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ようこそ三日月堂へ!

隠し事は不信を招く

第21話

慌てて受話器を手にしたものの、よく考えれば、今は神楽ちゃんくらいの歳の子が寝てても可笑しくない時間だ。そんな時間に電話を鳴らすのは忍びない。きっと銀さんのことだから、スナックお登勢で呑んでるかもしれないと思い、私はスナックお登勢に電話をかけた。



「あ、すいません!私、名前です。あ、はい、そうです!銀さんっていまそちらにいますか?」



予想通り、銀さんはスナックお登勢にいるようで、すぐに電話口から銀さんの声が聞こえた。



「おー、名前、お前なにしてたの?電話してもでねーし、家行ってもいねぇーし。」

「わー!ごめんなさい!ちょっと買い物しに出掛けてまして…。」



やっぱり電話をくれていたこと、しかもわざわざ店にまで来てくれていたことを知り、私は相手に見えもしないのに必死に頭を下げて謝った。銀さんはそんな私を笑って、気にすんなといってくれた。



「それだけじゃなくて、昨日わたしが酔い潰れて送ってもらったことも、本当にありがとうございました…あの、なにか変なこととかしませんでした?」

「いんや?静かな酔っ払いだったぜ?」



静かな酔っ払いって一体何だろうと思いつつも、ひとまず何か人様に迷惑をかけるような失態はしていないことに、私は安堵した。



「そうそう、今日行ってきたぞ、当主んとこ。」



そう言って銀さんは今日の出来事を話してくれた。まずは当主に、友人である人物に会いに行き、当主と知り合いであること、妖書がなくなったことを話したことを報告した。もちろん、疑う素振りは見せていないというと、それなら構わないと、特にお咎めはなかったそうだ。それから、その友人が妖書のことを詳しく知っている様子だったことを話し、改めてどこまで秘密を相手に話したのかと問うと、そこはすんなりと、ほとんどのことを話したことを認めたそうだ。



「理由はなんて?」

「言いたかったから、だとよ。」

「…。」

「当主は妖書の存在を秘密にしなきゃいけない掟があったからそれに従っていただけで、ずっとなんでそんなもん守らなきゃならねーんだって思ってたらしい。別にやましい内容じゃあるめーし?むしろ、誇らしいもんじゃねーかと、常日頃思っていたらしい。だから友人につい口を漏らした時に、もう半ばヤケになって話したんだとよ。」

「はぁ。」



私は間抜けな返事しかしようがなかった。まぁ、納得できる理由だが、当主であろう人が、代々守られてきた掟をそんな風に破るなんて、正直どうかしていると思う。その結果、妖書がなくなってこのザマだ。



「で、なんで突然、あの日妖書のことが気になって、紛失に気が付いたかなんだけどよぉー。」

「はい。」

「そん時だけずいぶんと歯切れが悪かったんだよ。」

「え?」

「動揺して見えたしすぐに答えようとしなかった。で、しばらくして出た答えが、近々その書を人に譲る予定があったらしい。それで確認のために見に行ったんだと。」



私は驚いた。それは今朝、店に来た全当主の村山さんも仰っていたことだったからだ。私も今朝のことを話すと、銀さんも驚いた様子だった。



「つまり嘘じゃねーってことだな。」

「はい。だから、家族にも内緒で探せってことなんですね。近々、譲る予定のあるものがないなんて、大問題ですもんね。でも、どうして隠していたんでしょう?別に話してくれてもよさそうですが…これで、探す手掛かりは増えたわけですし。」

「まぁ、でももう時間がねーけどな。」



譲る予定のあることをもう少し詳しく聞いておけば、そこの因果関係からもっと話を聞くべき人物が浮かび上がったかもしれない。というより、まず何よりも疑うべきところはそこだと思わずにはいられない。



「泥棒に入られた可能性も否定はできませんが、妖書の存在が秘密にされてる以上、まず疑うべきは身内とその存在を知っているものです。疑いたくないという気持ちも分かりますが、本当に探して欲しいなら、友人のことだけじゃなく、そのことも当主は万事屋に話すべきだったと思うんですけど…。」



私がそう言うと銀さんはたった一言バカなんだろうといった。失礼ながら、私も同意見だった。



「あと2日、ですもんね。」

「明日はまぁその辺を探ってみるつもりだけどなー。」

「大変ですね。」

「あれ他人事?」

「いや、もうこっちが打てる手はありませんから。可能性としてあるのはその譲り先か、あとは村山さん、お父様じゃないかと。」

「…まぁ、売りたいっていってんだから、可能性はあるかもな。つーか、もしそうなら家族間の問題じゃねーか。やってらんねーな。」

「見知らぬ人の手に渡ってお金に変わってるよりかはいいですけどねー。」



でも、確かにやってられないですねといって私が笑うと、銀さんはだろ?と、盛大にため息をついた。そして、今から酒呑み直すから来いよと誘われたが、さすがに時間も遅いので私は断った。それから少しだけ他愛もない会話をしてから、電話を切った。
 


「…さてと、なんか食べよう。」



私はもう1つの可能性を浮かべたが、それをすぐに消して、冷蔵庫の中からつまめそうなものを探し始めた。



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