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伝わりますように



第89話



店内で店主に手を挙げた暴行罪として、藤堂馨は現行犯逮捕された。また、店内の防犯カメラによる一部始終のやりとり、盗聴器による会話の録音、内容から、全て藤堂馨が行ったものだという、本人の言質がとれた。つまり、私に対するストーカー罪もおそらく適用されるだろう。



「おわった…。」



真選組屯所内の事情聴取の部屋で、私は机に突っ伏していた。これから被害者として任意の事情聴取を受ける予定だ。



あの時、私を間一髪のところで救ってくれたのは、銀さんだった。そのあとすぐに土方さんと総悟もきて、正式に罪状を取って、藤堂馨は連行された。銀さんは、腰が抜けて立てない私をそっと支え、たった一言、おつかれさん。といって私を抱き上げ、総悟に指示されるまま、一緒にパトカーへと乗り込んでくれた。



「……。」



意外と早く事が解決したことはよかったと言える。けど、土方さんにも車内で軽く怒られたが、私は結構な無茶をした。山崎さんが監視しているとはいえ、手を出されたらすぐに助けに行ける距離にはいないし、一瞬にして怖い思いを、傷を負ったかもしれない。けど、それでも私は、藤堂馨から犯人である言質は自らが取りたかったし、伝えなければならないこともあった。



「(届いたかどうかは、わからないけど。)」



藤堂馨ほどの好意は初めてだが、似たようなものは以前にも経験がある。それもこれも、私が相手をはなから拒絶したことが原因、もしくはキッカケの一因でもあったのかもしれない。つまり、私も私で、反省すべき点は大いにあると、今回身をもって知った。



「つーか、お前らが遅ェからこっちが出たんだろうが!!なんで俺が厳重注意なんだよ!!おたくら、マジでどういう仕事してんの?」

「相手がお前を訴えねーこと願っとくんだな。そもそも限度ってーもんがあんだろ。なに綺麗に骨まで折ってくれてんだ。」

「相手がひ弱だから勝手に折れたんだ、カルシウムが足りてねーんだよ、カルシウム!ついでにお前も足りてねーから、そんなカリカリしてんじゃね?いる?いちご牛乳。」



廊下から騒がしい声が聞こえてくる。あぁ、またやってる。と思っていると、勢いよく部屋の扉があいた。



「待たせたな。」

「っし、帰ろうぜー名前。」

「え、」



でもこれから聴取…というと、土方さんは、山崎さんからの報告で経緯は聞いているから、今日はもういいとのことだった。建前として連れてきただけで、どっちかっていうと私の保護目的だったようだ。



「…一応、軽く現状報告をしとくと、相手は全てを認めてる。」

「…。」

「反省の言葉も、口にはしている。だが、お前に対しての接近禁止令は出るから、二度とお前の前に現れることはない。」



だから安心しろ、とまでは土方さんは言わなかったが、そう受け取れという意図はわかった。その優しさに私は頷いた。



「…ポストカードに、ミモザの箔押しがあった。」

「はく、おし…?」

「ポストカードの端に、ちっちゃくあるのを総悟が気づいた。それですぐに町にある活版印刷所に連絡して、藤堂が利用したとこを突き止めた。

それから、俺とお前が出掛けている時、藤堂が後をつけ回しているのを山崎が小型カメラで証拠を押さえていた。

あと万事屋のガキどもも、盗聴器の出どころを調べ上げて購入履歴から藤堂を割り出していた。ちなみにこいつはなにもせず、山崎と一緒にお前を監視してたらしいがな。」

「なにもせずじゃありませんー。あんぱん食いながら監視してマシター。お前が変なことしねーよーに見張ってマシター。」

「お前じゃあるめぇし、しねーよ!!」

「俺だってしたくてもしねぇわ!!!」



私はみるみる目を見開いて、土方さんと隣にいる銀さんをみた。銀さんはなぜか罰が悪そうに、万事屋にしたら猫探しより簡単な依頼だからといって、耳をかいた。



「それだけでも十分あいつを捕まえれた。けど、シラを切られたら、手こずってたかもしれねぇ。お前が、危険を冒してまで相手と向き合ったことが、でかかった。

…怖ェ思いしてまで、…よくやった。」



そう土方さんに言われて、私はやっと、そうやっと、息を深く吐いて、もう一度机に突っ伏した。そして押さえきれない嗚咽を無意味だと分かっていても、腕で必死に押さえて、私は泣いた。



