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ようこそ三日月堂へ!

タイムリミットまであと4日

第15話

夕方、店を閉めて売上金の管理をしていると、家の方の玄関からノックの音が聞こえてきた。小走で玄関先に向かいドアを開けると、思った通りそこには銀さんがいた。



「おつかれさーん。」 

「おつかれさまです。もう少し待っててくれますか?売上金だけ計算して片付けてきます。」

「手伝う?」

「怖いからいいです。」

「信用ねーな、おい。」



居間に上がってて下さいといって、私は急いで店の方に戻った。そして数分して計算が終わり、金庫にお金を入れてから、バツ印だけのリストを手に居間に戻った。



「お待たせしま、…まぁ、もう勝手にお茶くらい淹れて飲めますよね。」

「おー。我が家のようにな。」

「勝手に我が家にしないで下さい。」



勝手に台所の戸棚から茶っ葉を見つけ、きちんと急須でお茶をいれて飲んでいる銀さんに、私は呆れを通り越し、感心を抱かずにはいられない。それよりも、だ。私は手に持っていたリストを銀さんに渡した。そのリストを見た銀さんはたいして驚きはせず、ただ溜息をついてどうすっかなーと、頭を掻いた。



「気になることが、あるんです。」

「ん?」

「どうして突然、一年に一回の祭祀の時しか気にかけなかった妖書が、その時は気になったんでしょうか。」

「んー。」

「もちろん嘘をついているであろう友人も気にはなるんですが…。」

「…会いに行くか?」



え?と、私が目を丸にしていると、銀さんは急に立ち上がって行くぞーと、歩き出してしまった。行くって、どこにですか!と慌てて後を追えば、気になるところと一言だけ返されてしまった。





「あ、あの夕飯時のお忙しい時にすいません…」



なんで私が率先してお宅訪問しているんだ。と、不満を抱えながら、目の前の男性に頭をさげている私。銀さんはというと、後ろで突っ立ているだけで、私にほとんどこの場を任せっきり状態だ。不満は山ほどあるが、来てしまったものは、仕方がない。当主の友人である本人を目の前に、私は小さく深呼吸をしてから、口を開いた。



「私、三日月堂という新刊古書店をやっております、店主の名前といいます。」

「えっと、今日はどういったご用件で?」

「実は、妖書、というものを探しておりまして。」

「…あのさ、昨日もこの人が同じようなことを聞きにきたけど、知らないって言いましたよ。それに、なんで僕に?」

「それは、…本の所持者である村山4代目当主とあなたは友人関係であり、またこの書について知っていると、村山当主本人からお聞きしたもので。」



え?名前ちゃん?なんでいうの?なんで言っちゃうの?と、後ろで銀さんが小さな声で慌てているが、そんなこと、もうここまできたら知ったことではない。



「実は村山家から妖書が忽然と消えてしまいまして。村山当主直々に依頼を受け、私たちがこうして探し回っております。ただ、妖書についてこちらは無知でして、どれほどの価値のものかが分からず、探すのに手間取っております。なので、この書についてご存知の方に色々と意見をお伺いしたく、こちらに参りました。もちろん、お聞きした情報は内密にいたしますので、ご協力をお願いできないでしょうか?」



お願いしますといって私が大げさに頭をさげると、男性は少し黙り込んでから、渋々といった声で、それなら、と口を開いた。



「この書についは極一部の人間しか知らないんだ。それなのに明らか妖書について聞いてくるこの男性が僕には不思議で、逆に怪しくてね。そう不信感を抱いたもんだから、昨日は知らないといったんだけど、…そういうことだったんなら、そうと言ってくれたらよかったのに。」

「申し訳ありません。話を簡単に済ませようとしたこの者の不手際です。あの、それで、消えた妖書について心当たりはありませんか?私の調べた限り、どこかに売られた、譲られたという話はないのですが…」

「どうかな、確かにあれは価値をつけるなら、相当なものだと思う。空想でも何でもない、歴史あるものだしね。それに、老舗村山呉服店のものってだけでも、多少価値はつくだろう。ま、内容は呉服と何も関係はないけどね。でも、だからといって消えたものがどこにあるかは僕には分からないな。ごめんね、力になれなくて。」

「そうですか…では、他の方にも当たってみます。本日は突然押しかけてしまい申し訳ありませんでした。」



私はそれ以上聞くことはせず、あっさりと引いた。そしてもう一度深く頭を下げて、ついでに隣でよそ見をして立っている銀さんの頭も無理やり下げさせて、その場を立ち去った。





帰り道、私は銀さんよりも少し前を歩きながら、さきほどの会話を何度も何度も頭で繰り返していた。そんな私に、さっきから銀さんが何かぶつぶつ言っている。

「おーい、名前ちゃーん?銀さんは怒ってるんだからねー?」

「なんでですかー。」

「そりやぁ勝手に依頼主との約束破ったうえに、銀さんに頭下げさせたんだぞー。もう銀さん、名前ちゃんからごめんなさい言われるまで今日は帰らないからね!」

「はいはい夕飯と酒が目当てでしょ、変な小芝居しなくていいですから。それよりも銀さん、早く帰りましょう。話したいこと山ほどあります。」



私は後ろでまだ何か言っている銀さんを無視して、早歩きで帰路に着いた。


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