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ようこそ三日月堂へ!


大丈夫、大丈夫。



第95話



総悟や銀さんの気持ちを知って、私が最初に抱いた感情。それは全く同じものだった。それにひどく戸惑い今も悩んでいるのに、さらに、同じ感情を土方さんにまで抱くなんて、やっぱり私は最低なんだ。



「ちゃんと正直に言えよ。」

「……。」

「大丈夫だ、最低なんかじゃねェよ。ほら、言ってみろ。」



おそるおそる土方さんを見ると、優しい目をしていた。本当に、この気持ちを言葉にしていいんだろうか。最低じゃないといってくれた土方さんを信じて、私は意を決して口にした。



「……嬉しい、と…思いました…。」



そういうと土方さんは思いっきり噴き出しながら、そりゃ光栄だなと言ってまたビールを飲んだ。



「お前が俺らを信頼してる証じゃねーか。」

「…信頼?」

「そうだろ?大切に、想ってくれてんだろ。」



私はうなずく。大切だ。総悟も銀さんも、土方さんも。何よりも大切だ。私に芽生えた初めての感情。誰かを大切に想う気持ち。



「だから好きって気持ちも、嬉しいって思うことも、間違っちゃいねーよ。」

「でも、!」

「けど、やっぱりそれは恋愛感情じゃねー。ごっちゃになってんだよ。」



そういって土方さんは小皿に取り分けた自分の唐揚げに、マヨネーズをかける。とぐろを巻くようにかける。



「さっき、恋愛感情が分からねーのかって聞いたら、お前首傾げただろ。恋愛感情そのものについてはわかってるし、それに相手を"当てはめる"ことはできる。」

「…はい。」

「けど、"見て"はいねーだろ。」

「…え?」



気がすむまでマヨネーズをかけ終わったらしく、もはや唐揚げの姿が見えないそれを土方さんは一口で頬張った。



「総悟で言やァ、昨日の今日だ。相手をこれまで恋愛対象として見たことがねーのに、"これまでの関係"から答えを出そうとするから、混乱すんじゃねーか。」

「……あ、」

「相手の好意に応えてーなら、相手をそういう目でお前も見なきゃ、分かんねーだろ。同じ気持ちになれるかどうかなんて。」



ストンと土方さんの答えが胸におちる。あぁ、本当だ。なんだ、なんでそんなシンプルな考え、分からなかったんだろう。



「…お前が答えを出すのは、これからだ。」



私はビールに手を伸ばしグイッと飲み干した。あぁ、なんて美味しんだろう。気持ちが顔に出ていたのか、土方さんはおかわりするかといって、ビールを追加注文してくれた。



「すっごくスッキリしました。」

「そりゃ、よかった。」

「…土方さんに相談してばかりですね、すいません。」

「なんで謝んだよ。これからもなんでも相談してこい。話ならいくらで聞いてやるって言っただろ。」



あぁ、本当に。なんて優しくて頼りがいがある人だろう。銀さんとはまた違う、尊敬できるひと。それから私たちは気分がよくなるまで、ビールをおかわりした。





「ごちそうさまでした!!」

「おう。」



会計は相談料として私が払うと申し出たが、この前の焼肉のお詫びだといって土方さんが譲らず、またこのお礼は来週の美味しい弁当でよろしくと言われたので、素直に奢られることにした。



