×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
ようこそ三日月堂へ!

どうかあなたの未来が明るいものに

第31話

そろそろ帰りますといった当主を見送るため、店の方へと向かおうとすると、廊下の途中で、当主はふいに足を止めた。



「どうして気づかなかったんでしょう。あなたの言う通り、父は、祖父の店を守ろうと、必死だったのかもしれません。祖父の代から始まったお店ですから…。どうしてそんな、簡単なことに…」

「大人になってから分かるっていうやつですかね?」

「そう、なんでしょうか。…あなたも、なにか事情がありそうですね。」

「…ええ、このことは内緒でお願いします。」

「もちろんです。お互いに、確かめられるといいですね。」



そうですねといって、二人で小さく笑いながらお店に戻ると、なぜか店内に数人のお客さんが本棚の前に立っていた。勝手に?!と慌ててカウンターに近づくと、そこには会計を怠そうにしている銀さんがいた。



「え、なんで?ちょ、銀さん?!」

「はいまいどありー。ちょっと名前ちゃん店ほったらかしてダメだろー?このじーさん、店の前でプルプル震えてたぞ。」

「プルプル?!」



銀さんにいわれて会計を終えたばかりのお客さんに目を向けると、そこには常連さんの一人で、毎週必ずこの時間に、楽しみにしているパッチワークを買いに来る、腰を曲げて杖をついているおじいさんがいた。



「わー!すいません!お昼時間長くなってしまって!」

「いや〜、これがわし唯一の楽しみでねぇ。せっかく来たのに買えず終いになったらどうしようかと…このにーちゃんに優しくしてもろたわ。」



本当にすいませんでしたと頭をさげると、おじいさんは別に買えたからもういいよーといってくれたため、私は頭をあげて銀さんにもお礼をいった。



「それにしても、三日月堂の娘さんにもついに婿がねぇー。接客はなってないが、こんな老いぼれに声をかけてくれる若者は最近いないからねぇ、優しい人っちゃー、優しい人なんだろうねぇ。しっかり仕事覚えてもらうんだよー。」



それじゃ、また祝言あげるときは教えてくれよといって、おじいさんは店を出て行ってしまった。…とんだ勘違いをしたまま。



「あれ、お二人はそうだったんですか?」

「違います。」「そうです。」



睨むようにして隣を見れば、銀さんが胡散臭い顔で笑っていたのに腹が立ち、思わず銀さんの腕を思いっきり叩いてしまった。



「いてっ!」

「村山さん、勘違いです。この人の虚言です。お気になさらず。」

「え、あぁ、そうですか。」



でも仲良しですねなんて言われてしまい、そこはあえて否定することもなかったので、私は曖昧に笑っておいた。隣で銀さんが私に叩かれた腕を押さえながら喚いているが無視だ。そんな私たちを見て当主はまた笑い、そして一礼してお店を出て行った。



「なぁ、店番してた時間の手当でる?」

「ボランティアでお願いします。」

「まじか。」



ボランティアで笑顔振りまくなんてやってらんねーよとかなんとか銀さんは言いながら、カウンターから席を立ち、適当に店内をぶらつき始めた。何か用があったんじゃ?と、問いかける前に、レジに人が並んでしまったため、私はひとまず仕事モードに切り替えた。




「やーっと落ち着いたみてぇだな。」

「すいません、待たせてしまいました…。で、銀さん今日はどんな用事で?」



レジにお金を片付けながらそう聞くと、銀さんは別にといって、カウンターに軽く腰掛けた。



「そこ座るとこじゃないですよー。」

「いーじゃねぇか。ずっと立ち読みしてたから疲れたんだよ。」

「熱心に読んでたその週刊誌、買って帰って下さいね。袋綴じ、開けようとしたでしょ。」

「……。」

「バレてんですよ。」



今のところ、店に来て銀さんが手にしたものといえば、ジャンプかエロ系の小説もしくは雑誌。この人、頭の中そんなことでいっぱいなんだろうか?と呆れていると、それを見透かしたのか、銀さんは男はそういう生き物なんだよと言った。



