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ようこそ三日月堂へ!

屋台で呑むお酒はとびっきり美味しい。

第16話

帰路の途中、家に帰ったところで冷蔵庫に夕飯になりそうな食材が残っていないことに気付いた私は、一緒に夕飯を食べるならどこか食べに行きませんか?と、銀さんに提案した。すると、いい所があるといって、銀さんは川辺の近くの屋台屋に連れてきてくれた。



「おやっさん、いつものね。こいつにも適当に。」



おやっさんと呼ばれた人は、はいよと元気よく返事をし、目の前でぐつぐつ煮てあるおでんを、手際よくお皿に盛っていく。いつもの、で通じるなんて、よほどの常連さんなんだろう。



「ここのおでんで、よく深月のじいさんと一杯ひっかけてたんだよ。」



銀さんがそう言って私にお酒を注いでくれた。



「そうなんですか?!わぁ!それって何だか…嬉しいです!連れてきてもらえて!」



ここでおじさんは週に一回、銀さんとどんな話をしたんだろうか。いつもこの日を楽しみにしていたあのおじさんの顔を思い出すと、自然と顔が綻ぶ。私は、幸せを噛み締めながら日本酒をぐいっと飲み干した。身体が火照る感覚が、気持ちいい。



「んで、どうだったよ。さっきのやつ。」



銀さんの一言に私は、日本酒とおでんの美味しさに緩んだ頬を一旦引き締めた。



「まず弁解しておきますけど、私は当主との約束を破っていません。妖書がなくなったことで、友人を疑っていると思われたくないと仰ったんでしょ?なら、私は探すのに協力して下さいと言ったんですから、問題ありません。現に、当人は疑われていると思ったり不愉快な思いをされた様子はありませんでしたし。」



それに、そもそもその約束をしたのは万事屋で、三日月堂はそんな約束をしていないですと、子供じみた言い訳も添えておいた。銀さんは、そんな私に違いねぇなといって笑った。



「あの方が妖書を持っている可能性やそれを否定するだけの核心は得れませんでしたが、逆に当主に対しては疑惑が高まりました。」



当主は一家の秘密を友人との言い合いの場で口が滑り、漏らしてしまったといった。それなのに、先ほどの友人は、妖書が極一部の人間しか知らないことや、書そのものについてよく知っていた。



「秘密をたまたま知ったばかりの人にしては、ずいぶんと村山家の秘密を知っているようでした。」

「ふぅん。」

「誤って秘密をバラしてしまった相手に、口止めをするのは当たり前ですが、詳しいことまでわざわざ話すでしょうか?」

「つまり、前から知ってたんじゃねーかってことか。」

「まぁ、単なるわたしの憶測ですけど。」



屋台のおやっさんが適当に選んでくれたおでんを食べながら、私は銀さんにとある提案をもちかけた。



「当主にも、もう一度お話を聞きませんか?そうじゃないと、こう…なにを考えるも、そこがもやっとしてると、先に進めそうにないですし。」

「もんもん、ねぇ。」

「いや、もんもんじゃなくて、もやっとです。」

「年頃の女が発情期っつーのは辛いよなー。よし、銀さんが一肌、」

「誰が発情期ですか!それは銀さんの方でしょ!このドスケベ!もやっと!もやっとってわたしはさっきから言ってるんです!」

「え?なに?じゃあ名前ちゃんが脱いでくれんの?うそ!まじ?いや、積極的な子は好きだけどよ」

「ねぇもう、耳が悪いの?頭が悪いの?それとも銀さん相手に真面目に話してるわたしが悪いの?」





そんな私と銀さんのやりとりを見ていたおやっさんは、仲の良い2人だねといって、サービスで味がしみた大根を出してくれた。仲良し、なのだろうか、これは。



「とにかく!どうして口を滑らした割には友人に詳しく話したのか。あとは、どうして急に妖書のことを気にかけたのか!そこを聞いてきてくださいよ!」

「あれ?名前ちゃんは?」

「わたしはお店がありますから、遠慮します。期限も近いんですし、探すのに行き詰まってるいま、何かそれでわかるかもしれませんよ。」



私もお店でやれることはやりますから、と言って不服そうな銀さんを無理やり納得させ、ついでに機嫌とりとしてお酒を注いであげた。正直なところ、明日はお店を閉めたあとは買い出しに出かけたかった。じゃないと、私の1日にとるべき食事が今のところ何もない。これは、死活問題だ。



「あ、そういえば。」

「ん?」

「今日、銀さんよりひどい人に会いましたよ。」

「銀さんがひどい人が前提になってんぞ。」



唐突に思い出してしまったあの野郎のこと。忘れてしまいたかったが、そううまく記憶を抹消することなんでできない。私はお酒をぐいっと呑んで、どうせなら銀さんに愚痴を聞いてもらって、少しはスッキリしてしまおうと思い、今日の出来事を話し始めた。



「初対面じゃないですけど、ほとんど初対面のような人にね、お店で今日、たまたま会ったんですよ。で、挨拶がまだだったし、この機会に挨拶しようと思ったらね、そいつ、……どうしたと思います?」

「なんで急にクイズ?分かるわけなくない?」

「不正解!」

「まだ答えてねーし!!」

「そいつね!わたしのこと、じろじろ、じろじろと!それはもう不愉快なほどわたしのこと見てきたんですよ!そりゃもう舐め回すように、」

「…やらしい目でか?」



そう言った銀さんの声がいつもよりワントーン低くいような気がして、怒りに任して話していた口が、つい止まってしまった。銀さんの表情もさっきとは違う。ふざけたことをいう時の顔じゃない、ような気がする。



「ち、がいますよ!そうじゃなくて!舐め回すようにっていっても、こう…品定め?みたいな!人を下に見るような!そう!メンチ!メンチ切られました!」



私の言い方が誤解を招くような、不味い言い方だったんだと気づき、慌ててそうじゃないことを身振り手振り交えて必死に話すと、銀さんは少し黙ってから、なるほどな、喧嘩売られたってーわけかと言って、いつもの雰囲気に戻った。



「そう!売られた喧嘩は買う主義なんで!こっちも睨み返してやりましたけどね!!」

「そんなクソみてぇなもん買うな買うな。あと名前は女なんだから、そう簡単にメンチとか切っちゃダメ。」

「だって!あいつ!」

「ほらー。あいつとか言ってんぞ、名前ちゃんは純情派でいくんだろ?」

「勝手にキャラ設定しないでくださーい。わたしは、そんな子じゃありませーん。元々はこういう短気で、口が悪くて、面倒くさがりやで、」



そういって私は私のダメなところを指折りしながらあげていく。悪いとこはこんなにも出てくるのに、自分の良いところは何1つ自分では見つけられない自分に、嫌気がさす。



「だけど、ねー…」



だけど、こんな私を、深月さん夫婦は愛でて大切にしてくれた。本当の親よりも親らしく。その居心地の良さに、私はずっと甘えている。いまも、甘えて、逃げている。



「親不孝ものですよ、ほんと、わたしは、…どうして…」



滅多に飲まないアルコール度の高い日本酒を、結構なペースで飲み続けた結果、いまさらお酒がひどく回っていることに気が付いた。そうだ、私日本酒はダメだったんだ。だから途中からもうなに言ってるか、自分でもわからなかったんだ。ただ、そう気付いた時にはもう私は机に突っ伏して意識を手放していた。



「親不孝もん、ねー。」



夢見心地の中、大きな手が私の頭を優しく撫でたような、気がした。



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