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病人はおとなしくしましょう 第33話 大火傷をした口の中を少しでもよくしようと、お水を飲んでいると、騒がしい足音が階段を上ってくるのが聞こえてきた。もしかして?と思った時には、部屋の扉が勢いよく開き、神楽ちゃんが猛突進で突っ込んできた。 「ぐっ…っ!」 「名前大丈夫アルか?!死んじゃイヤヨ!私、まだ名前と遊びたいこといっぱいアルネ!」 「しなっ…ないからっ!死なないから神楽ちゃん!落ち着いて!それから力緩めて!お腹!押さえられると吐くかも!さっき食べたもの吐くかも!!」 「吐く?!吐くアルか?!名前が吐くなら私も吐くヨ!辛い思いは名前ひとりにさせられないネ!」 「違う違う!そうじゃない!神楽ちゃんは吐かなくていいからね?!口に指入れちゃダメっ!」 慌てて神楽ちゃんの手を押さえ、お願いだから落ち着いて!といって抱きしめると、神楽ちゃんは思いの外ピタッと落ち着いた。よかった、ちゃんと話せば分かる子で。 「…名前いい匂いするネ。」 「そう?柔軟剤かな?」 抱きしめたまま神楽ちゃんの背中をリズムよくポンポンと叩くと、だんだん神楽ちゃんの声が小さくなり、完全に体を委ねるような格好になった。…なんて可愛い。 「すいません名前さん!!神楽ちゃん、一目散に走って行ってしまって…。」 「あ、新八くん!」 「…なにしてるの神楽ちゃん。」 「名前に抱きついてるネ。」 「いや、そういうことじゃなくて。」 「あはは!わたしは大丈夫ですよ!ところでなんで新八くんはそこに?」 なぜか新八くんは部屋の外、扉の近くに背を向けて立ってさっきから会話をしているため、どうしたの?と聞けば、女性の部屋に入るのは…それに寝巻きでしょうし…といって、照れと躊躇いを見せた。 「(なんて好青年。)見苦しいかもしれないけど、わたしは気にしないのでよかったらこっちにどうぞ。」 「そ、そうですか…?」 私が笑って手招きをすると、新八くんは少し気まずそうにしながらも、部屋の中に入ってきた。そして、私の膝で寝転がっている神楽ちゃんの隣に座った。 「ところで今日二人はどうしてここに?また何か用事が?」 「名前に返すものあって来たネ!」 「返すもの?」 「昨日、銀さんが酔っ払って居間にあったこの石を持って帰ってたらしくて…」 そういって差し出されたのは、確かに居間に飾ってあった鉱山の石だった。 「本当にすいません…。」 「あ、いや…全然、気がつかなかった。」 「名前のじゃないアルか?」 「うん、これは深月さん夫婦のものなの。」 時々、この石に手を合わせている二人を見たことがある。しかし、この石が何なのかは知らない。一度だけ、これは何なのかと聞いたことがあるが、深月さんたちは珍しく言葉を濁らせ、なんでもないとはぐらかさしてしまったため、それ以上のことは聞けなかった。 「……。」 「名前さん?」 「あ、ごめんなさい。わざわざ持ってきてくれてありがとう、これ受け取るね。」 「ところで名前さん、さっき沖田さんから聞いたんですが、熱があるんですか?」 「…うん、昨日はなんもなかったんだけど…。疲労からくるものだと思う。二人もここ数日忙しかっただろうから、気をつけてね。」 「私は大丈夫ネ!新八もメガネだから大丈夫ヨ!」 「なにが?!僕のメガネのなにがどうなったら大丈夫なの?!」 「おいガキども、一応そいつ病人ですぜ。静かにしやせぇ。」 そういって部屋に入ってきた総悟の手には水が入ったコップと薬が握られていた。 「ほら、食ったんならとっとと薬飲みなせェ。」 「わ!あ、ありがと…。」 あまりにさきほどから手際のいい総悟の看病に感心していると、私の膝で寝転んでいた神楽ちゃんがバッと起き上がった。 「なんでさっきからこいつが名前家に当然のようにいるアルか?!」 「あの…名前さんと沖田さんの関係って…。」 「へ?別にふつうの、」 「勘違いすんじゃねーや。俺は弱ってる名前を笑いにきたんでさァ。ほらよ、はいチーズ。」 カシャッ。 「…カシャってなに。なんでケータイのカメラこっち向けてんの?ねぇ?!いま撮った?!?!撮ったよね?!?!」 「パジャマ姿にすっぴんでさァ。」 「やめてえええ!?!?!」 突然なに?!それどうするの?!弱味か?!私の弱みを握ってあとでどうにかするつもりか?!と私が慌てていると、神楽ちゃんが任せるネ!といって、勢いのいい飛び蹴りを総悟にお見舞いした。…いや、待って。 「こ、ここで暴れちゃだめっ…?!」 ここで二人が暴れたら、間違いなく部屋が悲惨なことになる。それだけは阻止せねばと、二人を止めに入ろうと立ち上がった瞬間、激しい立ちくらみが襲った。あ、これはまずいと思った時にはもう自分の身体は前に倒れかかっていた。 「…っ!!」 「だ、大丈夫ですか?!」 「し、新八くん…ごめんなさい…ナイスキャッチです…」 倒れる!と覚悟したはずが、隣にいた新八くんが間一髪のところを抱きとめてくれたおかげで、何とか倒れずにすんだようだ。 「ごめっ…わ!」 「ぼ、僕は大丈夫ですから!よかったらこのまま僕に身体を預けてて下さい!ほら、神楽ちゃんも手伝って!」 不可抗力とはいえ、新八くんに抱きつくような格好になってしまい、慌てて離れようとしたが全く力が入らず、私がまたもや倒れそうになると、新八くんは意外にも力強い腕で私の身体を支え、そして神楽ちゃんと一緒に、私をゆっくりと布団に寝かせてくれた。 「まだ無理すんじゃねーやィ。」 「ごめん…自分でもびっくりした。」 「名前ごめんアル…」 「いや、神楽ちゃんは悪くないよ。ありがとうね、わたしのために怒ってくれて。」 そうだ、総悟が写真なんか撮らなければこんなことには!と総悟に当たれば、何のことだと言わんばかりに知らんふりをされた。…くそう。あとで絶対データー消させてやる。 「それじゃあ、そろそろ僕らは帰りますね。名前さん、ゆっくり休んで下さい。」 「うん、ありがとう。」 「名前が元気になったらまた遊びに来てもいいアルか?」 「もちろん!またご飯食べに来てね。」 銀さんにもよろしく伝えてねと、バイバイと手を振って部屋を出て行く二人を見送ると、総悟も戸締りしてくらァといって、あとについで出て行ってしまった。さっきまで騒がしかった部屋が途端に静かになり、少しだけ私は寂しい気持ちになりながら、布団をかぶりなおした。 「はやく治そう…。」 かすかに窓の外から総悟と神楽ちゃんの声が聞こえてくる。まだあの二人喧嘩してるのかと思うと笑わずにはいられない。私はくすくす笑いながら、ゆっくりと目を閉じた。 なんだかんだ言いながらも総悟の看病のおかけで、ずいぶんと助かった。ご飯も食べれたし薬も飲んだ。あとは一眠りして汗もかけばきっと熱も下がる。そう信じて私はすっと眠りについた top | prev | next |