「だからあんまし、家に簡単に男連れ込むのはどーかと思うよ?」

「…村山さんのことですか?何もないですよ。銀さんだって、聞いてたでしょ?」

「へ?は?な、なにが?」

「村山さんとの会話。聞いてたんじゃないんですか?」



銀さんなら、店に私がいないことに気付いたら、それこそ勝手に家に入って私を探すはずだ。それに、そもそも家から私と村山さんが出てきたのを驚きもしなかったのは、知っていたからじゃないかと私が指摘すると、聡明って言われるだけあんじゃねーかと、銀さんは言った。やっぱりだ。



「どこからですか?」

「ほとんど?」

「…村山さんとの約束ですから、内緒ですよ?」



そういって私が人差し指を口元に当て、しぃーってすると、銀さんはおかしそうに笑って、はいはいと適当な返事で応えた。



「ほとんどってことは、わたしのことも聞いてたと思うんですけど…。」

「あぁ、まぁな。でもあれだろ、待っててほしいんだろ。別に人の過去なんざ無理強いして聞くもんでもねー。話したいときに、話せばいいんじゃね?」

「…はい。ありがとうございます…。そうですね…、近々飲みの席の時にでも!」

「は?え?結構大事そうな話なのに、飲みの席でいいの?酒入ってる状態でいいの?!昨日泣いてたくせに、そんなんでいいの?!おいおい俺はてっきりまじモードかと思ってよぉ、こりゃあ、そん時は俺のこの?逞しい胸を貸す用意しとかねーとかって、真面目に思ってたのに、」

「まぁ半分冗談ですよ。」

「半分は本気かよ!!ったく、これだから女は訳わかんねーんだよ!深刻そうな顔しやがって、なに言うかと思ったら、ぜーんぜん大したねーオチのない話すんだろ!!なんなんだよあれ!女に備わってる標準装備かなんかなの?!」

「いや、なんの話ですか。銀さんの彼女の話ですか?」

「はあァァァ?!銀さんに彼女とかいませんけどォォォ?嫌味ですかコノヤロー!」

「じゃあ元カノの話ですか?もういい加減、自分に合わなかった女のことなんて忘れたらいいと思いますよー。すぐ女は女はっていうけど、そんな女ばっかじゃないですからね?」

「いいや、女という生き物はたいてい一緒だし、男も然りなんだよ。根本的なところは、みんな変わんねぇんだよ。」

「もう男女論はいいですから!それよりも!…ってあれ?なんの話でしたっけ?」

「あ?お前ねー、あの話だろ、あれ。…あれってなんだっけ。」

「「……。」」



お互い話の流れを忘れてしまったことに驚き、顔を見合わせた途端、私は吹き出してしまった。くだらないことなのに、なぜか笑いが止まらず、涙まで出てきた。



「あははっ!なにこれっ…こ、コントじゃあるまいし…くくっ…あー!おかしいっ!」

「お前の笑いのツボよくわかんねーな。」

「ほんと銀さんと話していると、悩んでる自分がバカらしくなってきますよね。」

「なにそれ褒めてんの?」



当主に自分のことを少し話せたのは、きっと銀さんのおかげかもしれない。いや、きっとそうだ。この人の優しさが、私に勇気をくれる。そういえば、初めて会った時もそうだった。



「あ、そうだそうだ。銀さん、結局何の用だったんでしたっけ?」

「別に用はねーよ。近くに寄ったついでに顔みとこーと思っただけ。」

「ふふっ」



私は嬉しい気持ちでいっぱいになり、今日は色々なお礼も込めて、銀さんに夕飯をご馳走しようとお誘いすると、待ってました!と銀さんはガッツポーズをした。まさか、本当はそれ目的で寄ったんじゃ?と思わずにはいられなかったが、ひとりで食べるご飯より、誰かと食べるご飯の方が美味しいので、気にしないことにした。



「銀さーん、シャッター閉めるの手伝ってくださーい!」

「手当はでますかー!?」

「貪欲すぎるでしょ!!」



top | prev | next