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ようこそ三日月堂へ!

おまわりさんも人それぞれ。

第14話

しばらくしてから土方さんが袋をぶら下げて戻ってきた。わたしは駆け寄って荷物を受け取り、代金を支払おうとしたが、詫びだっつたろ。といって、受け取ってもらえなかった。



「冷めねぇうちに食えよ。俺は適当に本、見させてもらうから。」

「本当にありがとうございます!じゃあ、お言葉に甘えていただきます…!」



カウンターに戻って座り、お弁当に向き合う。からあげのいい匂いがたまらない。そういえば、からあげはいつぶりだろう?



「うまいか?」

「とっても!!!」

「そーかよ。」



土方さんが可笑しそうに笑うので私は頬張ったからあげを食べながら首を傾げた。



「いや、本当、うまそうに食うなって。」

「一人暮らしだと、揚げ物って面倒で。だから、からあげが久しぶりで…。」

「あー、なるほどな。いつも自分で作ってんのか?」

「はい。食材を買って作ったほうが、惣菜買うよりも安くつくので、なるべく。といっても、作り置きするので、毎日メイン料理以外は代わり映えしない食卓ですけど。」



私がそう言うと土方さんは、偉いなといって褒めてくれた。おまわりさんに、副長様に褒めてもらえるなんて!と、私は嬉しい気持ちでまたひとつからあげを頬張った。



「…肉は好きか?」

「お肉ですか?大好きです!」



魚も好きだが、断然肉の方が好きだ。安い鶏モモ肉や豚肉をよくスーパーで買うが、本当は牛が食べたい。ステーキが食べたい。焼肉が食べたいと日頃常に思うほど、肉が好きだ。そう私が力説すると、土方さんは落ち着けと笑いながら、とんでもないことを言い出した。



「なら、今度焼肉に連れてってやるよ。」

「え゛っ?!」

「あ?んだよその反応、嫌なのかよ。」

「とととととんでもない!!逆です!!誘ってもらえるなんて思っていなくて!!う、嬉しいです!!」



深月さん夫婦は歳もあって、肉よりも魚派だったため、たまにの外食でも焼肉を食べにいくことはなかった。そうだ、私はこの世界に来て一年も、焼肉を食べていないことに気付いた。だからといって、土方さんから誘ってもらえるなんて、まさか過ぎてついどもってしまう。



「お前に会いたいっていってる人もいるしな。」

「わたしに、ですか?」

「いつなら空いてんだ?」



私に会いたい人なんて誰だろう?と思いつつ、いつでも空いていると言いかけて、私はハッとした。万事屋の依頼がある以上、その間は店が終わっても今日みたいに銀さんと会うことがあるかもしれない。せめてこの依頼が片付くまでは、変に予定を組まないほうがいい気がした。



「えっと、ここ数日は仕事が忙しくて、来週!来週なら大丈夫です!」

「わかった来週な。またこっちから声をかける。」

「はい!!」



やった!焼肉だ!と心の中ではしゃいでいると、入り口からおーいと間延びした声が聞こえた。



「非番の日に女に会いに行くなんて副長様も隅におけねェーなー。」

「総悟?!おま、っ!なんでここにいんだよ!」

「見廻りでさァ。」

「いやお前こっち方面じゃねーだろ。」



入り口に立っている隊服を着た男性の顔を見て、私はすぐに一度会ったことがあることを思い出した。真顔で土方さんをどうにかしようと怖いこと言ってた人だ!



「どうせお前近くの団子屋でサボる気だったんだろ。」

「なに言ってんですかィ、俺ァ、自分の管轄以外も見廻りしようとやる気満々でここらを歩いてたら、副長を見かけたんで、こりゃあ挨拶しねェとと思って、わざわざ店に入ってきたんでさァ。」

「よくもまぁ真面目な顔ですらすらと嘘が吐けんなお前、凄いわ。」

「やめてくだせェ、照れます。」

「褒めてねェんだよ!!!」



あの時のように2人が騒ぎ出したため、ここは店主の私が止めないと!と思い、意を決して仲裁に入ろうとした瞬間、タイミングよく携帯の着信音が鳴った。私は仕事中はマナーモードにしているので、この2人のどちらかだろう。



「んだよ、…近藤さんか。悪ぃ、名前、ちょっと外出る。」

「あ、はい!」



鳴っていたのは土方さんの携帯だったらしく、私にわざわざ断りを入れて外に出て行ってしまった。残された私は、まだ挨拶していなかった隊服の男性に向き合い、名を名乗ろうとしたのだが、



「(すっごい見てる。上から下まですっごい見てる。)」



思わず眉間にシワが寄ってしまうほど、隊服の男性は私を舐め回すように見ていた。そしてしばらくして気が済んだのか、視線が外れた瞬間、なぜか鼻で笑われた。



「(は?)」



見るだけ見て鼻で笑うってどういうこと?え、なんで笑われたの?意味が分からず、私があの、と声を掛けると、衝撃の一言を目の前の人は放った。



「土方さんも趣味が悪ィな。」



その一言で私はぷつんときた。失礼にもほどがあると思う。言っておくが私は、



「(売られた喧嘩は買うからな!)」



目線をそらしたら負けだ!と思い、睨むように相手の目をしっかり見やると、相手は少し驚いた表情をし、そしてすぐににやりという表現が一番似合いそうな顔をした。



「おい総悟、緊急出動だ、…って、なんでお前ら睨み合ってんだ?」



電話を終えた土方さんが店に戻ってくると、やっと相手の視線が私から外れた。やった、負けなかった!と、勝手に挑んだ勝負事に勝てたことに私は胸を撫で下ろし、小さく溜息をついた。



「緊急ですかィ?」

「ああ、屯所に戻んぞ。」



緊急出動ということは、何か大事があったんだろうか?また町のどこかでテロ?私は先ほどの苛立ちとはうってかわり、2人の会話に少し不安になりつつ、お気をつけてといって店を出ようとする2人を見送ろうとすると、土方がこちらに振り返り、申し訳なさそうにすまねぇと謝った。



「え?」

「何か買って帰ろうと思ったんだがな…また今度にする。」

「は、はい!いつでも、ゆっくり見に来てください!」



私は軽く土方さんに頭を下げて顔を上げると、隣にいる男と目があった。結局お互い、名を名乗らずじまいだが、名前なんてどうでもいい。こんなヤツは、この野郎で十分だ。



「じゃぁな、女。」 

「はい、さようなら。」


女ってなんだ、女って。私は怒りを抑え、笑顔もなく淡々と言い返すと、土方さんは何かあったのか?と、怪訝そうな顔をしたが、なにも言わず、店をあとにした。



「なんなの、なんなのなんなのなんなの!!」



そのあとしばらく誰もいない店内には、私の怒りの叫びだけが響いた。



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