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ようこそ三日月堂へ!

疲労はあとからやってくるもの。

第32話

思えば怒涛の一週間だった気がする。銀さんたちの依頼の手伝いをしつつ、その最中にも色々なことがあった。というよりありすぎて、この前のことのはずが、ずいぶんと前のことに思えてくる。



「そりゃあ熱くらい出しますよくそっ」



思わず口の悪さが出てしまう。今朝、いつもの時間にアラームが鳴り、目が覚めて嫌な予感がした。どうも身体が怠いし、頭が重たくて痛い。おまけに顔だけが熱い。確か、居間にある救急箱の中に体温計があったと思い出し、ふらつく足取りで居間に行き、体温計を見つけて測れば、38℃近い熱があった。



「薬…は、ある。でも飲む前に何か胃にいれなきゃ…いや、その前にお店…休みますって張り紙しなきゃ…。」



もちろん張り紙は外にするものだが、わざわざ着替える気にはなれない。もちろんパジャマ姿で外に出るのには抵抗があったが、このしんどさでは仕方がない。自分の部屋に戻り、大きめのストールを羽織って、私はお店に向かった。





「よし…。」



今日はお休みしますという貼り紙を無事に終え、家の中に戻る。今日が商品の入荷がない日曜日でよかったと心底思いながら、ため息をつく。明日には完璧に治さないといけないため、なにか食べるものがないかと台所に向かい冷蔵庫をみたが、見事になにもなかった。私はまたため息をついてその場に座り込み頭を抱えた。結局昨日の夜は、銀さんだけじゃなく、新八くんと神楽ちゃんも呼んで、ご馳走を振るまったため、何もなくて当然だった。



「コンビニ…いやいや、無理だ…。」



もう食べるのは諦めて、水分たくさん摂って、薬飲んで寝よう。風邪じゃなくて、疲労からくるものならきっと回復するのも早いはず。そうと決めた私は、薬を飲んでから自分の部屋へと戻り、布団に潜り込んだ。





「あれ、メール…」



眠りにつく前にケータイの画面をみると、唯一連絡先に登録してある総悟からメールが届いていた。本文を読んでみると"非番"の一言だけ。だからなんだっていうんだと思いながら、"よかったね!ゆっくり休んでね!"と送ればすぐに、"飯付き合え"ときた。



「あー、せっかく誘ってくれたのに申し訳ないなぁ…」



この状態でもちろんご飯なんか食べに行けるわけもなく、私は返信に熱が出て今日は店も休んでいること。ご飯はまた今度、誘ってくれてありがとうと書いて送った。そしてケータイを枕元に置き、そろそろ寝ようと目を瞑った瞬間、今度は着信が鳴った。



「…はい。」

「バカは風邪ひかねぇんじゃねーのかィ?」

「バカだっていいたいの?」



というか一言目がそれってどうなのと、私が文句を言えば、総悟は声はしっかり出てんじゃねーかといって、具合はどうかと聞いてきた。



「風邪じゃなくてたぶん疲れからの発熱。今日一日休めば治る、と思う。」

「薬は?」

「飲んだよー。」

「飯は?」

「……ご、ごはんは、」

「食ってねーのかィ。」



なにもないとは言いづらく、私が口ごもっていると、総悟は間延びした声でわかりやしたーといって、電話を一方的に切った。何が分かったのか分からず、私は慌てて履歴から総悟に電話をかけなおしたが、なぜだが繋がらず、今日何度目になるか分からないため息をついた。



