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ようこそ三日月堂へ!



108話



深月さんたちの話は、これまでのすべてが腑に落ちる説明だった。私がここにきた理由。深月さん夫婦が私を受け入れてくれた理由。

私がいまこうしてここにいる、理由。



「…その天人さんには会えたんですか?」



今起きている事件は、その天人が持つ力と星願い石を巡って起きている。星願い石は無事にこうして私の手元にあり、深月さんたちも追われていた身とはいえ、こうして無事に保護された。なら、残るは天人ただひとり。



「京都で再会したよ。…けど、ろくに話もできないまま、すぐに星願い石が狙われていることを知り、離れ離れになった。…あの子は私たちを守ってくれたように思う。」

「守る…?」

「すぐに状況説明をし、俺たちに指示をくれた。石を隠すことと、安全なルートで江戸に帰る手筈を整えてくれた。それから、自分はやることがあるからといって身を隠した。…落ち着いたら会いに行くと約束してくれて。」



どれほどの追手が天人と星願い石を探しているのかは不明だが、容赦なく店を燃やすような輩たちだ。あらゆる手をつかって、きっとまだ追いかけているに違いない。そう思うと、私も深月さんたちも、まだ身の安全は保障されない。



「…その辺は旦那が動いてやすぜ。」

「え?」

「真選組もいくつかの部隊を京都に送り出したが、報告によればすでに万事屋が京都に入っている。おそらく片をつけるのは奴だろう。ったく、いつも勝手なことしやがる連中だぜ。」



そういって土方さんは煙草をふかし、こっちは俺たちが片付けから安心しなと言ってくれた。



「しばらくは深月さんたちも名前ちゃんも、ここ屯所で俺たちが保護する。なに、数日も経たないうちに決着はつくさ。俺たちを信じてくれ。」

「近藤さん…。」

「だから、それからだ。君が動くのは。」



そう近藤さんがいうと、お登勢さんもじゃあこっちもすぐ動けるように準備しとくよといって、部屋を出ていってしまった。みなが、みなのために動いてくれている。その心強さ私も深月さんたちも思わず、自然と笑ってしまった。

人はひとりでは生きていけない、誰かに頼って頼られて、そうやって生きていく。





その日の晩、私と深月さんたちは屯所内の一室で、久しぶりに川の字になって寝床に入っていた。3人で暮らしていたときはよくこうして寝ていた。一人部屋を与えられたものの、最初のころはうまく寝付けず、それに気づいた深月さんたちのお誘いで、私は小さな子どものように真ん中で寝させてもらっていた。



「…おじさん、おばさん。」

「なぁに?」「なんだい?」

「…わたしの話、聞いてくれますか?」



私はここに来る前の世界、そこでの生活について深月さんたちに話した。深月さんたちが願ってくれたおかげで、自分はここにいることをちゃんと話しておきたかった。そのうえできっぱりと言っておきたいことがあったのだ。



「…帰りたいなんて、思ったこと一度もないです。それは、これからもずっとだと思います。…ううん、絶対に。わたし、決めたんです。ここで、生きていきたいって。」

「名前ちゃん…。」

「だから、深月さんたちの心遣いは嬉しいけど、星願い石はいらない。…こんなことをいうとあれかもだけど、そんなものなんかくれてやるから、だから…だからあの店は…っ…三日月堂だけはっ…まも、…っ…守りたかったのっ…!」



どうしてもあの燃え盛る三日月堂のことを思い出すと、悔しさで涙が出る。私にとって、何よりも大事な居場所だった三日月堂。再建すると強く誓ったものの、そう簡単に割り切れるものじゃない。深月さんたちは泣く私に、泣きたいときは思いっきり泣いていいのよといって、手を握ってくれた。



「そうだね、名前ちゃんがそういうなら、きっともう星願い石は不要だね。…だけど、あの天人だけは、どうか救ってやりたい。」

「そうね、私たちの願いを叶えてくれた優しい子。きっとあの子は、誰にでもあの星願い石を渡すわけじゃないと思うの。だからきっと今も逃げているのよね。…無事だといいんだけど。」



相変わらず底なしの優しさをもつ二人につい笑みが零れる。でも、確かにその通りだ。深月さんたちがどれだけ願っても、次の星願い石を使う人を決めるのは天人本人だ。深月さんたちを守り、今も自分の身を隠しているのならば、天人は少なからず敵には渡したくないということ。それならば天人は一体、どういう人にその自分の力を使おうとするのだろう。その答えは、私にはなんとなくだが、深月さんたちの話からわかる気がした。



「…(銀さんたちも、怪我してないといいな。)」



万事屋のみんなはきっと敵をやっつけるために京都に向かったのだろう。だけど、それと同時に深月さんたちの気持ちもくみ取って、天人を救うためにも動いているに違いない。だから私は、私にしかやれないことをやる。そのためのきっと、あの甘い卵焼きだ。ひとつしかなかったのは、もしかしたら残りはみんなが食べたのかもしれない。各々ができることをやれるように、力をつけるために。そう勝手のいいように解釈をしたけど、きっと間違っていない。



「…深月さんたちの旅は、まだ終わってないんだよね?」



私がそう聞くと、両側からハッと息を呑む音がした。深月さんたちの話では、お店を私に託して旅に出たのは天人に会うためだったという。じゃあ、それが果たされたとき、この騒動が落ち着いたら、深月さんたちの旅は終わりなんだろうか。



「…あのとき、長旅を終えたら帰ってくるから、帰る場所は用意しておいてほしいって言ってくれたよね。」

「…そうだね。」



いや、きっと違う。天人を探すのが本来の目的だったとしても、知らない土地で知らない本に出会いたいといっていた二人の気持ちに偽りはないだろう。だとしたら旅はまだ終わっていないし、そもそも始まってもいないといえる。それに帰る場所は、今はまだない。だからまだ、私は「おかえり」を言えない。



「…約束を守るから、だから…もう一度、わたしに三日月堂を託してくれませんか?」



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