休日の白昼、人が行き交う商店街の真ん中で八千代とヨシノが口論していた。

「何で病室にいるのが葛城君のお兄さんだって教えてくれなかったんだ!」
「だって聞かれなかったし」
「聞くかよ!お兄さんが入れ替わって病室で横になってるかもしれないなんて普通誰も思わねえよ!」
「俺が言った通り見分けつかなかったでしょ」
「そうだなそっくりだったな!今にして思えば葛城君にしてはらしくない行動が数々あったのにな!」
「なかなか気付けないもんでしょ。くるちゃんだと思い込んでいるからくるちゃんに見えてしまう、人間の不思議!」
「そんな体験望んでねえよ!」
「実は雰囲気とか全然違うから二人を知っちゃえば見分けつくんだけどね」

ヨシノが八千代に、病室にいるのがくるではなくくるの兄だと伝えなかったのは、悪気があった訳でも意地悪でもない。
八千代が見間違え、勘違いしている事に気付いていても、それを教える義務も必要性もヨシノにはない。
それだけの事だった。
ヨシノは何も悪い事はしていない。八千代はそれを分かっている。
だから、これ以上会話と続けるとヨシノに八つ当たりをしてしまいそうで、顔を背け舌打ちをする。
まるで双子のようにそっくりだと言っていたヨシノの言葉を思い出す。
病室にいるのがくる本人だと思い込んでいる事を差し引いても、いつもより雰囲気が違うなと感じても、兄かもしれないなんて疑いもしなかった。
別人だと指摘され思い返せば、確かにくるとは表情も雰囲気も違ったと感じるのに。
くるを気に掛け見舞いに行ったというのに、全く別の人物と会話をしていた呑気な自分に苛立ち奥歯を噛む。
その時、突如第三者の声が割って入って来た。

「ぴーちくぱーちくやかましいと思ったら、八千代先生とヨシノじゃありませんか」

八千代が声がした方へ顔を向けると、普段学校で見かける服装よりも本格的なゴシック・アンド・ロリータに身を包んだノエルがいた。
八千代が通う実習校は制服の着用義務はあると定められているが、式典時以外自由度は高い。
制服をアレンジする者もいるし、派手でなければある程度私服での登校も黙認されている。
なので、ノエルは普段からゴシック・アンド・ロリータファッションを彷彿とさせる服装を着用していた。
本人なりに考えて着用し登校しているのだろう。ファッションに疎い八千代ですら、学校で目にしていたノエルの服装が控えめの部類に入るのだろうと想わせる程、目の前に立つノエルの装いは完璧だった。
堂々としたその姿は街に溶け込まず、人混みの中にいようと存在を強く主張している。

「こんな商店街のど真ん中ではしたないとは思いませんの?こんな人達が私の知り合いだなんて。まったく。私の品格が疑われますので、今すぐそのだらしない口を噤んでくださらない?」

ノエルは口元を手で隠し、汚物を見るかのように目の端で八千代とヨシノを見る。

「騒がしかったのはさっちゃんだけだよー」
「まあ!生徒の模範であるべき先生様が迷惑行為だなんて非常識も甚だしい!恥を知りなさい!」

言いたい事はたくさんあったが声を張り上げていたのは事実だったので、八千代は堪えた。

「ノエル、言い過ぎだよ」

ノエルが背後から声を掛けられ振り返る。
そこには八千代が教育実習で担当しているクラスの生徒であり、ヨシノやノエルのクラスメイトが立っていた。

「そうですか?私は事実しか口にしていないと思いますけれど」
「真実だったら何言っても言い訳じゃないだろ。それにノエルの場合、事実の皮を被った悪口って感じがする」
「あらあら」
「八千代先生こんにちは、ヨシノもこんにちは」
「こんにちはー」
「二人共ノエルにカツアゲとかされなかった?」
「ああ、大丈夫だ。えっと、相楽さんだっけ」

