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護りたい気持ち



第93話



「この間も美味しいもん食べたのに、またこんなに美味しいもんがいっぱい食べれるなんて、夢みたいアル!」

「そうだね〜、この間の名前さんのもつ鍋も美味しかったもんね!」



そんな会話をしながら私たちの前を歩く神楽ちゃんと新八くん。微笑ましい光景につい笑みが溢れる。

そう、この間、万事屋のみんなにはお礼としてもつ鍋をご馳走した。食べに行くでもよかったが、お家でゆっくり過ごしたい銀さんの要望もあり、私はいいもつ鍋セットをネット通販で買い、自分で用意して振る舞ったのだ。



「でも、まだまだ感謝しきれないの。たぶん、しきることはないと思う。本当にありがとうでいっぱいだよ。」



私がそう言うと、前を歩いていたふたりはこちらを振り向いて、ニカッと笑った。その笑顔が逞しくて、私は小さくみんな大好きと言葉をこぼした。



「…なァ。」

「銀さんも…今日もありがとうございました。」



銀さんが何かをいう前に私はそういって、隣を歩く銀さんを見上げた。銀さんは私よりぐっと背が高く、見上げないと視線が合わない。体格も大きい。けど、歩幅はいつも一緒。



「…絶対、なんていうと自惚れすぎかもですけど、でもそう思ってしまうほど、銀さんはいつも私を助けてくれます。」

「…。」

「今日もまさか、でも、もしかしたらって思ってたんです。そしたら本当にいるから。…この間から、銀さんの優しさに頭が上がりません。」

「大げさだろ。」

「ううん、ずっと…ずっとです。…そうやって銀さんは、たくさんの人を救っているんですね。だから、わたしも今回のことで色々考えさせられて…それで…強く決めたことがあります。」



私がそういって銀さんに笑いかけると、銀さんは何を?といった顔をして、立ち止まった。



「…なにがあってもわたしは銀さんを護ります。わたしに何ができるのかは、分からないけど。できること、一生懸命探します。」



私も立ち止まってそう銀さんにまっすぐ伝えると、銀さんは珍しく驚いた表情をした。それがなんだかおかしくて、私はまた笑いながら、きっと神楽ちゃんも新八くんも、他にもたくさんそういう人がいると思いますけど、と続けた。



「わたしはわたしにできることで、銀さんを護りますから。…護らせてくださいね。」



護る、なんて安易には言えない。前の世界で自分がいかに無力で無意味な存在だったか、十分実感した。

けど、それでもあの頃とは違う、強い意思が今はある。胸でじわじわと熱くなるこの想い。

溢れ出る相手を想う気持ち。



「……そりゃァ、逞しいな。」



銀さんはそういって笑った。そして、そのまま私の手を握り、歩き始めた。私はその握られた手をじっとみる。前とは違う、指を絡めた握り方に自然と首が傾く。



「…銀さん?」

「ガキどもに見られてねーんだし、いいだろこれくらい。」



そう言われて前を見ると、たしかに二人はかなり先を歩いていた。立ち止まっていた間に、距離が空いてしまったみたいだ。いや、そんなことよりも、この繋ぎ方が一般的になんて呼ばれているか、私だって知っている。



「銀さんは…神楽ちゃんや新八くんとも、いわゆる恋人繋ぎをするんですか?」



素朴な疑問を銀さんに問いかけると、銀さんはまた立ち止まって、私をまじまじと見てきた。…その顔はまるで呆れているようで、私はますます眉間に皺を寄せて首を傾げた。



「…なんで俺があいつらと手繋ぐの?」

「え?繋がないんですか?」

「繋がねーよ!!なんで繋ぐんだよ!!!」

「えぇ?!じゃあなんで私とはよく繋いでくれるんですか?!」



私が銀さんより年下とは言え、二人の方がさらに年下なのに、そこは繋がないなんて、なんだか納得がいかない。



「どんだけこども扱いしてるんですか!?」

「…お前…!!まさか…っ!!」



そういって銀さんは大げさに手を口に当てて、憐れみな目でこっちを見てくる。…あ、なんかよく分からないけどイラつくな。



「…はぁ〜っ、…なァ、真面目な話していい?」

「銀さんが?」

「喧嘩の売り方上手になってきたじゃねーの。」



銀さんの口が引き攣っているが、別に喧嘩をふっかけているわけじゃない。至って真面目に返事を返している。ただ、さっきから銀さんのよく分からない態度にはたしかにイラついていると正直にいうと、銀さんはわざとらしく大きくため息をついて、握っていた手を離した。



「…。」

「お前、俺のことどう思ってる?」

「…銀さんのこと?」

「そ。」



どう、って言われても。今も前もいったように、尊敬しているし、感謝もしている。それに万事屋のみんなは私にとって、とても大切な人たちだ。



「聞き方が悪ィな。…俺のこと、嫌い?」

「は?なんで?」

「いや、お前ふつうに返事しすぎな!ちったァ考えろよ!」

「だ、だって!意味不明なこというから!なんでわたしが、銀さんのこと嫌いなんですか?!そんなこと一言も言ってないし、さっきから大切だって、何度言ったら、!」

「…じゃあ、この手は。…嫌?」



そういって銀さんはまた指を絡めて私の手を握った。そして一歩、私に近寄く。突然の近距離に驚く私のことなんかお構いなしに、銀さんはそのまま握りしめた手を自分の口元に持っていく。



「…嫌?」

「っ、!な、なんなんですか!」

「質問に答えろよ。」



意味がわからないが、なんだかとっても恥ずかしくて、どんどん自分の顔に熱が集まるのがわかる。まただ、最近よくあるこの銀さんとの距離が、とても心臓に悪い。



「い、嫌じゃないです!嫌だったら、振り払ってますし!
た、ただ!なんで神楽ちゃんと新八くんにはしないのに、わたしにはするのかなって、そう思っただけで!」

「…名前だから。」

「え、」

「名前だからだよ。」



そういって銀さんは何を考えているのか、そのまま私の手の甲に静かに唇をつけた。そしてそのまま、真っ直ぐな目でこちらを見つめる。あの時のように、射抜く赤い目で。



「お前に触れてェって思う俺の気持ち、ちょっとは考えてくれね?」

「ぎ、」

「こども扱いなんざしたことねーよ。お前を…ガキどもみてぇに思ったこともねェ。」

「…。」

「もう一度聞くぞ。…俺のこと、どう思ってんの?」



私は、とんだ勘違いをしていたらしい。



「…また返事聞かせてくれや。」



そういって銀さんはそのまま私を引っ張るように歩き始めた。私はやけにうるさい心臓の音を押さえつけるように、胸をぎゅっと握り、銀さんに握られた手が汗をかいていないか、そんなことを心配していた。



銀さんは優しい。
みんなに優しい。

この町の人たちは、そんな銀さんのことが好きだ。神楽ちゃんと新八くんだって、銀さんのこと大好きだ。本当の家族のように親しんでいる。

私も"そう"だと思っていた。そもそも、深月さんたちが繋いでくれたこの関係は、最初から優しさで繋がっていて、そう思うのが当然の流れだった。私なんかと思うことを改めても、そこから私だからなんて考えたことなんかなかった。



この人もまた、私にとてつもない爆弾を投げてきたらしい。



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