ようこそ三日月堂へ! |
はじめましてがたくさん。 第24話 待ちなせェといった総悟は私をその場で引き止めて自分は2人の方に行ってしまった。なんなの?と思っていると、神楽ちゃんとどうも言い争いを始めた様子で、しまいには殴り合いの喧嘩が始まってしまった。 「なっ?!なにしてのおおお?!」 「あ、名前さん!近寄ったら危ないですからこっちに!」 「し、新八くんあの2人!」 「いつものことなんで…犬猿の仲なんです。」 総悟が強いことは知っていたが、あんなに可愛い神楽ちゃんが総悟と互角にやりあえるほど強いとは驚いた。そりゃあ銀さんの腹を殴って倒れさせるほどの力があることは知っていたが、それとは比べ物にならない強さと速さだ。それにしても、総悟と2人が知り合いだったとは知らなかった。 「あら、新ちゃんこちらさまは?」 だんだん激しくなってきた2人の喧嘩を、流血沙汰にならないかハラハラしながら見守っていると、新八くんの名前を呼ぶ声が聞こえた。その人はちょうど新八くんの後ろ側に立っていて、とても朗らかに笑う綺麗な女性だった。 「姉上!あの、こちら以前にお話しした、三日月堂の名前さんです!偶然さっき会ったんですよ!」 「あら、あなたが?初めまして。わたし新ちゃんの姉の志村妙と申します。」 そういって綺麗なお辞儀をする女性をみて私は一瞬固まってしまった。初めまして、ではない。私はこの人を一度、見かけている。 「(お、男の人をボコボコにしてた人だぁああ…!!)」 それは夜の繁華街で土方さんに引き止められた時、とあるお店から出てきたあの女性だった。まさかあの強い女性が新八くんのお姉さんだったとは…。ってことは、もしかしたら新八くんも相当強い?! 「いや、僕はぜんぜん弱くて、…地味で…よく忘れられるし、…メガネの存在意義しかないし…」 「えっ゛?!ご、ごめんなさいっ!わたし声に出してました?!(メガネの存在感意義ってなに?!)」 私の前で分かりやすく項垂れていく新八くんに、私は慌てて謝罪をした。なぜか新八くんの深い闇を覗いた気がして、どっと罪悪感が生まれた。変なこと言わなきゃよかった!と後悔しつつ、私は改めてお姉さんの方に向き合った。 「あ、え、っと!あ!お、お姉さん!わたし、改めましてですけど!三日月堂の名前といいます!万事屋のみなさんと、仲良くさせていただいております!」 「ええ、新ちゃんから聞いてますよ。どうも銀さんとよく呑みにいく仲だとか。だけど、名前さん。ろくに給料も払わずにいる男とお酒なんか飲んでも楽しくないでしょう?あんなダメ人間丸出しの人と話してて楽しいわけがないですよねぇ?だって給料は払わないくせに呑みにいくお金はあるような男なんか世の中のゴミと一緒ですものねぇ?」 「すすすすすすすすいません!!!」 なぜ私が謝っているのか、自分でよくわからないが、さっきから笑っているようで目が笑っていないお姉さんの次から次に出てくる言葉に、私の冷や汗がとまらない。どうかこの場を助けてくれ弟くん!と思って新八くんを見やると、まだ項垂れてぶつぶつ何か言っている。あぁ、新八くんはメンタルが弱いんですね、そうなんですね。 「(だめだ、あっちはまだ喧嘩してるし、新八くんは使えないし、お姉さんなんかグイグイこっちきてるし!どうしよう!帰りたい!)」 半ば泣きそうになっていると、それまでずっと銀さんの悪口を捲し立てていたお姉さんが急に黙り込んだ。どうかしましたか?と話しかける前に、お姉さんは近くのゴミ箱を思いっきり蹴り上げた。 「お、お姉さんんんんん?!?どうしましたか!?そんなに腹が立ちましたか!?わかります!わかりますよ!?あの天パ見てるだけで無性にむしゃくしゃしたくなる時ってありますよね!はい!!」 泣きそうどころか本当に涙でてきた!どうしよう!と思っていると、お姉さんが蹴り上げたゴミ箱から、ゴロッと、人がでてきた。