相楽撫子。
普段制服を着用している生徒だったので、私服姿に容姿と名前がすぐには繋がらず、疑問形で返事をしてしまう。
それに気を悪くした様子もなく、寧ろ相楽と呼ばれた少女は嬉しそうに眼を輝かせた。

「私の名前を覚えてくれてるなんて嬉しいよ!」
「撫子、そんなの当然ですわ。覚えてなければ大学側に文句言ってやるところです」
「やめろ」

不快感を隠す事なく表情に出した八千代を無視して、ノエルは撫子との会話を再開する。
校内で二人が親しげに話しているところをよく見掛けていたので仲が良いと思っていたが、どうやら想像通りのようだった。
よく自分に向ける嘲笑とは違い毒のない表情をしているノエルを見て、コイツにも友達がいたんだなと八千代は心の中で呟いた。

「ところで撫子、リオはどうしたんですの?」

リオ。
そんな名前の男子生徒がクラスにいたような気がする。
彼と三人で休日を過ごしていたところだったのか。そんな中わざわざ嫌味を言うために声を掛けてくるなよ、と八千代は再び心の中で呟いた。

「もうカラオケで予約した時間になるから先に行ってくれたよ。私はノエルを迎えに来た。ノエルは目立つから見つけやすくて助かるよ」
「予約時間に間に合わないなら携帯で遅れる旨を連絡した方が早そうなものを、要領が悪いですわね」
「私達のために行ってくれたんだからそんな事言っちゃ駄目だよ」

行こ、と撫子がノエルを促す。
はいはい、とため息交じりにノエルが一歩を踏み出そうとしたところで、ふとその動きを止めた。徐に八千代とヨシノに視線を移す。

「何だよ」

八千代がぶっきらぼうに言うと、ノエルが口を開いた。

「私達これからカラオケなのですけど、宜しければ八千代先生とヨシノも御一緒しません?」

ノエルの提案に八千代が「は?」と声を漏らしたがその呟きは撫子のあげた悲鳴のように大きな声でかき消された。

「と、突然何を言い出すんだノエル!そそそそんなの事聞かれたら八千代先生困るだろう!」
「撫子には聞いておりませんわ」
「だ、だって」
「だってじゃありません」
「でも」
「でもも聞きません」
「あうう…!」

一体何事かと八千代が落ち着かない撫子の様子を見ていると涙目の撫子と目があった。
八千代と目があった途端撫子はみるみる頬を赤く染め、顔を両手で覆い隠す。

「なんか相楽さんが俺達に来てほしくないみたいだけど」
「そんな事は言ってない!」

顔を覆いながら撫子が言い切る。
その様子をノエルがくすくすと目を細め楽しそうに眺めている。

「八千代先生に来てもらって一番嬉しいのは撫子ですものね」
「ノエルうるさい!!」

耳まで赤く染め今にも泣き出しそうな顔でノエルを睨みつけながら撫子が叫ぶ。
相楽さんは自分に気があるというところだろうかと八千代はおおまかに察して、突然カラオケへと誘われた理由に一人納得する。
仲睦ましく言い争っている二人を尻目にヨシノに向き直る。

「どうする?」
「さっちゃんが決めなよ」
「紫乃が行くなら行こうかなと思って」
「俺のお兄ちゃんはブラコンだにゃー」

ヨシノが呆れた声を出しながら片手をひらひらと上げてノエルと撫子の気を引く。
二人が自分に気付き口論を中断した事に気付いてからヨシノが明るく

「御一緒させていただきまーす」

と言うと、撫子は目を見開き「うわあああぁぁぁ」と尻すぼみの叫び声を上げながらその場にしゃがみこんだのだった。



リオを待たせているんだからと急かす撫子の声をスルーして自分の歩行ペースを貫くノエルの歩行ペースに合わせる事になりながら、四人は駅前のカラオケ店へとやって来た。
撫子が小走りで受付へと向かい、人数変更の旨を伝えている。
定員から部屋番号を聞き、部屋へと向かう。