「来週楽しみにしててくださいね!たっくさん好きなものいれますから!」

「そりゃ楽しみだな。…おい、あんま道路側に行くな、酔っ払い。」



そういって土方さんは私の腕を引いて、歩道側へと誘導してくれた。前もこんなことがあったなと、思い出す。



「家まで送ってく。」

「ありがとうございます!あ、でもタクシー拾っていきますよ?土方さんも明日お仕事ですよね?」

「いいんだよ、お前の陽気な姿を見ときてーから。」

「なんですかそれ!陽気!」



ふふっと笑いながら土方さんの隣を歩く。でも本当に気分がいい。悩みが晴れるのってこんなにも気持ちがいいのか。



「明日にでも今のわたしの気持ち、総悟に伝えようと思います。」

「…いいんじゃねーか。…なぁ、万事屋には他になんて言われたんだ?」

「え?」



あぁ、銀さんには…と言いかけてわたしは口をつぐんだ。あの時のことを思い出して勝手に頬に熱が集まる。あの目が、自分を捕らえた瞬間が鮮明に残る。



「…さっきいったことだけです。…勘違い、してたんです。」

「勘違い?」

「銀さんがわたしに優しいのは、深月さんたちに頼まれたからだ、って。」



そう言葉にした途端、心がチクッと痛む。



「もちろんそれは間違いだって、気づいて。でも、じゃあどうしてあんなに優しいんだろうって考えたら、あぁ、そうか、新八くんや神楽ちゃんのように、家族みたいに思ってくれてるんじゃないかって。」



少し酔いの回った頭でなんとか気持ちを言葉にしていく。自分の大きな勘違い。それに気付かされたこの間の夜。



「だから、どう思ってるのかって聞かれて…、」



ダメだ。やっぱりあの時のことを思い出すと熱が邪魔をする。私は夜風を感じるため、立ち止まって目を瞑った。



「あー…飲みすぎましたね!ちょっと熱いみたいです!」



顔にかかる夜風を気持ちよく浴びていると、ふと隣にあったはずの土方さんの気配が消えた気がして、目を開けると、ちょうど土方さんが私の目の前に回り込んでいた。



「あ、吐きそうとかじゃな、」

「俺もそう思われてんのか?」

「え?」



そっと土方さんの手が伸びて私の頬に触れる。そのあまりにも優しい手つきに驚く。



「…深月のおやっさんに頼まれたから、お前に優しくしてるって、思ってるのか?」



土方さんの言葉に心がチクッと痛む。さっき自分で言った時も堪えたが、相手に言われると同じように堪える。拭いきれない、ずっと隠していた不安。



「…違い、…ますよね…?」



語尾が弱くなる自分が恥ずかしい。どうして、まだ信じられないんだろう。どうして、怒られたいと願うのだろう。



「…とことんお前は自分に自信がねーんだな。」

「…。」

「けど、逃げずにちゃんと聞いただけ成長だな。」

「ひじかたさん、」



「違ェよ。」



しっかりと響いたそのたった一言がじんわりと胸に広がる。



「最初こそ深月のおやっさんたちに頼まれて気にかけるようにはしてたが、どうでもいいやつだと思ったら、相手にしねェよ。」

「…。」

「お前だから、名前だからこうして会って話してる。」

「っ…!」

「何かあったら助けてやりてーし、相談だってのる。」



土方さんは頬に手を添えたまま、親指でそっと撫でながら、いつになく優しい表情でそう言った。



「俺は…お前のこと、尊敬してる。」

「…え、」

「いつもまっすぐな名前のこと、羨ましくも思う。」

「土方さんが…わたしのことを、ですか?」



まさかすぎて思わず怪訝な顔をしてしまったのだろう。土方さんはそんなに驚くことか?といって笑いながら、頬に添えられていた手が、今度は後頭部にうつり髪を撫でた。



「わたしも…土方さんのこと、尊敬してます。」

「…褒め言葉、ありがたく頂戴しとく。」



本当はもっと具体的に土方さんへの思いを伝えたかったが、優しい手つきが気になってそれどころではない。さっきからどうもくすぐったい。



「あの、」

「……今じゃねーな。」

「え?」

「こっちの話しだ。んじゃ、行くか。」

「…はい。」



手が離れ歩き出した土方さんの後ろ姿を見ながら、自分がさっきよりも、やたらと熱を持っていることに気がついた。酔いを覚ますための夜風も意味がなく、熱はどんどん増していく。



「名前、」

「…。」

「帰るぞ。」



考えるよりも先に足が動いて、土方さんの隣に立つ。そのまま、私の歩幅に合わせて歩き始めるた土方さんの横顔をそっと見ると、少し険しそうな顔をしていた。それがどうしてか分からず、それからはとくに会話はせず、帰路についた。



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