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ようこそ三日月堂へ!


105話



「…いまの状況を、教えてください。」


私がそう言うと、近藤さんは少し困った顔をした。その表情から、おそらく今のところ良い進展がないということは読み取れた。



「…まずは、自分に何ができるか、何をすべきかを考えて、動かなきゃ…。わたしは、…わたしは動けます。」



だから、お願いしますと言って頭を下げると、近藤さんの隣にいた土方さんがスッと私の前に来て、じゃあ逆に聞くが、と言った。



「今のお前は、何が一番したいんだ?」



ごたごた考える前にお前の気持ちが聞きたいと、土方さんは付け足した。すべきことと、したいことは違う。そう言われてる気がして、私は大きく息を吸って、目を瞑りながら静かに吐いた。そして、そっと目を開けて答えた。



「…わたしの大切なお店を燃やしたやつを…っ…捕まえたい…!」



私の答えに誰も動揺もしなければ、否定はなかった。それはひとつの答え合わせのように思えた。私の中でふつふつと沸き上がるこの感情は、間違いなく憎しみ。そしてこの憎しみは、…ほんのはずみできっと、殺意にもなりうるだろう。



「… あの…、焼け焦げて、崩れていく三日月堂を…わたしは、…わたしは絶対に忘れないっ…っ!!」



そう言って、拳を力強く手を握りしめる。感情に身を任せるならきっと、私はそう叫び続け、何かを壊さずにはいられなかっただろう。だけど、そんなことをしても何も意味がないことは、もうわかっている。私は、守らねばならない。

私の大切なものを。三日月堂を。深月さんたちを。



「…だけど、それはわたしにできることじゃない。他にちゃんと、”わたしがやらないといけないこと”があるって、思うから…。…だから、…だからまずは、深月さんたちが無事かどうかを…っ!」



私がそう言って土方さんの目をしっかりみると、土方さんは頷いた。



「深月さんたちの捜索には、真選組が全力をあげている。」

「っ…!!」

「…安心しろ。じきに保護する。絶対にだ。」



土方さんは慰めで適当なことを言う人ではない。そんな人が私の目をまっすぐ見て力強くそういうのだ。少しの安堵からか、涙がじわりと滲む。だけど、必死に唇を噛んで泣くのを我慢しながら頷いた。

必ず、深月さんたちは生きている。



「つ…そ、それなら…登勢さん、…っ!ひとつお願いがあります!」

「…なんだい?」



なんとなく私が言おうとしていることが分かるのか、お登勢さんは目を瞑りながら煙草をふかした。その姿がどこか嬉しそうで、私は改めて大きく息を吸い、その決意を口にした。



「私にっ…この町でお店をひらくための術を教えてくださいっ…!」



諦めない、絶対に守る。そう強く決めた時、じゃあどうやって守るのか、具体策を考えた。答えはシンプルに一つで、失ったものを、取り戻すことだった。だけど、厳密に言えば失ってしまったものを取り戻すことは不可能だ。失ったら、もう何もない。だから、決めた。



「…簡単なことじゃねーぞ。」

「…はい、分かっています。でも、…やります。」


そうきっぱり言い返すと、土方さんもどこか愉快そうに笑った。私はそれから、といって、昨日から土方さんが請け負ってくれている諸々の手続きは、これから自分でやると申し出た。しかし、わからないことの方が多いので、手伝って欲しいと素直にお願いをした。



「…あぁ。もちろんだ。」



まずは、失ってしまった家の後片付けをしなくては。それらの手続きはすでに土方さんがしてくれている様子だったが、頼りっぱなしにはしたくない。それが済んでやっと再建に向かって動ける。それについては、この町に詳しいお登勢さんに頼るのが適任だろう。それから、…と、私は今度は総悟の方に向き合った。



「…ありがとう、弱いわたしを叱ってくれて。おかげで目が覚めた。」

「…で、俺は何したらいいんでィ?」



土方の野郎にばっか頼るんじゃねーやといって、総悟が言うものだからつい笑ってしまった。



「いつもの、…総悟でいて。それだけで十分。」

「ラクな仕事でさァ。」



そんなことはない。いつも通り、これまで通りでいることは、もう難しい。昨日までの当たり前は、もうここにないのだから。けど、だからこそ、いつも通りでいてくれることは、心強い。その思いをちゃんと汲んでくれた総悟はいつもの不敵な笑みで承諾してくれた。



「…近藤さん。」

「おう!今の状況説明だな!」

「はい。…土方さんが今少し話をしてくれましたが、ちゃんと教えてください。…なにが、起きているんですか。」

「…事の発端は、やはり深月さんたちが持っていた、星願い石だ。」



星願い石。それは、とある天人によって術がかけられた、魔法の石。ただし術は、天人と契約をした人間との間でしか発動しないという。



「…どんな術なんですか?」
 
「その名の通り、願いを叶えるものらしい。…ただし、毎日この石に願いを込める。それを3年続けることが条件。」
 
「…3年。」



単純に驚いた。3年も毎日なにかを願う。それは私にはとても長い月日に思えて、難しいことに思えた。



「…そうして3年分の強い願いが満ちた石は、その年のはじめの満月の夜に術が発動する。つまり、」

「…願いが、本当に叶う?」



それなら、深月さんたちの願いはまだ叶っていないということだろうか?だって、毎朝この石に手を合わせていたふたりを、わたしはよく見ていた。つまり、まだ3年は経っていないということになる。



「…それなのに、石を置いて、旅に出たのはおかしいですよね。」

「逆だよ。」

「逆?」



土方さんは、すでに願いは叶ってあるときっぱり言った。



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