「リオ、ごめん今着いた!」

扉を開けると八千代が名前から想定していた人物が部屋のソファに座っていた。
九重リオ。
八千代が教育実習で担当させてもらっているクラスの生徒の内の一人。
この場にいる全員がクラスメイトであり、八千代の担当クラスに所属する生徒という事になる。

「撫子!ノエル!良かった、はぐれた時はもう会えないかと思った!」
「大袈裟だよ」
「私からはぐれるお前が悪いですわ」
「どちらかというとノエルが私達を置いて単独行動に走ったんだけどな」

言いながら撫子がリオの隣に座る。

「あ、これフリードリンクのメニュー一覧だってさ」
「ありがと」

撫子がリオから一覧表を受け取り視線を落とす。
ノエルは撫子の隣へは座らず、二人と向き合うように反対側の席へと座る。
そして自分の隣の席を指差しながら

「ヨシノはこっち」

撫子の隣を指差して

「八千代先生はそっち」

と指示した。
それを聞いて撫子がメニュー一覧を膝に落とす。

「な、ななななななななっ」

撫子が戦慄きながらノエルを見る。

「なんか相楽さんが俺が隣は嫌みたいなんだけど」
「嫌じゃ!ない!けど!」

撫子がぶんぶんと首を勢いよく左右に振る。

「っていうか八千代先生とヨシノもいたんだな、こんにちはー!」
「ああ、そこで偶然ノエルに会って、誘ってもらったんだ。お邪魔だったか?」
「そんな事ないですよ!賑やかな方が楽しいっしょ!」

八千代が撫子の隣に座ると撫子はリオの肩に顔を押し付け震えだした。
それをノエルがニヤニヤしながら撫子を眺めている。

「実にオモローですわ」
「あんまりからかってやるなよ」

ノエルが撫子の反応を楽しんでいる事を分かっている八千代は溜息をついた。
撫子の膝の上に落ちたままの一覧表を拾い目の前に座るヨシノに渡す。

「八千代先生とカラオケってなんだか新鮮だな!」
「まあ普通はアウトだしな」
「アウトってどういう事だ?」
「何かあったら責任問題になってくるから生徒と遊びに行くのは控えるのが普通って事。特に俺の場合は教育実習生だし」
「え!じゃあまずいんじゃ!」
「別にバレなきゃいいだろ」

しれっと言い放つ八千代にリオがぽかんと口を開く。

「先生ってもっと生真面目なのか思ってた」
「お前失礼だな」

二人の会話を聞いていたノエルがくすくすと笑う。

「この人、私が見かけた時、商店街のど真ん中でヨシノと口論してたんですのよ」
「なにやってんすか」
「色々あったんだよ」

病室を抜け出して今頃くるは何処で何をしているのだろうと八千代の頭を過るが、考えても答えなど出ないのだからと考える事をやめる。
捜しに行きたい衝動はあったが、闇雲に捜したところで見つけられるとは到底思えない。
心配ではないと言えば嘘になる。
今度会ったら抜け出した事を注意しなければ。

「へー、八千代先生って学校の中と外では印象違うんだな」
「言い方から受ける印象最悪だな。休日くらい肩の力抜かせろ」

リオがけらけらと笑っていると、撫子がゆっくりと震えがおさまった身体を起こし姿勢を整える。まだ顔が赤い。

「撫子大丈夫かー?」

リオに声を掛けられちらりと撫子が目の端で隣を見る。八千代が隣に座っている事実を改めて確認し、今度は身体を前屈みに倒した。

「大丈夫じゃない」
「うん、大丈夫そうだな」
「君の目は節穴だな!」
「元気じゃん」

リオが撫子の背中をぽんぽんと撫でた。

「仲良いんだな」
「仲良しっすよー!」
「二人は幼馴染なのですわ」

検索端末を操作しながらノエルが補足した。
曲を選び受信器に送信したらしく、スピーカーからはリズミカルな音楽が流れはじめた。
ノエルはマイクを持ち、室内に設置されたステージへと軽やかに移動した。

