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ようこそ三日月堂へ!

初めまして、お会いしたかったです。

第9話

その日は本好きたちが待ちかねていた、とある作家さんの新刊の発売日で、朝から店は賑わいを見せていた。かくいう私もこの作家さんのファンで、この日を楽しみにしていた。今日はお店を閉めたらすぐにでも自室に閉じこもり、読みふけようと決めていた。



「ありがとうございましたー。」



前の世界となんら変わらない、文字で紡がれる物語。どの時代、どの世界でも変わらない本の良さに私は毎日幸せを感じている。





夕方頃になるとだいぶお店も落ち着き、そろそろ店を閉める準備をしようと、カウンターの引き出しにある帳簿を開く。単行本がこんなにも売れると、その日の売り上げは思わず笑いが出てしまうほどいい。今月はこれで予算達正が確実だ!と、思わずガッツポーズをしていると、お店の扉が豪快に開き、元気のいい声が店内に響いた。



「頼もぉーーーっ!!」

「?!」

「いや、道場破りじゃないから!あ、あの、突然すいません、名前さんですか?」

「え、ええ。わたしですが、あの、なんのご用ですか?」



目の前には自分より少し幼さを感じる眼鏡の男の子と、チャイナドレスを着た女の子。そしてその後ろには、



「あれ、銀さん?」

「どーも、万事屋でーす。」



見慣れた銀さんが立っていた。





「お茶しかなくてすいません。」

「いえ、押しかけたのは僕たちの方ですから!」



突然の万事屋さんの訪店に驚いた私だったが、いつかは会ってみたかった2人に会えたことにテンションが上がり、急ぎの用じゃなければもう仕事も終わるので…といって、3人を居間に招いた。



「お会いできて嬉しいです。改めて名前っていいます。」

「そ、そんな!えっと、あ、僕は志村新八で、こっちは神楽ちゃんっていいます。」

「名前って呼んでもいーアルか?」

「はい、好きに呼んでください。わたしも、新八くんと、神楽ちゃんって呼んでもいいですか?」

「はい!」「いいヨー!」

「(か、可愛いっ!!)2人のことは銀さんから少し聞いていて、まだ未成年なのにしっかり働いてるのすごいなって、」

「給料未払いのタダ働きですけどね…。」

「ご飯は毎日たまごかけご飯ネ!」



給料未払い?毎食たまごかけご飯?聞き捨てならない言葉に思わず銀さんに目を向けると、あからさまに聞こえてないフリをしながら、人の居間にもかかわらず呑気に寝そべってテレビを見ていた。



「ちょっとそこのダメな大人さん。どういうことですか。」

「言っとくけど、銀さんだって被害者だからね?たまごかけご飯はそいつが望んでのたまごかけご飯であって、そもそもそいつが俺ん家の米をほとんどひとっ…ぶはっ!!」

「たまにふりかけが恋しくなるネ…。」



こんなに可愛い女の子でも、お腹にパンチひとつで、大の大人が床に突っ伏して苦しむくらい強いのなら、もう毎食白米でも問題ないように思えるし、なんならこの世界の白米には力が強くなる成分とか入ってるんじゃないかと思えてくるほど、私がここ最近目にすることは、どれも常識を超えてきていた。

「(大人子ども関係なくこの町の女性は強いんだそうだもうわたしはこれしきのことじゃ驚かな)」

「名前さん?」

「す、すすいません!で、でも、人様のことに口挟むのもなんですけど、そんな給料未払いとかで大丈夫ですか?そもそも3人で暮らしていけてるんですか?」

「あ、僕は姉上と二人で暮らしていて、別に帰る場所があるので大丈夫ですよ。」

「あれ?え、でもよく銀さん、ガキが待ってるって…」

「待ってねーヨ。銀ちゃんがいなくても定春がいるネ!それにこんなやついない方がまっしアル。」

「いやお前あれは俺の家だからね、なに家主を追い出そうとしてんだよ。」



ギャアギャアと言い合いを始める銀さんと神楽ちゃんを、いつものことですといって苦笑する新八くん。私は頭をフル回転させて状況を把握する。つまり、銀さんはこの2人に働かせるだけ働かせて、給料は払わず、自分はパチンコ屋や呑み屋に?いや、待て待てそれよりも、こんな可愛い女の子と2人だけで暮らしているってどういうこと。しかもちゃんとしたご飯も食べさせていないって、そんな…そんな!

「お、おまわりさんんんん!!!!犯罪者はここですうう!!!」

「名前ちゃんんんん?!?!?ちょ、落ち着け!落ち着こう!どうした!?てかまずその電話おいて!受話器おいて!!!」

「可愛い女の子と男の子を自分の都合よく働かせて、食事も与えないなんてそんなっ!ど、どんだけ悪人なんですか!!もう大丈夫ですよ2人とも!!私が警察に事情を説明して、解放してあげますから!!!」

「え?!ちょ、名前さん!?」

「待てェェェェ!!誤解すんな名前!ちょ、お前らもちゃんと説明しろ!じゃねーと、こいつ本気で電話っ…おっ…ま!どんだけ力強いんだよ!?受話器離せ?!な?!」



そのあと私のとんだ勘違いが判明し、騒ぎ立ててしまったことを土下座する勢いで詫びた頃には、すでに外は真っ暗で、時計は夕飯時を指していた。


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