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ようこそ三日月堂へ!


106話



「願いが叶った石はまた振り出しに戻る。つまり、また天人と契約さえすれば使える。」

「…だから血眼で探してる奴らがいるってーわけですかィ。」



総悟の言葉にハッとさせられる。そうか、深月さんたちの願いがまだ叶っていなければ、狙われるわけがない。もし、願いの途中だったとしても、天人と契約しなければ星願い石は意味をなさない。つまり、奪っても意味がないものは、狙われる理由がない。



「…つまり、役目を終えた星願い石を持っているから、深月さんたちは狙われている…。」

「お前言ってたよな、深月さんたちはお前がいた時も、この石に願っていたって。」

「…はい。」

「となると、わざわざ石を置いて旅に出たタイミングには何か意味があると考えられる。」



どうして役目を終えたこの石を、深月さんたちは持ち主である天人に返さなかったのだろうか。家に置きっぱなしにして出て行ってしまったのだろうか。出ていった理由は、この石と関係があるのか。…分からないことだらけだ。ただ、ひとつだけ分かることがある。



「…役目を終えた願い石は、天人とまた契約さえすれば、ふたたび願い石になる…。それを、狙ってる人たちと、隠そうとしている深月さんたち…。」



これまでの情報を整理して繋げていく。そこには必然とひとつの可能性が浮かび上がってくる。



「深月さんたちは…もしかしてその願い石の天人を探してる…?もう一度、…願いを、叶えるために?」

「…ああ、十分に考えられる。」



近藤さんの断言に誰もが頷く。たったひとつの石、だけど人の願いを叶える魔法の石。それを手に入れて欲望を満たそうとする者たちの争いがいま起きている現状の全て。



「(戦争は、いつだって複雑にみえてシンプルな理由で起こる、なんて言葉があったけど、まさにその通りだ。)」



前の世界で読んだ本の言葉を思い出すと同時に、襖の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。



「局長!!!副長!!!」



聞こえてきた声は山崎さんのもので、土方さんはすぐに反応を示し、襖を開けながらどうした!!と聞き返した。



「深月夫妻を保護いたしました!!!」



山崎さんの言葉に、勝手に腰が上がる。今にも部屋を飛び出してしまいそうな私をやんわりと総悟が嗜める。そして、土方さんが廊下に一歩出ると同時に、懐かしい声が聞こえた。



「…すまないねぇ、土方さん。」

「……っ!!」

「…ごめんなさいね、名前ちゃん、みなさん。」



そうして部屋に入ってきたのは、少し着衣が汚れているものの、見たところ大きな怪我もなく、いつもの優しい笑顔を浮かべる、私の知る大切な深月さんたちだった。



「っ…よかっ…っよか、!」



よかった。その一言すらまともに言えないほど、私の心臓はうるさいほど鼓動を打ち、全身が震える。そんなわたしの前に、深月さんたちは歩み寄り、そしてそっと目の前に膝をついた。



「…私たちのせいで、名前ちゃんに辛い思いをさせた。これじゃぁ本末転倒だ。…この通り、お詫びをさせてくれ。本当に、申し訳ない。」



そういって唐突に頭を下げるおじさんに続き、おばさんまでもが自分に頭を下げる。その姿に違和感を感じつつも、私は、自分の方こそと、まず一番に伝えなければならないことを伝えた。



「みか、っ…三日月堂がっ…お二人の大切な三日月堂が…っなくなって、…ごめ、ごめんなさっ…!」

「…聞いてるよ。でも、それも俺たちが招いたことだ。名前ちゃんが、…巻き込まれなくて本当によかった。」

「…私たちにとって確かに大切なお店だけど、…それよりももっと、もっと私たちには大切なものがあるの。」



それが、名前ちゃんだよ。



おじさんとおばさんの言葉に胸が詰まる。そんな、そんなわけがない。私と出会った月日よりも、三日月堂が存在した年月の方が長く、色んな人に愛され信頼され続けてきた。それなのに、



「…名前ちゃん、俺たちはこの事態が発生してから、まずは深月さんたちの保護に全力を上げた。どこにいるか見当もつかない深月さんたちの居場所をすばやく突き止めたのは、トシだよ。」

「え、」



近藤さんの突然の言葉に間抜けな声が漏れた。土方さんはそのまま近藤さんの言葉を引き継ぎ、すぐにおじさんに連絡を試みたことを話してくれた。



「それまではうまく隠れてたみてーだが、状況が状況だからな。相手側に居場所がバレる前に"話をつけて"保護にあたった。」

「本当は、ことが終えるまでは誰とも連絡を取り合わないと決めていたんだけどね。けど、土方さんからの連絡とありゃ、何かあったんだと察しがつく。案の定、三日月堂が放火にあったと聞いて力が抜けた。…俺たちは、なにやってんだって。」

「おじさん…?」



さっきから妙に感じる違和感。私はそっと、目の前にいるおばさんの手を握った。



「…おふたりとも…星願い石をおいて、どこに行ってたんですか?…何を、願って…なにを…何をしようとしていたんですか?」



いつだって真っ直ぐ目を見て話してくれていた深月さんたち夫婦がいま、私から目を逸らしている。二人の無事がわかって、いま目の前に怪我もない二人がいてくれることが嬉しいはずなのに、どうしてこんなに心がざわつくのだろうか。



「全てはこいつの前で話すって言ったな。おやっさん、ぜんぶ話してもらうぜ。」

「…あぁ、土方さんとの約束は破らないよ。ちゃんと、覚悟して戻ってきたんだ。ちゃんと話すさ。…馴染みの付き合いがあるお登勢もいるなんて、想定外だけどね。」

「こっちのセリフだよ、あんたなに辛気臭い顔してんさ。あたしに聞かれたくないことなら、席外すけど?」

「いや、いてくれ。きっとこれも、巡り合わせさ。」



名前ちゃん。



深月のおじさんがおばさんと手を繋いで、私に向き合う。その後に土方さん、総悟、近藤さんが立ち、お登勢さんは、さらにその後ろで柱にもたれかかりながら、タバコを吹いた。



「…君に話さないといけないことがあるんだ。」



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