ようこそ三日月堂へ! |
素直な気持ちで 第97話 夕飯何にしよ?冷蔵庫になにがあるかな…と、閉店業務をしながら考えていると、コンコンと扉の叩く音がした。入り口に目をやると私服の総悟が立っていた。 「おつかれさん。」 「おつかれさま!ごめんね、夜勤明けの日に。あ、ごはんね、何にしようかなっていま考えて、!」 …それは咄嗟の出来事で、言葉を失う。一体、私はいま、どうなっているのだろう。 「…会いたかったでさァ。」 「っ!!!そ、そうご!?!?」 挨拶もそこそこに総悟はこちらに近寄るなり、そのまま私を抱き寄せた。首元に埋められた顔の感触が、身体の体温を一瞬であげる。 「まっ、はなし、ど、どうした?!?!」 「心臓はや。」 「っ!!」 ぴったりと身体同士が触れ合っているので、私のこのうるさい動悸が、総悟にも伝わってしまっているらしい。それがさらに恥ずかしい。どうにかして離れようと腕に力を入れるが、びくともしない。背中にまわされた腕が強すぎる。 「好きでさァ。」 「総悟おおぉぉ?!?!?!」 これ以上は心臓が持たないし、変な汗もかいてきたし、火照りすぎてのぼせそうだ!!と必死になって、総悟から離れようと試みる。というかキャラが!キャラが違う!ここまできたら、もはや私をからかってるな?!私の反応を楽しんでいるな?!と、反論すると、総悟がやっと私の首から顔を上げた。 「バレやした?」 「ほんっっっと!!!!!総悟ってさぁぁ!!!もうなんなの!!!」 人の顔を覗き込んでニヤッと笑う総悟に腹が立ち、文句のひとつやふたつ、いや!いっぱい言ってやろうと思ったが、総悟がやっと離れてくれたので、急いでお店のシャッターを閉めた。こんなところ、お客さんに見られたら大恥だ。 「で、おめぇの話を聞くのが先?飯が先?」 「文句が先。」 「受け付けねー。」 「受け付けてよ!!!」 なんだこのお気楽ドS王子は!すぐにこの怒りは収まりそうにないが、正直こういう風に言い合えると気が紛れる。だってこれから話すことを考えれば、やっぱり気は重たい。とりあえずお家に上がろう?と、総悟と一緒に家の居間へと移動する。 「飯は作らなくていーでさァ。こんなときに料理なんざさせたくねーし。出前とってるんで、支払いはよろしくー。」 「わたしが支払うの?!いや、いいんだけど!全然支払うけど!」 「俺の彼女になるなら奢ってやりやすぜ。」 「さっきからすっごい前のめりでぶっ込んでくるのやめてくんない?!」 人がどういう風に、どのタイミングで伝えようか色々悩んでいるのに、すっ飛ばしてくるから調子が狂う。もちろん、それが総悟なりの気遣いだってことに、気づいてはいるけど。 「出前ってちなみになに?」 「極上の寿司。」 「…。」 前に万事屋のみんなで食べたあの出前寿司もまぁまぁ高かったが、極上って名前についてるあたりそれの比じゃなさそう。けど、総悟には、藤堂さんの件でお世話になったし、これくらいは…これくらいは、出そう。 「ねぇ、出前ってカードきれ、!」 「俺ァ、せっかちなんでねェ。できれば、出前がくる前にお前の話聞きてー。」 そういって総悟はまた私を抱きしめた。けど、さっきみたいに力強くじゃなく、ふんわりと優しく抱きしめられた。 「は、話すから…ちゃんと、だから、」 「このままで聞きてェ。」 「…。」 総悟の表情が見えない。けど、もしかしたら見られたくないのかもしれない。そう思ったら、拒否ることができず、私はどうしていいか分からない自分の両腕を、ひとまず総悟の背中へと回した。 「…そ、総悟に、好きだって言ってもらえて…嬉しかった。ほんとうに。それで考えたんだけど、…総悟のこと好きだと思った。け、けど!けど、同じ好き…じゃない。…わたしの好きに恋愛感情は、いまはないの。」 「…今ってなんでィ。」 「…すっごく都合のいい話だとは思うんだけど、でも、そういう風に今まで総悟を意識したことがないのに、これまでの関係だけで答えを出すのは…その、…い、嫌だと思ったの。」 土方さんに気付かされたことを、あの日の晩から、何度も何度も自分なりに考えた。 「…いま、好きだって言ってくれてる人に対して、これからそういう意識でみますって、失礼だってことはわかってるんだけど…。その、」 「…。」 「…今はやっぱり答えが出せないの。大切な人だから、なおさら。だから、待って欲しいって、…すごくワガママな答えしか、…言えない。」 ごめんね、という言葉をここで言うのは違う気がして、私は背中に回した腕にそっとだけ力を入れた。すると、総悟も抱きしめる力が強くなり、そのままそっと総悟は顔を離した。おでこにかかる総悟の息で距離の近さを感じる。 「名前が好きでさァ。」 「…そうご、」 「その答えに文句はねーでさァ。これから俺をとことん意識して…俺を選べばいい。…そのためなら、どんな手も使ってやりやす。」 私の答えを受け入れてくれた総悟は、そのまま私のおでこにそっと口づけをした。 「っ!」 「好きだ。」 そしてそのまま片手で抱きしめられながら、もう片方の手が頬に触れ、輪郭をなぞるように口元に指が降りてきた。何か言わなきゃ、離れなきゃ、そう思うのに、なぜか身体が動かない。 「名前…、キスしていい?」 「だっ!!!!めにきまってるでしょ?!?!」 何言ってんのこの人は!なにこの流れ!慌てて、全力で総悟の胸に手を当てて押し出すと、簡単に総悟が離れた。どうやら力は抜いてくれていたらしい。それなのに、あの一瞬、動けなかった自分がこわい。 「(ドSパワー恐るべし…!これは本気で気をつけないと流されてしまう…!!!)」 「あーあ。あともうちょいだったのになァ。」 「か、過度のスキンシップは禁止!!!」 「なに言ってんでィ。お前が俺を意識しねェといけねーんだから、これくらい当たり前だろ。」 「どんな当たり前?!」 「さすがに押し倒したりはしねーから安心しなせェ。」 「本気で頼むよ?!約束だよ?!」 抱きしめてキスまでされそうになってる手前、押し倒される可能性がゼロとも思えず、これから総悟と会う時は気を引き締めていかないと!と、強く思っていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。 「…出前だな。んじゃ、支払いよろしく。あ、冷蔵庫勝手にあけて酒もらいやすぜー。」 そういって総悟は台所へと向かっていった。私は火照る顔を無駄だと分かっていながらも、手でパタパタ仰ぎながら、財布を片手に玄関へと向かった。 「(ん?まてよ。)」 ていうか、好きだ云々言われた相手と今から二人っきりでごはん?それもお酒付きで?…危険すぎない?自分の愚かさにいまさらに気付き、血の気が引くのがわかった。どうしよう!? 「…絶対に酒に飲まれるな…わたし…!!!」 それから無理矢理お酒を呑ませようとしてきては、手加減なしで距離を縮めようとしてくる総悟をうまく交わし、機嫌良く帰っていく総悟を見送ったのは、これから数時間後の話。 top | prev | next |