×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
ようこそ三日月堂へ!

お酒で記憶がなくなるは嘘じゃない。

第17話

目が覚めると自分の部屋の布団の中にいた。あれ、どうやって帰ってきたんだっけと、痛む頭を押さえながら身体を起こして、時計の針を見るとまだ朝の5時だった。あぁ、初めてお酒でやらかしたかもしれない。



「あ、れ?」



必死に昨日のことを思い出そうとしていると、ふと布団のそばに紙切れが目に入った。手にとって見てみると、そこにはたった一言が書かれていた。



"鍵はポスト"



それだけでこの字が銀さんのもので、私を家まで送り、今日は泊まらず家に帰ったんだと分かった。酒を呑んでも呑まれるなって言ってた私が呑まれてどうするんだと苦笑しながら、私は怠い身体で朝の支度を始めた。





今日も仕事の合間に妖書について調べていたが収穫はなし。期限はあと3日。銀さんの方は、何か収穫があっただろうか?いや、その前に昨日のこと、ちゃんと謝らないといけないなんて考えながらカウンターに座っていると、こんにちはといって、身なりのいい男性が入ってきた。



「(あ!村山さん!)」



それは村山さんでも、現当主の方ではなく、このお店によく来て下さる村山元当主、私のよく知る常連さんだった。私は慌てて手元にある妖書について調べている書類一式を引き出しにしまって、いつものようにこんにちはと挨拶を交わした。当主は、妖書紛失については家族に内緒にしていると言っていた。ここで私が漏らすわけにはいかない。



「嬢ちゃん、今日はこの本たちを、頼みたいんだ。」

「はい!では、お預かりしますね。」



村山さんはいつも本のタイトルをいっぱい書いた紙を持ってきて、それらを全て注文していく。私はその紙をお預かりし、お店の注文承り伝票に書き写す。その作業の間、村山さんはとても楽しそうに棚を見て回る。



「あぁ、そうだ、変なことを聞いてもいいかな。」

「はい?」

「三日月堂は買取も、してくれるんだよね?」

「はい、持ってきて頂くか、こちらが出張で伺うこともできますよ。」

「…その買取してくれるものは、個人の物でもいいのかな?」

「自費出版されたものですか?」

「あー、そうだね、そうとも言えるんだけど、…代々のものでね。」



村山さんはどう伝えたらいいものかと腕を組んで悩んでいるが、私はすぐにそれが妖書のことであると分かった。しかし、ここで口を出すわけにはいかないため、何知らぬ顔で、伝票の書き写しを続けた。



「はい、お待たせしました!こちらが控えです。またご来店された時に、手配状況をお伝えしますね。今回はどれもまだ出回っているものですから、3日くらいでご用意はできると思います。」

「そう、いつもありがとう。」

「それから、さっき仰っていた…」



私がそういうと村山さんは歯切れの悪い返事をして、ちょっと困っているんだといった。



「んー、大切なものなんだけどね、それを、手放さなくちゃいけなくなって。けど、誰かに譲るよりも、というより、その、誰かが少し気に入らないからなんだけど、それだったらここ三日月堂さんに買い取ってもらえないかな、って思ったんだ。」



でも、もう少し考えてみるよといって、村山さんは本を2冊買って帰っていってしまった。大切なもの、即ち妖書を手放さなくちゃいけない?譲りたくない?一体、どういうこと?私はすぐに電話の受話器をとり、万事屋に電話をかけたが、留守番電話サービスに繋がってしまった。





店を閉めてからしばらく銀さんから連絡があるかもしれないと家で待機していたが、何も連絡がないので、先に買い物に行くことにした。近くのスーパーで簡単に済ましてもいいが、冷蔵庫の中は空っぽ同然。少し足を伸ばして商店街の方に行けば、安く大量に美味しい食材が手に入る。私は悩んだ末、自転車にまたがり、商店街の方へ出向くことにした。



「(ケータイ…持ってた方が便利かな。)」



この世界に来てからケータイの必要性を感じずにいたため、未だに私はケータイを持っていない。深月さん夫婦は、若い子は持っているもんだといって、何度も買ってくれようとしたが、その時は繋がる相手もいなかったという理由で断っていた。今も、特に電話をかけたりメールを交換するような相手はいないが、こういう時、銀さんと連絡が取れたらいいな、とは思う。



「(かといって、銀さんと連絡取りたいがためにケータイを買うっていうのもなんだかなぁ。それに、この依頼が終われば、そんなに連絡とることもなくなるし。そもそも店で会えるしなー…。)」



それから商店街に着く間、私はずっと自分で納得できるケータイの必要性を考え続けたが、結局、答えを見つけることはできなかった。



「これおまけね!また来てね!」

「はーい!ありがとうございまーす!」



商店街に着くなり私は行きつけの、八百屋、魚屋、肉屋に全て寄り、特売品を主に買いつけた。夕方の時間は、値引きのオンパレードだ。それゆえかなりの争奪戦にはなるが、体力だけは若さゆえに負ける気はしない。その結果に、私の両腕はすでにたくさんの勝利品で塞がっていた。



「(自転車のカゴにこれ乗るかな…))



いつも何かおまけをくれる店主さんたちのおかけで、買い物袋は予想以上にパンパンになる。特に一人暮らしになってからは、よくしてもらうことが増え、割と真面目に前カゴだけじゃなくて、後ろカゴをもつけようかなと考えてしまうう。ケータイよりも、今は後ろカゴの方が必要性大かもしれない。

そんなことを考えながら、止めてあった自転車のもとへ戻り、さぁ帰ろうとしたところで、私の肩を突然、誰かが叩いた。



top | prev | next