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ようこそ三日月堂へ!

本屋ではお静かにお願いします。

第22話

月末はいつも新刊の入荷が多く、この日も私は開店前の作業に追われていた。昨日の疲れが少し残ってはいるが、ゆっくりはしてられない。雑誌を優先的にあけていき、棚に陳列していく。最近、どこの雑誌も付録が豪華だな、なんて思いながら雑誌の付録付けをしていると、お店のシャッターを叩く音がした。



「張り紙に開店時間書いてんでしょーがー…。」



たまに開店前にこうしてシャッターを叩く音がすることがある。シャッターを少し開けて覗くと、開店時間なんか知ったことじゃないとでも言わんばかりに、店に入らしてくれっていう変な人がいるのがお決まりだ。今日みたいに作業に追われている時は余計にこのパターンに腹が立つ。私は文句を言いながらシャッターを少し開けて顔を出した。



「…え。なに、してんの。」

「早く入れろィ。」



なぜかそこには隊服を着た総悟が立っていた。私が突然のことに反応が遅れていると、総悟は構わずに店の中に入ってきた。



「ちょちょ、ちょっと待ってなに、どういうこと?総悟、仕事は?」

「おめぇの手伝いにきた。」

「いやいやいや、なにそれ誰命令?そんな必要ないって、あー!それ付録!付録だから!開けちゃダメ!!売り物!」

「昨日、おめぇに怪我さしちまったから、詫びでさァ。」

「怪我って首ちょっと切っただけで仕事に支障ないよ?!大丈夫だよ?!」

「俺の気が済まねぇんでィ。」

「いや、すごく嬉しいけど!でもちょ、ちょっと!それビニール剥がしちゃだめ!さっき掛けたばっかだから!」

「おー、この雑誌読みたかったんでさァ。」

「ねぇ?!これ手伝いじゃなくて邪魔しにきたんじゃ?!てかサボりに来たんじゃ?!」

「うるせー、さっさと仕事しやがれィ。」

「総悟おおおお?!?!?」



それから総悟のいらない手伝いのせいで、本来ならもう書籍の検品にいけているはずが、未だに雑誌の付録付けが終わらないまま、三日月堂は開店してしまった。





「あれ、名前ちゃん今日はずいぶんとオシャレだねー。仕事の後はもしかしてデートかい?」

「違いますよー、気分です気分!」



そういって私はカバーをかけた文庫本をお客さんに渡した。まだお昼にもなっていないこの時間までに、何度も聞かれたこのスカーフ。いつも仕事の時は、仕事着として同じような服装でいるため、こうした少しの変化が珍しいのか、常連客はみなすぐに気付いて声をかけてくれる。それがちょっと嬉しくもあり、ただこのスカーフがオシャレでも何でもなくて、昨日の怪我を隠すためのものなので、複雑な気持ちでもあった。



「さてと、そろそろ新刊は出し終わるし…注文品の前に客注処理しようかな…。」

「まだ仕事あんのかァ。」

「そりゃあ閉店まで仕事はみっちりあるよ!本屋さんのこと暇だと思ってるでしょ?とんだ勘違いだからね!」

「へいへい。」

「ていうか総悟、ほんとうに真選組の方は大丈夫なの?」

「いらっしゃいませー。」

「い、いらっしゃいませ!(またはぐらかした!)」



総悟とはいうと本当に朝からずっとここに居座っている。最初こそは邪魔ばっかりしてきたが、今は大人しくカウンターで私の作業を手伝ってくれている。お客さんがきたらこうして挨拶もしてくれるし、問題ないといえばないのだが…と、私の心配をよそに総悟はあくびをひとつした。



「名前ー、隊服脱がされた今の俺ァ、真選組の隊士じゃなくて本屋の総悟でィ。」

「いや本屋の総悟でィって言われても…それに隊服は仕方がないでしょ?真選組の人がお店にいたら、何かあったかと思われちゃうじゃん。」



総悟に脱いでもらった隊服の上着とスカーフはシワにならないように家の中に置いてある。白シャツと黒ズボンだけなら、真選組の隊士とはわからないため、ここにいる限りはその格好でいてもらうよう無理やり約束した。