人、…え?人が? 「っ!!!!!!!!!」 ホラーだ!!殺人だ!!事件だ!!!と私が完璧にパニックになって、人らしきものを指差しながら口をパクパクさせていると、誰かが落ち着けといって、後ろから私の目に手をかぶせた。 「あんな汚いもん見る必要ねーぞ。」 「ぎ、銀さん?」 「お?よくわかったなー。」 目隠し状態とはいえ、声で銀さんって分かるし、なんとなく前から思っていたけど、銀さんは少し甘い匂いがする。あれ、でも銀さんどこから?いや、新八くんと神楽ちゃんがいるってことは、銀さんもいるのが当然か。万事屋はいつだって3人 のイメージがもうついていた。 「落ち着いたか?」 「あ、はい…いや!でも!あの!お姉さんが!ゴミ箱から人が!」 「名前さん、驚かせちゃってごめんなさい。どうしても駆除しとかないといけないものが目に入っちゃって。」 「く、駆除…」 何だが前もそのキーワードを聞いたような…と思いながら、私はそっと銀さんの手をどけて目を開いた。するとそこには、デジャビュのような光景が広がっていた。 「んでィ、近藤さんまーたやられてんですかい?」 その光景にまたもや私が絶句していると、さっきまで喧嘩をしていた総悟が、その人に立ち寄り、頬を叩きながら声を掛けだした。もしやこの人、常習犯なのかと思って、不審な目を向けていると、倒れていた男の人は、すまんすまんと笑いながら起き上がってきた。よくもその状態で笑えるなと、ぞっとした。 「ちょっとおまわりさん、早くその人、牢屋に打ち込むなり地獄に落とすなりしてくれません?私何度もストーカー被害を訴えてますよね?なにやってんだよ無能な税金ドロボー野郎が。てめぇらがやれねぇなら私が直接手を下すぞゴラァ。」 「もう直接手を下してますぜ姐さん。とりあえず今日らここいらで連れて帰りまさァ。」 そういって総悟が男の人を引きずって帰ろうとしたが、何かを思い出したかのように、私の元に戻ってきた。あれ、そういえば喧嘩していた神楽ちゃんはどこに?と、探せば、お姉さんの隣で何かを食べていた。疲れた様子もなければ、特に怪我もなさそうで、一安心だ。 「名前。」 「え、あ、はい!なに?」 「これ、俺らの大将でさァ。」 「こ、これって…そんなモノ扱いみたいな…」 私が総悟の突然の紹介に戸惑っていると、男性は私の顔を見るなり、もしや!と叫んで、満面の笑みで私の手を握ってきた! 「ひっ!」 「君か!君が名前ちゃんだね!いやー!こんなとこで会えるなんてなぁ!トシがいつも世話になってるそーで!」 「は、初めまして!三日月堂の名前です!こちらこそ土方さんにはよくしてもらってます!」 大きな体つきに大きな声に圧倒されつつも、負けじと、私も声を少し大きくして自己紹介をした。豪快、という言葉が似合いそうな人。この人が、真選組の大将。つまり、偉い人。それなのに、どうして1人の女性にボコボコにやられているんだと私はつい顔を引きつらせてしまった。 「そーかそーか!総悟とも仲がよかったとはなぁ!なんだぁ俺だけ仲間外れじゃーん!総悟、俺も仲間にいれてくんなきゃー。」 「近藤さんきめぇんで、とりあえずそいつの手、離してやってくだせェ。」 「そうだそうだ、なに勝手に俺の名前に触れてやがんだゴリラ。」 「え?!なに?!万事屋とそういう関係なの?!」 「旦那、名前と知り合いで?」 「いや、それこっちのセリフなんだけど?なに?名前ちゃん、こいつらと知り合いなの?」 急に話しをふられても困る。こんなに大勢の知り合いに囲まれて、次々と話しかけられても、答えようがない。それに私だってみなさんがお互いに知り合いだったとは驚きだ。とりあえずこの騒がしさ、さっきから周りの人たちの目が痛いので、少し静かに、なんならちょっと移動しませんか?と提案しようとしたところで、突然、大きな声で名前を呼ばれた。 top | prev | next |