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ようこそ三日月堂へ!

買い物帰りにはご注意を。

第18話

「いや、あの困りますから、」



この一年平和に暮らしてきた。この一年だけじゃない、前の世界でも私は平和に暮らしてきた。それなのに、どうして急にここでナンパなんだろう。哀しくも初めてのことで対処法がわかりません。



「いいじゃん?ちょっとそこでお茶しない?」

「しないです、ごめんなさい。」



自転車のカゴに荷物を乗せてさぁ帰ろうとしたとこで誰かに肩を叩かれた。振り返ってみれば、本当に誰?で、こっちがなにか?と問えば、相手は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、お茶でもしない?と誘ってきた。突然のことに驚きつつもすぐに断り、自転車に乗ってその場を去ろうとしたが、掴まれた腕のせいで、私は動けずにいた。



「友達がもうすぐ来るんだけど、その間だけでも、ね?」

「(ね?じゃねーよ、1人で待てないなら家から出んな。)」



心の中で悪態をつきながらも、決して表には出さないように、やんわりと断り続ける。しかし、相手が引く様子はなく、掴まれた腕の力はどんどん強くなり、しだいには引っ張られて、物陰にまで追いやられてしまった。ナンパ初体験とはいえこれは分かる。非常にマズイ状況だ。



「(な、んでこんな時に限って誰も通らないの!そもそも駐輪場が商店街の裏手にあるのが間違いなんだ!てか、痛い!痛い痛い!腕離してよ!!あー!もう!しつこいな!)」


相手を刺激するとあとが怖いと思って大人しくしていたが、そうも言ってられないようだ。いまここで声をあげて隙をついて走れば、商店街はすぐそこ。何とか助かるような気もする。そんな算段を頭で必死にしていると、ナンパ野郎は何考えてるの?とニヤけながら顔を覗いてきた。



「(顔近付けてくんな!!!)」



よし、ここは大声を出そうと決め、腹に力を溜めた瞬間、後ろから複数人の声が聞こえた。やった!人だ!助かる!と思って振り返ると、ナンパ野郎を量産したような奴らがそこにいた。



「(増えたぁぁぁぁ!!!!)」



なにやってんの?混ぜてよー?なんて言いながら近寄ってくるナンパ野郎達。これは、たまたまというよりこいつらみんなグルなんだろう。これは大声出したところで絶対に逃げきれない絶体絶命のピンチだ。



「(警察!警察だ!110番通報…って)あああぁぁ!!!!!!」

「?!んだこの女!急に叫びだしたぞ!」

「おい!大声出すな!痛い目にあわされてぇのか!?」

「(ケータイいいィィィィ!!!ケータイの必要性ここにあったぁぁぁ!!!)」



警察を呼ぶのに必要なケータイを持っていないことに気が付いた私は、つい今の状況を忘れて叫んでしまった。その声に驚いたナンパ野郎たちが、私の口を押さえ、さっきよりも強い力で腕を引っ張ってくる。近くに車が停めてあるとかなんとか言っているのが聞こえる。私は必死に抵抗しながら、帰ったらすぐにケータイを買いに行こう。絶対に買おうと心に強く誓いつつ、あれこれその前に無事に家に帰れるのかな?と、絶望の恐怖に襲われていた。



「(やばいやばいやばい!連れてかれる!)」



男の力に、それも複数人の力に女が勝てるわけもないが、全身の力を込めて足を踏ん張り、掴まれている腕を離そうと奮闘していると、どこからか間延びした声が聞こえた。



「おーい、なにやってんでィ?」

「なっ!その格好は!」



涙目の中、声のする方を見ると、そこには隊服を着たあの男が立っていた。2度と会いたくないと思っていたのに、まさかこんなところで会えるなんて!