よかったという安心感

あの時の得体の知れない恐怖感

周りのみんなの優しい温かさ



全部が混じって私はただただ、ありがとうございますという言葉を何度も何度も繰り返した。そして、泣いて、泣いて、いろんな感情を吐き出すように、泣き続けた。

その間、銀さんと土方さんは私の肩に手を置いて、何も言わずにそばにいてくれた。



ミモザの花言葉は秘密の恋。そして、思いやり。



恨むんじゃなくて私は彼に望みをかけたい。思いやりをもって、今度こそはちゃんとした好きの気持ちをどうか抱けますように。そしてそれが誰かに受けとめてもらえますように。



好きという感情は、本来はとっても素敵なものだ。それがちゃんと育って実りますように。

そう願わずにはいられない。





「…総悟は?」

「取り調べ終わって、そのへんでサボってんじゃねーか。」

「…銀さんちょっとだけ、」

「んじゃ、外で待ってるわ。」



屯所を出る前に、まだ顔を合わせていない総悟に会いたくて、私は先に土方さんに頭を下げ、銀さんにもありがとうといってから、土方さんのいうその辺で総悟の姿を探した。

なんとなく夕刻の日当たりのいい縁側にでもいるんじゃないかと思い、屯所の廊下を歩いていると、予想通りの場所で総悟の姿を見つけた。



「…総悟。」

「なんでィ、このお人好しバカ。」

「なにそれ、ひどい。」



笑いながら総悟の隣に腰掛ける。総悟はいつものようにサボる時に愛用しているアイマスクをしながら、縁側に寝そべっていた。



「…あんなやつに謝るなんざ、おめェの頭はどうなってんでィ。」

「みてたの?」

「たまたま近くの見廻り中、ザキから連絡がきたんでね。」



たまたま、近く。本当にそうだろうか。私はくすぐったい気持ちを隠しながら、本当にありがとうと、お礼を伝えた。



「総悟が、…早く犯人を見つけないと、わたしが笑えないって言ってくれた時、すっごく嬉しかった。」

「…。」

「わたしね、最近気づいたことがあって。好きって気持ちは強いなって。想われることも、想うことも、どっちも、自分の力になる。そう、ある人にも話したばっかだったのに、総悟とのお見合いも、今回の藤堂さんも、好きの気持ちを軽く蔑ろにしてた。」

「大失恋の経験でもあんのか。」

「…ううん、ないの。恋愛、したことないの。…藤堂さんに話した通り、わたし、自分が嫌いだったから。他人も、好きになれなかった。けど、誰かを想って想われたい気持ちがね、最近芽生えたんだ。恋愛だけの話じゃないよ。人との関わりの中でね。それって、わたしがわたしのこと、少し好きになったからだと思う。」



「弱さを受け入れて強くなろうって、前を向いて生きようって気持ちが、ちゃんとわたしのなかにあったんだ。」



土方さんが気付かせてくれた。弱さを認めて受け入れること。そして、強くあろうとすることが大切だと言うこと。私は、私を嫌うばかりで好きになる努力なんて、これまでしたことがなかった。嫌いであることが当たり前になっていた。だから他人にも興味がないし、いつだって自分が悲劇のヒロインだった。



「わたしなんか、って言葉…口癖だった。でも、教えてくれた。深月さんに出会って、この世界で生きていくうちに、みんなに救われて気付かされた。わたしは、どんなわたしでも、好きでいなくちゃ。そんなわたしを大事に想ってくれる人たちがいるなら、余計に。」



もちろん、今回みたいに応えられない想いもある。けど、もう逃げることはやめる。そう私が話し終わると、総悟は起き上がってアイマスクをとり、私をじっと見つめた。



「…話したいことがあるの。今度、近藤さんと土方さんも含めて。」



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