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ようこそ三日月堂へ!

美味しいより食べれるかどうかが大事。

第26話

「あ、あの銀さん?」

「…。」

「台所から材料を切る音にしては激しすぎる音がその、さっきから聞こえてくるんですけど…。」

「…名前さんすいません。」

「なんで謝るの新八くん、てか、なんで誰も目を合わせてくれないの?」

「名前の作った鍋が食べたいネ。」

「おまっ!それ絶対あいつの前で言うなよ!」

「そうだよ神楽ちゃん!もっとひどいことに!」

「なんで小声の会話なの、なんなのひどいことって。ねぇ、誰か答えてくださいよ。」



万事屋に着くなり、新八くんのお姉さんこと妙さんが、お鍋は私が用意しますねといって台所に向かったのが数分前のこと。私も何か手伝います!といってあとを追いかけたが、ゆっくりしといてくださいと言われてしまい、万事屋の3人の元に戻ると、なんで戻ってきたんだ!と、血相を変えて言われた。その時点で何かおかしいと思うべきだった。



「今からでも遅くないからまじで台所行って手伝ってこいよ。」

「なんでですか。そういう銀さんが行けばいーじゃないですか。それか新八くん。お姉さんでしょ?」

「名前さん、大変申し訳ない話なんですが、僕の姉は、その、料理が…」

「はーいみなさーん!お待たせしました。お鍋、出来上がりましたよー。」 

「「(間に合わなかった!!))」」

「わーい!…わ、わーい?(え?鍋?鍋だよね?)」



出来上がりましたよという声に、喜んでわーいとか言ってしまった数秒前の自分と、頑なに手伝いに行けと言った3人の言葉を無視した自分を、盛大に叱ってやりたい気分になりながら、私は鍋らしきものを見た。そう、それは鍋らしきもの。



「さぁさぁみなさん、遠慮せずに食べて下さいね。」

「(なにこれなんでこんな黒いの。)」 

「おい新八からいけ!」

「嫌ですよ!銀さんから!」

「神楽ァ!!」

「これ食べないと死ぬこれ食べないと死ぬ」

「か、神楽ちゃん?!?!」



みんなが必死になって最初の一口を譲り合っていると、妙さんが素敵な笑顔で机を叩き、私たちは一斉に口を閉ざした。



「食べろや。」

「「「い、いただきまーすっ!!!!」」」
 


噛むたびにじゃりじゃりいうこれは、一体なんですか。





「最低ですよ…こうなることわかってて誘うとか…最低ですよ…。」

「泣くな、名前。お前だけ誘うつもりだったのに、買い出し中にあいつに見つかったのが運の尽きだったんだよ。」



じゃあ誘わなくてよかったのに!とは言えず、せめて事情説明してくれたら何が何でもお妙さんにお鍋なんて作らせなかったのに!といって、私はまだ口の中に残っている苦いものを流し込むために、お茶を飲んだ。



「破滅的だろ、あいつの料理。」

「聞かれたら怖いんで答えかねます。」



恐ろしいほど複雑な味をしていた鍋は、なんとか必死になって完食した。新八くんは後片付けをしに台所に、神楽ちゃんは見せたいものがあるといって外に出てしまった。そして食卓にいるのは、私と銀さんと妙さんだけだった。



「なーに?二人してこそこそ話なんて。」

「こ、こそこそなんてしてません!」
  


私は咄嗟に銀さんから離れて、思いっきり両手を振ると、妙さんは笑って、私ともよかったら仲良くして下さいねといって言った。それがとても嬉しくて私は思わず大きな声で返事をしてしまった。銀さんが隣で笑うのが聞こえた。



それからしばらく、女二人で話を弾ませた。といっても主に妙さんの話で、早くに両親を亡くしたこと。それから道場を継ぎ、大切な道場を潰さないよう夜はあのキャバクラで働いて稼いでいること。そしてゴリラこと、近藤さんにほぼ毎日ストーキングされていることなど。波乱万丈な話を私が聞いている間、銀さんは寝そべってテレビに見入っていた。しばらくして新八くんが後片付けを終えて戻ってくると、同時に、玄関から神楽ちゃんの声が聞こえた。



「あ、やっと帰ってきましたね。」

「神楽ちゃんたらどこに行ってたのかしら?」

「たぶん定春迎えに行ってきたんだろ。つっても、預けてたの下の階だけどな。」

「あー、迎えに行くついでにまた神楽ちゃんお登勢さんのところで、ご飯食べ漁ってきたんですね…。」



定春、といえば前に一度聞いたことのある名だ。いったいどんな人なんだろう?と、思っていると、襖が勢いよく開いた。



「名前待たせたアル!定春連れてきたヨ!」

「わお〜ん!」

「…。」



犬、犬だよね。たぶん、犬…?大型犬?いやいや、そんなの比じゃないほど大きくない?と、ひとり頭の中で状況整理をしていると、その謎の生き物は私のところへきて、くぅんと擦り寄ってきた。



「定春が噛まねぇだと?!」

「そ、そんな!僕らの時は血だまりになるほど噛むのに!」

「え゛っ?!そ、そんな凶暴なんですか?!」



その姿に一番に驚いたのは銀さんと新八くんだった。信じられないといってこっちを凝視しているが、そんな二人がいうほど凶暴には見えない人懐っこさだ。だってさっきから擦り寄り方が尋常じゃない。大きすぎるだけで、やっぱり犬なんだろうか?と思いながら、私は定春にそっと、触れてみた。



「も、もっふもふ…もっふもふ!!!!!!」

「え?名前ちゃん?」

「名前さん?!」

「きゃぁぁああ!!!!なにこのもふもふ!!可愛すぎるううう!!わぁ!そんなにスリスリされたらたまんないよおおお!!可愛いいい!!神楽ちゃん!!この子、すっごく可愛いんだけど!!」

「定春も名前のこと気に入ったみたいヨ!よかったネ!」

「わぁぁ!!抱きついたらさらにたまんない!!すごい!!定春って、わたしも呼んでいいかな?!」


あまりのもふもふさと、可愛らしい定春に完全に虜になった私は、これでもかっていうくらい定春に抱きついて可愛いを連呼した。ぬいぐるみでもこの大きさとこの手触りのいいものは、前の世界ではなかった。これは、素敵すぎる。


「わ〜!もうたまんないっ!!」

「銀さん、名前さんって犬好きなんですね。」

「そーだな。好きみたいだな。」



それから私はしばらく、気がすむまで定春に抱きつき、もふもふしまくった。妙さんも定春のことが好きなようで、神楽ちゃんと女3人で存分に定春と戯れあっているのを、新八くんと銀さんは信じられないものをみるような目で見ていた。


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