「ダメだ…寝よ…しんどい…」



私は今度こそケータイを枕元に置き、毛布をかぶりなおして目を閉じた。





目を覚ましたのはケータイの着信音でだった。まだ完全に開かない目を擦りながら、ディスプレイを見ることなく通話ボタンを押すと、総悟の声で開けろーと聞こえてきた。



「なに、なにを…」

「玄関のドアに決まってんだろィ。じゃなきゃ、今すぐ無理やりぶちあけ」

「開けます開けますやめてください」



冗談に聞こえないから本当やめてといいながら、通話状態のまま玄関に向かう。総悟はずっと、謎のカウントダウンを数えている。本当、やめてください。



「お待たせしましたーって、うわっ!!」

「上がりやすぜー。」



玄関を開けるなり突き出された白い袋。ずっしり重たいその中身は、食材や飲み物、薬に熱下げシートなどが入っていた。



「…え、もしかしてお見舞い?」

「熱は何度でさァ。」

「…あ、さっきは8度ちょい…今はどうだろ?あんまり身体の怠さ変わんない…」

「そりゃ電話切ってからまだ2時間くれぇしか経ってねーからな。つーかなんも食わずに薬だけ飲んでも意味ねーでさァ。」



それはそうなんだけど、昨日ちょっと…といって言い訳しようとすると、廊下を先に歩く総悟がくるりと振り返って、なぜか私のおでこにデコピンをしてきた。



「いっ…たっ!!本気で痛いやつ!!それ痛いやつ!!」

「とにかく寝てなせぇ。部屋は二階で?」

「う、うん…。」



ならとっとと上がれといって、総悟は今度を私の頬をつねってきた。え、なにこのひと。病人に対して労わるどころか暴力ふるってきます!!



「顔真っ赤でさァ。」

「怒りでじゃないですかね。」



反抗期かい?という総悟にツッコむ気力もなく、私は総悟に背中を押されるまま二階に上がらされた。さっき渡された白い袋も奪われたため、総悟は?と聞くと、気にすんなといって居間へと消えていった。どういうこと?なにするの?と不信に思い、上りきった階段の上で立ち止まっていると、微かに台所から音が聞こえた。



「もしかして、いや…総悟が?」



まさかすぎて想像もできず、その場で聞き耳を立てていると、大人しく寝てねーと襲うぞーと総悟が叫んだため、私は慌てて自室へ戻り布団に潜った。



「…どうしよう。」



すごく、すごく嬉しい。突然、涙腺が緩み、涙が出そうになったため、私は枕に顔を埋めた。熱を出して、誰かに心配してもらえるのは、いつぶりだろうか。




それから30分ほど経った頃、総悟が入るぜといって部屋に入ってきた。手にはお盆を持っていて、湯気と一緒にいい匂いが漂ってきた。



「あ、おうどん!!」

「これくれぇなら食えんだろ。」



どうやら、私のためにうどんを作ってくれたようだ。総悟にそんなことができるなんて、そもそもこんなことをしてもらえることに驚きながら、私は布団から起き上がった。



「いいの…?」

「熱いから気をつけなせェ。」



そういってわざわざ小さな器にうどんを移し、お箸と一緒に渡してくれた。



「いただきます…。」

「…うめぇだろ?」

「お、美味しい!!!もしかしてお出汁からとった…?」

「まぁな。ちゃんと全部食べて寝ろィ。そして豚になれ。」

「最後の一言余計だからね。」



でもこんなに美味しい出汁なら、ついつい汁まで飲み干してしまいたくなる。私は頬を緩ませながら、もう一度とっても美味しいよといって、また一口うどんを食べた。



「…看病には慣れてんでさァ。」

「慣れてる?…真選組の中で誰かが倒れたら、みんなで看病し合うの?」

「それは女中の仕事でィ。」

「そうなの?」



じゃあなんで慣れてるの?と聞こうとした時、窓の外からなにやら騒がしい声が聞こえた。その声に総悟も気づいたみたいで、総悟は私の部屋の窓から下を覗き込み、そして盛大に舌打ちをした。



「え、誰?なに?」

「チャイナとメガネ。」

「…えーっと、神楽ちゃんと新八くん?」



昨日の夜にあったばかりなのにどうしたんだろう?と思いながら、私が布団から出ようとすると、総悟はいきなり、大人しくしとけといって、私の手からお箸を奪い、そして無理やりうどんを口に放り込んできた。



「!!!!」

「やれやれ、ったくなんの用なんでィ。」



そういって総悟は部屋を出て行ってしまった。残された私は半泣きになりながら、口に突っ込まれたうどんを吸い上げ、頬いっぱいになりながら、なんとか咀嚼して飲み込んだ。当たり前だが、熱々のうどんを急に突っ込まれたら、口の中は大火傷だ。



「総悟のバカっ!!」



私、初めてうどんを食べながら死にそうになりました。



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