「今日は楽しみましょう!」



カラオケから出ると日は傾き街灯が灯り出していた。
辺りは暗くなってきているが、休日と言う事もあり昼間から人混みが減っている様子はない。

「今日は楽しかったよ、誘ってくれて有難う」
「ありがとー!」
「いえいえこちらこそ、おかげで面白いものが見れましたわ」

口元を隠してくすくす笑いながら撫子の方を見る。
その視線を受け流し撫子が八千代とヨシノに向かってぺこりと頭をさげた。

「こちらこそだよ二人共。是非また御一緒してくれると嬉しいな」
「オレも楽しかった!また一緒に遊ぼうぜ!」
「今度は八千代先生の奢りでお願いしますわ」
「自分の分は自分で払え」
「ケチですわね」
「ケチじゃねえ。ほら、さっさと気を付けて帰れよ」
「先生もなー!」

三人は八千代とヨシノに手を降り背を向け歩き出す。
何処で夕飯にするかと話しているのが聞こえるので、どうやらまだ帰る気はないらしい。

「俺らもどこか寄ってくか?」

八千代がヨシノの正面に回り声を掛ける。

「んー、くるちゃんとこにお見舞い再チャレンジする?戻って来てるかもよ」
「今度でいいよ、今から行ったら面会受付時間過ぎるから」
「そっか。じゃあごはんー!天丼食べたい!」
「りょーかい」

八千代が上着のポケットから携帯を取り出し、近場で天丼が食べられる店舗を検索しようと画面に指を滑らせる。
ヨシノに検索結果を見せながら店を選んでいると、左手にある広場の奥から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
それに返しているような威勢の良い声が八千代のよく知っている声で、八千代はめんどくさいなあと思ったがそちらへと足を向ける。

「お前はそこで店選んどいて。すぐ戻って来るから待ってろよ」
「うん」

ヨシノに携帯を預けて広場の方を見に行くと、八千代の想像通りの人物・ノエルが複数人の男達の前に仁王立ちで立っていた。
怒鳴り合いをしているようだ。
バスターミナルが隣接しているためいつも広場には疎らに人がいるが、今は一触即発の気配を察して広場の外へと避難しているようで怒鳴り合いを続けるノエルと男達以外広場には人がいない。
道行く人も近づこうとはせず、広場を囲む植込みの外側から何人かが遠巻きに眺め、事の成り行きを傍観している。
溜息を一つついて八千代が広場に入って行く。

「あら、八千代先生ではありませんか」
「先生?」

男達がジロリと八千代を見た。
その内の何人かは手にバットやバールを持っていて、本来の使い方をしていればそんな凹み方や錆び方はしないと思われる形状をしている。
八千代は愛想良く笑ってそれらの視線を受け流した。

「何やってんだよお前は」
「見て分かりませんか?か弱い私が強面の獣に喧嘩を売られております」
「オイふざけんな!」

憤り今にも殴りかかってきそうな剣幕をしながら、男が大声をあげて手に持っていたバールで地面を叩き付けた。

「ふざけてませんわ、先に声を掛けて来たのはそちらでしょう」
「人様を騙して散財させといて何言ってやがる!」
「騙しただなんて人聞きの悪い。貴方が喜んで私に率先して貢いでくださったのでしょう」
「要するにどういう事だ」
「ナンパされたのでお食事のお相手をしてさしあげたら、私が男だと分かった途端、掌を返したように騙されただのと逆ギレしてきたんですの」

