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ようこそ三日月堂へ!

夜もすっかり遅い時間になってしまった。

第27話

定春をもふもふしながら、神楽ちゃんと妙さんとお話をしていたら、時間があっという間に過ぎてしまった。あまりにも2人と話すのが楽しいので、友達ができたみたいで嬉しいとつい本音を漏らせば、妙さんが「あら?もうとっくに友達だと思っていましたよ?」と言ってくれて、神楽ちゃんも、「名前は一緒にいると落ち着くネ!」といって抱きついてくれた。そのあまりに嬉しすぎる出来事に、私の目が潤んだところで、銀さんがそろそろ送っていくと、声を掛けてきた。



「明日も仕事だろ。」

「あ、はい!」

「今度は女3人でどこか遊びに行きません?」

「わ!いいんですか?嬉しいです!」



それじゃあまた、といって約束を交わし、私はみなさんにおやすみなさいと頭を下げて、銀さんと一緒に万事屋をでた。





「盛り上がってたなー。」

「はい!とっても楽しかったです!」



銀さんはそりゃあよかったといって、私の頭をポンっとたたいた。そういや女子トークに夢中であんまり銀さんと新八くんと話せなかったな。あれ?というか、



「なんで鍋パなんでしたっけ?」

「報酬だよ、報酬。当主が今朝来て、もう依頼の件はいいって言われた。」

「え?!どういうことですか?」



銀さんがいうには期限にはあと1日猶予があったにも限らず、当主がもういいと言ってきたらしい。妖書を見つけれなかったということは、依頼失敗。報酬もなしかと思えば、そうでもなく、ちゃんと支払ってくれたという。しかも、このことは今後も内緒にという口止料も含まれていたらしい。



「依頼主がもういいってーんだ、報酬ももらったし、これで妖書探しとやらは終了だ。」

「そ、うですけど…。」



それは納得のいかないものだった。何が何でも探して欲しいと大金をはたいておきながら、隠し事をしていたこと。そしてそれがバレた瞬間、依頼を打ち切ったこと。確かに銀さんのいうとおり、依頼を受けた側からしたら報酬をもらえたならそれでいい話だが、



「もやもやはするんだろーけど、変な奴だったなくれぇに収めとけ。」

「まぁ、依頼を受けたのは万事屋ですから。わたしがとやかくいう理由はないんですけど…。」

「気になる性分か?」



確かに物事きっちりさせたいタイプですねと、私がいえば、銀さんは笑ってまた頭をポンっとたたいた。なんか、ちょっと、



「子ども扱いですか?」

「あれ?違った?」

「成人してますし、お酒も呑む仲なんですから、子ども扱いはよしてくださいって、前もなんかで言いませんでしたっけ?」

「でもよぉー、ちょうどいい高さにあんだよなぁ、名前ちゃんの頭。」



そういって銀さんが頭に腕を置いてきたので、私が笑いながらやめてくださいよといってその腕を払っていると、道の横から突然低い声が聞こえた。



「滅びろぉ〜滅しろ〜」

「ひっ!!」



驚きのあまり銀さんの腕にしがみついて、背中に回ると、暗がりの中から人がゆっくりと出てきた。



「…おい、長谷川さんよぉ、んなとこで何してんの?また家探しか?」

「は、長谷川さん?」

「うるせェェェ!!この裏切りものめェェェ!!」



なんで夜なのにサングラス?と、どうでもいいことを疑問に思いながら、銀さんに詰め寄るその人を凝視していると、その人がこちらを見てさらに声を荒げた。



「こぉぉぉんな可愛い子を連れちゃってさぁ!!!そりゃあ俺と飲みに行くこともなくなるよね!!こんなおっさんより可愛い子だよね!!」

「おい、こんな夜に叫んでんとまた捕まんぞ。」

「またってなんだよまたってええ!!誤解を招く言い方しないでくれよおお!!」



銀さんの知り合いで絶賛酔っ払い中?と銀さんに尋ねれば、こんな大人になんなよと言われた。銀さんにそんなこと言われたら、絶望だじゃないかと思ってしまった。



「そうだよお嬢ちゃん、俺はね、絶望まっしぐらなんだよ…一時の感情に身を任せてたせいで仕事も家族もなにもかも失ったんだよぉ?!」

「(狂気…!!!)」



なにがあったかは知らないが、しばらく長谷川さんの銀さんに対する当てつけと愚痴は続いた。適当に相槌をする銀さんにこの場を任せていたら帰れないと思い、私はそっと、泣き叫ぶその人にハンカチを渡して落ち着いてくださいと声をかけた。



「えっと、いろんなことがあって、大変だったんだと思います。けど、そんな卑屈にはならず、どうか頑張って下さい。頑張って、なんか簡単に言うなって思われるかもしれませんが、誰か一人でもあなたを応援する人がいたら、それって力になると思うんです。私は、というか銀さんもその、頑張れって応援するしかあなたの力になれませんから、どうかその力を糧に頑張ってみて下さい。」

「お、お嬢ちゃん…。」

「…何かの本で読んだんですが、すべて失ったら、もう失うものがありませんから。もう得ていくしかないんだそうです。逆に失うものがなければ得れるものもないとか。だから、なにが言いたいかっていうとその…全てを失ったひとは強いんです、無条件にとっても。もう失うものないわけですから。だからその強さで、頑張ってみて下さい。」



伝えたいことをうまく伝えきれず、自分でもなに言ってるかわからない状態だし、酔っ払い相手にこんなこといっても意味があるのか分からないが、長谷川さんはただただ私の顔を見てまた大泣きを始めた。



「こんなっ…こんな風に言われたのは、初めてだよっ…おじさんっ頑張ろうかな…!頑張ってみようかな!」

「よし、んじゃ名前帰るか。」

「え?!このタイミングで?!」



どこまで銀さん長谷川さんに冷たいの?!と思いながら、確かにこのままここにいたら朝まで愚痴に付き合わないといけなくなりそうだったので、私はもう一度長谷川さんに大丈夫ですか?と声をかけた。大丈夫、今日は満月をお供にいい酒が飲めそうだよと、返事が返ってきたので、私はそれならよかったと笑って、その場を後にした。



「前まで一緒に飲んでたなら、今もたまに会ってあげたらどうですか?」

「たまに飲んでるぜ?そうじゃなくてありゃやっかみだろ。嫉妬だよ、嫉妬。こ〜んな可愛い子といるから嫉妬してんだよ。」

「こ〜んな可愛い子の言い方に悪意を感じますね。」

「まんざらでもなさそうだったな。」

「女の子はみんな可愛いって言われると、嬉しいもんですよ。」



長谷川さんと話してた時間が思っていたより長かったらしく、腕時計を見やると結構な時間になっていた。早く帰って休まないとと思っていると、ふいに銀さんが私の名前を呼んだ。



「はい?」

「さっきの、長谷川さんにいったやつ。あれ、本当に何かで読んだ受け売りの言葉か?」

「…そうですよ。どうしてですか?」

「いや、…その通りだと思ってよ。だから、どんな本にそんなことが書かれてんのか気になったんだよ。」

「…タイトル、忘れちゃいました。思い出したら、教えますね。」



うまく笑えただろうか。声は震えていないだろうか。銀さんの目を見ることができず、わたしは自分の足元を見ながらそう答えた。



「なぁ、名前。」

「…。」

「まだなんも、思いださねぇの?」



どうして急にそんなことを聞くのだろう。私はついに足を止めた。



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