「つーことで本読みながら少し寝まさァ」

「なにがつーことなの?本屋の店主は寝ないよ?てかさっき暇じゃないって私言ったよね?店番頑張ろう?」

「おめぇがな。」

「いやそうだけど!!店主はわたしだけど!!じゃあ総悟はなにしに来たの?!しかもなにそのアイマスク!ばかにしてんの?!ふざけてんの?!」

「うるせーなァ母ちゃん。」

「誰が母ちゃんだぁあ!!!」



そんな歳じゃないしてかうるさいってなに?!って叫んでる私を無視して総悟は家の中に入っていってしまった。あれは、本気で寝るつもりだ。いや、本当に何しに来たんだと私がカウンターに項垂れていると、ずいぶんと慌てた様子の土方さんが店に入ってきた。



「おい名前!!総悟いるか?!」

「あ、え、はい…朝から…」

「総悟おおおおお!!おめぇ何やってんだあああ!!!」



私の返事を聞くなり家の奥に向かって叫ぶ土方さん。あまりにも大きな声に私はつい肩をビクつかせてしまった。店内にお客さんがいなくてよかったと思いながら、私は土方さんによかったら家に上がってくださいと、声をかけた。



「多分居間で寝てます。ほんとさっき寝るっていって家に入っていったので…。」

「チッ…あいつ何やってんだ。」

「わたしにも分かりません。」



とりあえず土方さんが来てくれて助かりましたと私が真顔で言うと、土方さんは眉間に皺を寄せて迷惑かけたなと謝ってくれた。そして土方さんが家に上がろうとするより先に、総悟がお店に戻ってきた。



「んでィ土方さん、こんなとこまで暇なこった。」

「おめぇのせいだろうがっ!!!ったく逃げるとは思ってたが、まさかここにいたとはな…。おい、お前覚悟はできてんだろうな?」

「土方さんを殺る覚悟はいつでも!」

「上等だこのヤロー。こっちもお前を殺る覚悟がいまできたとこだ。」



あぁ、店内にお客さんがいなくてよかった。どうせならこの2人が帰るまでは誰1人来ないで下さいと、騒がしい2人を横目に私は願った。



「俺ァ今日の午後からは半休なはずですぜ?」

「その半休はなんでもらえたんだ?あ゛ぁ?」

「…さぁ?」

「っざけんな!!午前大事な任務があっただろうが!!それに出る代わりにお前に半休やったのに、なにちゃっかりサボってくれてんだよ!!!」



午前中に大事な任務?2人の会話に聞き耳を立てながら、口出しはせずに、私は黙々と仕事を続けた。やっぱり総悟は、傷のお詫びでもなんでもなく、単に仕事をサボりにきたんだなと知って私は苦笑した。世話のやける部下を持って土方さんも大変だなと思っていると、急にぐいっとスカーフを引っ張られた。



「くるっ…し!」

「俺ァ、こいつのことが心配で心配で、こうして見に来て、仕事手伝ってやってんでィ。お偉いさんの娘相手にしてるより、一般市民のために働いてるほーが性に合ってんでさァ。」

「もっともなこといって逃げてんじゃねーよ!!…はぁ〜。とりあえずもう先方は帰っちまったよ。まぁ、また来るって言ってたがな。」



話の内容がよくわからないが、自分が今死にそうになってることだけは分かる。私はスカーフを引っ張る総悟の手を叩いて、お願いだから離してと懇願した



「とりあえず半休はなしだ。帰るぞ。」

「やだー。」

「なにがやだーだ!!!駄々こねんじゃねェェェ!!!お前昨日の始末書も書いてねーだろうが!!」

「やりますぜー、気が向いたら。」

「お前の気は一体いつ向くんだよ!!」

「おい名前、俺がいなくなると困るよなァ?」

「へ?!」



引っ張る力が緩み、私はここぞとばかりに総悟から逃れて息を大きく吸った。首怪我してるのに、その首を絞めるってどういう神経してんの?と、恨めしそうに総悟を見やると、もう一度困るよな?と言ってきた。…困る?まさか!全然困らないから帰って下さいとかなんとか一言文句を言ってやろうと思ったら、瞳孔開いた目で総悟が3度目の困るよな?を凄んで言ってきた。これは、あれですよね、立派な脅しですよね、おまわりさん。



「いや、あの、仕事はもう…ひとりで…」

「名前?」

「ここここここ困りますはい!!まだ品出し終わってませんし重たい荷物もまだありますし男手があるとたいへんそりゃあもう助かりますです!!!!」

「名前も脅されてんじゃーよっ!!!!」

「だったら助けてくださいよ!!!!怖すぎます!!!無理です!!!逆らえません!!!!」

「ってことで土方さん、俺ァ半休このままここにいますんで。あとよろしくー。」

「よろしくじゃねぇぇぇぇ!!!!!」



おまわりさんお二人、一般市民の私を困らせて楽しいですか。



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