なんだろう。こんなことしてくれる人なんて、私にはいないはずなのに…。



「…ん」

「起きたか?」

「…ひじかたさん?」



私が名前を呼べば、なんだ?と返してくれた。…ひじかたさん。土方さん?え、土方さん…?



「っ!!!」

「おい急に起きんな!!」

「え?ちょ、あれ、なんで?あの、土方さん?」

「んな何回も名前呼ばなくても俺で間違いねーよ。ほら、起きたんなら水飲め。あと、タオルと台所少し借りんぞ。」



手渡されたコップを受け取ると、土方さんは部屋を出て行ってしまった。いま何時?あれ総悟は?色々と頭が追いつかず、とりあえず時間を確認すると、どうやら3時間ほど、ぐっすりと寝ていたようだ。



「汗もかいてるし、身体も楽…。」



これはもしかして熱が下がった?と思っていると、土方さんが部屋に戻ってきた。



「ほらよ、これで軽く身体拭いて着替えろ。汗、かいてんだろ。」

「あ、ありがとうございます…。」

「着替え終わったら呼べよ。」



そういって土方さんはまた部屋を出て行ってしまった。未だ状況把握ができずにいるが、とりあえず渡されたタオルが乾く前に着替えようと思い、私は布団から起き上がり、替えの寝間着を用意した。





「あ、あの…」

「うおぉ?!びっくりした…。ちゃんと着替えたのか?」



着替え終えて部屋の扉をあけると、土方さんは廊下に座ってケータイをいじっていた。着替え終えた私を確認した土方さんは、まだ横になっとけといって、私の肩を押して、部屋の中へと戻された。



「あの、総悟は?」

「あいつ非番とはいえ、仕事がたんまり残ってたんでな、早く終わらせろって連絡したら、お前が倒れてるって聞いたんだよ。」

「それで、わざわざ?」

「総悟を連れ戻すついでだ、ついで。」



ついで?ついでにしては面倒見が良すぎる気もするが、土方さんを見やると、そっぽを向かれたので、おそらく照れてるんだろうと思い、あえてそれ以上は言わないようにした。



「総悟はもう屯所に?」

「無理やりな。俺ももう戻るが…なんか、して欲しいこととかあるか?」

「して、欲しいこと?」

「飯は?」

「あ、お昼に総悟がおうどんを作ってくれて…。」



私がそう言うと一瞬土方さんは驚いた表情を見せたが、すぐにそうかと頷いた。



「薬も買ってきてくれて、おかげでずいぶんと楽になりました。もうおそらく大丈夫かと…。」

「本調子が出るまでは無理すんなよ。」

「はい、心配ありがとうございます。」



私がそういって頭をさげると、土方さんは笑って頭を撫でてくれた。その手がさっき夢見心地の中で感じたものと似ている気がして、一瞬驚いた。



「どうした?」

「あ、いえ…。」



とはいえ、私が寝ている間に頭撫でてくれましたか?なんて聞けるわけがない。それも相手は土方さんだ。ありえない。きっと、自分の都合のいい勘違いに違いないと折り合いをつけ、私はもう一度、なんでもないですと言った。



「…そういやケータイ、持ったんだって?」

「あ、はい!総悟についてきてもらって買いに行きました!」



これです!といって、枕元のケータイを手に取り土方さんに見せると、土方さんは胸ポケットからケータイを取り出した。



「番号、教えろ。」

「え、いいんですか…?」

「悪い理由なんかあんのか?なんかあったら連絡してこい。まぁ、出れねぇこともあるだろうが、絶対にかけ直す。」



そういって土方さんは自分の番号を表示させた画面を見せてくれた。総悟が言わなかった、何かあったら連絡してこいというセリフをまさか土方さんに言われるとは。自分が想像していた以上にそのセリフが男前で、私は少し恥ずかしくなった。



「と、登録完了しました!」

「そのまま俺に着信残してくれたら、その番号で登録しとく。」

「はい!」



土方さんに言われた通り、登録した番号に発信をして、コールが一つ鳴ったところで私は電話を切った。



「んじゃ、そろそろ仕事戻るわ。万が一、具合悪くなったら連絡してこいよ。」

「ありがとうございます!あ、下まで見送りますね。」

「いや、いい。…わけないか。戸締りしなきゃなんねーもんな。」



私が笑ってそうなんですといえば、土方さんは悪ぃなといって立ち上がった。その時、玄関からチャイムが鳴るのが聞こえた。



「誰だ?」

「…誰でしょう?」



今日は訪問者が多いなと思いながら、布団の上においていた大きめのストールを羽織り、部屋から出ようとすると、土方さんに待ったをかけられた。



「インターホンのモニターは?」

「い、いえ、ありません。」

「…なら俺が出る。変な勧誘だったら二度とこねぇように断っといてやるよ。」

「それは…ありがたいです。」



よく勧誘系の訪問が多いため、おそらく今回もそうだろうと思っていたので、土方さんに素直に甘えることにした。土方さんが階段を降りていくと、わたしは階段に腰掛けて、そっとその様子を伺った。



「なっ!なんでお前がいんだよ!!!」

「そりゃこっちの台詞だ!!てめぇこそ、なにしに来たんだよ!!」



玄関先から聞こえてきたまさかの声に、私は思わず壁に寄りかかり、深いため息をついた。



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