ノエル。
ゴシック・アンド・ロリータファッションを華麗に着こなし、優雅な立ち居振る舞いで上品なキャラを演出し、小顔でプロポーションの良い身体をしている彼の本名は、鈴木龍之介といった。
幼少期の頃から自分の容姿が整い愛らしいと自覚していた彼は、自分を最も引き立たせ魅力的に魅せる容姿を模索し研究した。
その結果が今の彼の姿だった。

「ナンパに乗っかったお前の行いについては置いとくとして、女って勘違いされてるって分かっていながら付き合ってやってたんだろ。だったら最後まで夢見させといてやれよ」
「化粧直しに女性用のお手洗いに入って行く訳にもいかないでしょう」
「その格好で男子用に入って来られても困ると思うけどな」

八千代が男達が口走る言葉とノエルの説明から現状を把握するために脳内でまとめる。
昼間会った撫子とリオが「迎えに来た」や「はぐれた」など言っていた事から察するに、自分達と会う前に男がノエルをナンパした。
食事を楽しんだが、ノエルが男だと分かり騙されたと逆上した。
一旦は撒いたが、仲間を引き連れノエルを探していた男に見つかり今に至る。
持参している持ち物を見るに、仕返しに暴力を振るうつもりである事が伺えた。

「くっだらね」

うんざりした顔を浮かべ、八千代が吐き捨てた。

「お前、自業自得って言葉知ってるか?」
「女だの男だの持ち出すコイツが小物なんです。美しいに性別なんて関係ないでしょう?」

バールを持った男が怒りに身体を震わせている。
恐らくこの男がノエルをナンパした張本人なのだろう。

「まあ、見る目だけは褒めてやりますわ」

ノエルが鼻で笑う。
すると、震えていた男が目の色を変えバールを思い切り振り上げた。
ノエルを目掛け力任せに振り下ろされたバールは、しかしノエルに届く事はなかった。

「あらまあ」

男の堪忍袋の緒を切ったノエルが呑気な声をあげる。
バールは、ノエルの頭部に直撃する手前で八千代が左手で受け止めていた。

「なッ」
「ノエルの自業自得だと思うけど、生徒への暴力は見逃せないかな」

男が歯を食いしばる。
バールにどんなに力を込めてもびくともしない。
男が足を踏ん張り、このまま押し切ろうと全体重をバールにかける。
それを八千代はバールがノエルから逸れる位置にずらして手を離した。渾身の力を込めていたため、男が前のめりに倒れる。
男の顔面が地面に当たる寸前、その横面を八千代が蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた男は吹き飛び何度かバウンドした後、口から血と歯を地面に撒き散らしながら勢いよく転がり数m先で横たわった状態で静止した。
その行方を目で追っていた男達が八千代を見る。
八千代はバールを拾い、流れるような動作で一番手前にいた男の側頭部を容赦なく殴りつけた。
殴られ倒れた男は出血こそしていないものの痙攣をして起き上がる気配がない。

「テ、テメェッ」

男達は各々携えていた鈍器を八千代に向けて敵意をむき出しにする。
痙攣する男の首を右足で踏みつけ、八千代がその視線を一身に受け、挑発的に笑った。
そこに、広場へばたばたと向かってくる複数の足音が響いた。

「ノエル!連れて来たよ!」

八千代が振り返るとリオと撫子がこちらへと走って来ているところだった。
その後ろに二人の警官の姿が見えて、男達の動きが止まる。

「御苦労様ですわー」

ノエルがひらひらと手を振る。

「二人には警官を呼びに行ってもらったんですの。こんなしつこい男、放っておいたらこの先安心して街を歩けませんからね。一発でも殴られとけば傷害罪でぶちこめると思っていたのですけど」

八千代をちらりと見る。
バールを片手に男の首を踏みつけ、周りには血の飛沫が飛び散り、血痕を追ったその先には男が横たわり気絶しているという、まったくどちらが加害者で被害者なのか分からない状況が目の前にあった。
ノエルがくすりと笑う。

「まあ、先生が正当防衛だと成立するように証言してさしあげますわよ」
「そりゃどうも」


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