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ようこそ三日月堂へ!

自由気ままの年下くんと。

第23話

しばらく土方さんは総悟を説得しようと試みていたが、全く言うこと聞く気のない総悟に、これ以上こいつに構ってられねーといって諦めて帰ってしまった。帰り際、私がお願いだから総悟を引き取って下さいと懇願しても、こればかりは聞いてくれなかった。私は初めて土方さんに腹を立てたかもしれない。



「名前ー、土方の野郎のせいでお腹の空き具合がやべェー。なんか食わせろ。」

「(副長様でも手に負えない奴を、わたしにどーしろっていうんですか。)」



わたしはこの日何度目になるか分からない溜息をついた。





「総悟ー、総悟ってばー、もうお店閉めたよー、帰りなよー、おーい、…真選組に帰れー。」

「誰に口聞いてんでィ。」

「しゅ、しゅいましぇん。」



お店を閉めて売上管理も全て終えてから、居間で昼寝をしていた総悟を起こしにきたが、どうも起きる気配がない。それならちょっとだけと思って、悪ふざけで帰れなんて声をかけてみたら、このざまだ。思いっきり片手で両ほっぺを掴まれ、ひょっとこみたいにな顔にされてしまった。



「ウケる。」

「はにゃして。」



総悟は力加減をきっと知らない。私は離してもらった頬をさすりながら、もう一度、閉店したことを伝えると、総悟はもうそんな時間かかィとあくびをした。



「わたし今から買い物に出掛けるから、総悟もそろそろ、」

「なに買うんでィ?」

「……ケータイ。」



昨日の一件でケータイの必要性を感じた私は早速今日にでもケータイを買いに行こうと決めていた。ただ、この世界でケータイをひとりで買いに行くのは少し気が引けるので、万事屋によって銀さんについてきてもらおうと考えていた。ちょうど、妖書が見つかったかどうかも聞きたかったし。



「持ってねェーのか。」

「うん、だから友達についてきてもらおうと思って。」

「ふぅん。じゃあ俺がついていってやりまさァ。」

「え?」



まさかの申し出に私が驚いていると、総悟はそうと決まったら行くぜといって、先に店を出てしまった。私は慌ててカバンを手に取り、戸締りをしっかりしてから、総悟を追いかけた。どうしてこうも私の周りの男の人は、女の人を待たずして勝手に行ってしまうのかと、苦笑せずにはいられなかった。





「せっかくの半休、こんな風に過ごしていいの?もったいなくない?」

「俺がどう休みを過ごそうが、勝手だろィ。」

「まー、そうなんだけどね。」



総悟がいるため自転車は使わず、ケータイショップには歩いていくことにした。自転車と違って、歩いていると周りをゆっくり見渡すことができるため、私は改めてこの辺にどんなお店があるのかを確認しながら歩くことにした。



「そんなキョロキョロしてどーしたんでィ。」

「んー、どんなお店あるのかなって。あ、ここが弁当屋さんか!」

「…店やってんのに土地勘ねぇのかよ。」

「うん、だってお店を終えて外に行くっていったらスーパーか商店街、あとは友達と呑みに行くらいだから。まだ明るいうちにこっちの方をゆっくり見て回ったことないんだ。あ!こんなとこにアクセサリーショップある!」

「そういやあんた、洋服だよなァ。」

「え゛?!あ、うん…ら、楽なんだよねー!洋服!」



この世界に来たとき、私の洋服をみて深月さんたちは珍しいねと言った。私からしたら着物の方が珍しく、私はそれまで着物に触れたことも着たこともなかった。ただ、深月さんたちは私を記憶喪失だと思っているため、着物を知らない私を怪訝には思わず、一から丁寧に着付けを教えてくれた。おかげさまで着付けはできるようになったが、どうも着物は動きづらくて性に合わない。洋服は別に珍しいだけで、ダメなわけじゃないので、私は前の世界と同様、洋服で過ごしていた。



「着物はあんまし着ねェのか?」

「うん、深月さんたちと出かける時くらいだったかな。」

「深月さん?」

「あれ?…あ!そっか!」



土方さんが事情を知っているため、つい総悟も私のことを知っている前提で話をしてしまっていた。さっき私の土地勘ないことに不思議がっていたのも、そのせいだ。私は改めて、自分がどうしていま三日月堂で働いているのかを、なるべく手短に総悟に説明した。



「なるほどなァ。そりゃあご苦労なこった。」

「あはは!苦労はしてないよー、周りの人たちによくしてもらってるおかげでね。」



私がそう言うと総悟はそーかィといって笑った。変に同情や心配されずに済んでよかったと私は内心思った。少なからず、私は自分のことを話すときに罪悪感を感じている。だって、記憶喪失なんて都合のいい嘘をついて、いつまでもこの世界に甘えて、前の世界のことを…



「おい、どーしたんでィ急に立ち止まって。置いていきやすぜ?」

「あ、ごめん!」



私は大きく息を吸って自分の顔をバンッと叩いた。ありきたりだが、なんとなくこれで気持ちが切り変わるような気がした。考えたらきっと止まらない。足が竦んでしまう。いまはなにも考えないでおこうと、私は歩き始めた。





「ありがとうございましたー!」



無事、ケータイを買えた私は隣にいる総悟にお礼を言って頭を下げた。やっぱり心配していた通り、この世界の料金設定がいまいちよく分からず、総悟が代わりに私の意見を聞きながら、必要なプランを決めてくれた。宇宙に通話するとか、近未来的すぎてパッとしない。



「貸しな。」

「わっ!え、てかなにそれ、操作はやー…。」

「…ババァ。」

「なぁんだとぉ?!」



年下といっても、二十代前半の私と総悟の歳の差なんかしれているのに、ババァ呼ばわりとはいい度胸である。ていうかそもそも総悟は何歳なんだと思っていると、ほらよっといって総悟は買ったばかりのケータイを投げ渡してきた。落として画面割れたらどうしてくれるの!?と、文句を言いながら渡されたケータイの画面を見やると、沖田総悟という文字が登録されていた。



「なんかあったらすぐ連絡するからなァ。」

「え、そこはなんかあったら連絡してこいじゃないの?」



横暴だなぁと思いつつも、初めて登録された文字につい笑みがこぼれた。連絡先に名前が増えるだけで、こんなにも嬉しい気持ちになるもんなんだぁと思っていると、名前さん?と後ろから名前を呼ばれた。



「あ!新八くん!それに神楽ちゃん!!」



そこには数日ぶりに合う2人が並んでいた。思わぬ遭遇にテンションが上がり、私は2人の元に駆け寄ろうとしたら、



「ちょっ!」

「待ちなせェ。」



思いっきり総悟にスカーフを掴まれた。いやだから、それ苦しいから。犬のリードじゃないんだからね?人を引き止めるときは一言声をかけるだけでいいんだよ?と、総悟に色々と言ってやりたいところだが、とりあえずまずは、本気で手を離してくださいと私は総悟に懇願した。



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