「お、おまわりさぁぁあああん!!!!(よかったああ!!助かったああ!!)」

「うるせーなァー。」

「え゛?!」



この前のことは忘れよう!この人は救世主だ!なんて喜んだ私が馬鹿だったんだろうか?この人いまなんて言った?泣きそうな顔で助けを求めた人に対して、この人なんて言った?



「(うるさいっていった?え?いったよね?)」

「こいつ!真選組のっ!!!」

「男女乱行でお楽しみ中ですかィ?そりゃあ邪魔したな。あんま外で、ハメ外すんじゃねーぞー。」

「いやいやいやいや!!!待て待て待て待て!!!」

「ん?」

「ん?じゃないですよ!!この状況がっつり見といて何言ってんの?!どんな勘違いしてんの?!どう見ても絡まれてるんですよ!女の子が絡まれてるんです!!助けてください!!」

「女ァ?女なんてどこにいやがるんでィ?」



そう言って隊服の男はニヤッと笑った。ダメだ、こいつヤバイ。相当ヤバイ。頭おかしい。私の背中に冷や汗がすぅっと伝う。さっきまでナンパ野郎に抵抗していた力も、だんだん抜けていく。あぁ、もうダメだ。私このまま拉致られるんだ。おまわりさんが目の前にいるのに、そのおまわりさんに見捨てられるなんて、世も末だ。



「女ー、助けて欲しかったらちゃんとおねだりしなせェ。そしたら、こんな奴らすぐに片付けてやりまさァ。」

「んだと!!!おいお前ら!!この真選組の奴から先に殺っちまうぞ!!」

「「おおーっ!!!」」

「おい、どうすんでィ?」



どうするも何も、普通はこういった場合、おまわりさんは無条件に助けてくれるもんじゃないんだろうか。てかさっき助けてくれって言ったよね、私。それとおねだりって何が違うのなんなの。思うところはたくさんあるが、今はとにかく、この隊服の男に助けてもらうしかない。私は下唇を噛みながら意を決して、隊服の男にもう一度、助けて下さいと頼んだ。…のに、



「聞こえねェ。」

「(鬼畜うううう!!!この状況で鬼畜すぎるううう!!!!」



そんな私たちのやりとりに構わず、ナンパ野郎の1人が、懐に隠していたであろうナイフを手に、不意打ちに隊服の男に斬りかかった。しかし、目に見えない速さで返討ちにされ、ナンパ野郎は白目をむいて地べたに突っ伏した。



「なっ!!こいつまさか!!」

「真選組一番隊の…っ!!」

「テメェら勝手に動くんじゃねーやい。俺ァ、こいつのおねだり待ちなんでィ。」



目の前の光景に、私が呆気にとられていると、突然ぐいっと首を掴まれた。痛い!と思った時にはもう、キラリと光る刃物が私の首筋に当てられていた。



「…ちょ、ちょっとおおお?!?あんたが変なこといってすぐ助けてくれないから!!さらに危険な状況になったじゃないですか!!どうしてくれるんですか!!!」

「自業自得だろィ。」

「自業自得の意味分かってんの?!?!」



もうダメだダメだ!こんなところで、こんな奴のせいで、こんな奴らに殺されたくない!!!私は首筋の皮に食い込むナイフなんて御構い無しに、お腹に力を溜め、人生最大級の大声を張り上げた。



「もうなんでもいいから助けてっ!!総悟っ!!!!」

「はい、よくできましたー。」



それは一瞬、本当に一瞬だった。叫ぶと同時に目を閉じた瞬間、首にまとわりついてたナンパ野郎の手が離れ、ドサッドサッと、人が倒れる音がした。ゆっくりと目を開けると、倒れている人たちの中心に、隊服の男が何くわぬ顔で立っていた。



「なかなか良い声出るじゃねーか。ま、助けて下さいご主人様って言えてたら、完璧だったけどな。」

「なにが。」



首筋から垂れる血を押さえながら、私はその場に座り込み、誰かこのおまわりさんも逮捕してくれかいかと本気で願った。



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