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ようこそ三日月堂へ!




第100話



「さぁ、適当にくつろいで!お茶も持ってきてもらうおう。」

「お菓子もアルか?」

「あぁ、食べていきなさい!」



真選組屯所への突然の訪問。門番の方は相変わらず警戒がなく笑顔で迎え入れてくれ、すぐさま近藤さんを呼んでくれた。非番だという着流し姿の近藤さんは、いつもより優しさ倍増で、私たちの訪問に驚きながらも、嬉しそうに部屋へと招き入れてくれた。



「トシと総悟は見廻りでいなくてな、もう少ししたら帰ってくると思うんだが…。」

「すいません、一応お二人には用事があるのでお邪魔しますとはメールを入れておいたんですが、」



桂さんが星願い石について調べると言って万事屋を去ったあと、銀さんはすぐさま行くぞと手を引いて、ここ真選組屯所へと連れてきてくれた。ことは急を要する。桂さんの去り際の言葉が、胸を締め付ける。あれからずっと、ちゃんと息ができているかわからない。



「…名前ちゃん、顔色が優れないね。」

「え、」

「万事屋の顔を見る限り、みんな遊びに来たわけではないらしい。だが、まずは落ち着いて話を聞かないとね。」



近藤さんの言葉に頷くまえに、神楽ちゃんが甘いお菓子ひとつを手渡してくれた。名前も食べるネといって、自分の口にもお菓子を運ぶ。銀さんも、あろうことか近藤さんにもっと持ってこいよと強請っている。それにツッコむ新八くん。万事屋のみんななりの気遣いに、私はつい苦笑してしまった。



「…あの、近藤さん。」

「なんだい?」

「…今朝、深月さんたちから連絡があったんです。」



落ち着きを取り戻したわけではないが、さっきよりもちゃんと息を吸って吐けている気がする私は、ゆっくりとこれまでのことを近藤さんに話した。もちろん、桂さんからの情報は、万事屋が得た情報として。



「……ここ数日、やたらと過激派連中らの動きが活発でな。何か大ききな組織が動こうとしているのかと警戒はしていたが、その星願い石とやらについては初耳だな。」

「そのここ数日で捕まえた奴らは?」

「どれも大したことはない。町で暴れてた奴らを検挙しただけだ。ただ、身に覚えがないと言い張る奴らが多くて、聴取が大変でなー。」



近藤さんの発言は、桂さんが言っていた濡れ衣で捕まった人たちがいるというのと一致する。おそらく、本当にその人たちは見覚えがなく、この一連の騒動に勝手に巻き込まれてしまったのだろう。



「そもそも、攘夷の連中らにしては珍しく民家を狙った盗みでな。金目のものなんかなさそうな家ばかり狙っていて、トシがやけに不自然だなと指摘していたんだが…。なるほどな。なんとなく事情は見えたな。」



近藤さんはそう言ったっきり、何かを考えるように黙り込んでしまった。神楽ちゃんがバリバリと煎餅を食べる音だけが響く。そして何かを決めたらしい近藤さんは、よしっと膝を叩いて立ち上がった。



「山崎。」

「はい、局長。」

「いますぐ幹部を集めてくれ。過激派の攘夷たちと天人が手を組んで、罪のない市民を巻き込んでいる。俺たち、真選組の出番だ!」

「は、はい!!!」



山崎さんが慌てて部屋を飛び出していく。近藤さんは、ここからは俺たちに任せてくれと言って、私の頭をそっと撫でた。



「…名前ちゃん、この間のストーカー被害といい、また君に怖い思いをさせてしまうかもしれん。だが、俺たちがしっかり守る。信じて欲しい。」

「っ!わ、わたしよりも深月さんたちを!」

「…もちろん、まずは深月さんたちの保護に全力を尽くそう。だが、相手が深月さんたちに目星をつけたってことは、君のことまで調べがつくのは時間の問題。星願い石とやらを今は万事屋が持ってるとはいえ、君に一切の被害がないとは、言い切れない。」



だから、しばらくお店は休んで真選組で保護されてほしい。そう近藤さんに言われ、わたしは小さく頷いた。桂さんにもそうすべきだと言われたし、銀さんにもそうしろと、屯所に着く前に言われていたからだ。

もしこれがまた個人的な問題なら、保護されるのを渋っただろう。けど、今回は深月さんたちのことがある。ふたりのことを考えると、気が気じゃなく仕事なんか手につかない。



「万事屋たちはどうするんだ?」

「同じくおやっさんらを探す。だが、こっちが手薄になるわけにはいかねーからな、神楽と新八を名前の護衛につける。」

「それは心強いな。なら、遠慮なくこっちは隊総出でいこう。時間がないかもしれん。」



桂さんは星願い石について調べてわかったことがあればすぐに連絡をくれることになっている。これだけの人が動くんだ。無事に深月さんたちが保護され、星願い石を狙う輩が捕まれば解決だ。



…ほんとうに?



よくわからない違和感がつっかえて、やっぱり息が上手くできない。この不安や恐怖の根源は一体、どこから湧いているのだろう。



「ん?…すまんな、トシからだ。もしもし?今、名前ちゃんたちが来て、…えっ?!?!?」



土方さんからの着信をとった近藤さんが屯所内に響き渡ったんじゃないかってくらいの大声を出した。思わずビクッとしてしまったのは、私だけじゃないらしく、銀さんもゴリラ声でけぇんだよ!!!!とキレている。だけど、そんな冗談も通じないのがわかるくらい、近藤さんの顔色が青ざめていっている。



「…おい、ゴリラ、どうしたんだよ。んなバナナ全部取られたみてーな顔して。」

「バナナくらいまた買ってやるヨ。」

「いや、あんたら近藤さんのことバカにしすぎでしょ!」

「…近藤さん?……で、んわ…電話!!変わって下さい!!!」

「だ、だめだ!!」



近藤さんが大声を出したあと、一瞬私を見て視線を泳がしたのがわかった。それだけで、電話の内容が、決して良い内容ではないこと、そしてそれが私に関係していることは明白だった。私は無礼を承知で、近藤さんに詰め寄り、その手に握っていたケータイを無理やり奪い取った。



「名前ちゃんっ!!」

「も、もしもし!!!土方さん?!」

(なっ!!!名前!!)



初めて聞く土方さんの切羽詰まったような焦った声色。その後ろでやけにうるさい騒ぎこえ。…途切れ途切れに聞こえる、忙しく飛び交う指示の声。



「っ!!!!!!」



ケータイを投げ捨てて、急いで部屋を飛び出る。銀さんが名前!!と叫んだのが聞こえたが、構わず、全力で走って屯所をでた。ここから三日月堂までは遠くない。だからこそ屯所を出たときに見えてしまった。



向こうの空に立ち込める灰色の煙。

空に映える赤色。

微かに聞こえてくるサイレンの音。



――火事だっ!燃えてるぞ!
――急げ!!


――三日月堂がっ…!



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