05



指定されたドアを開くと、広々とした部屋。
なんだ、結構良い所じゃん。



「ルームメイトは…まだ来てないか」


大体の荷物は段ボールに入った状態で、大方運び込まれている。

少しずつ取り出して片付けていると、ドタドタと騒がしい足音が聞こえた。




「「直希!部屋を替えてくれ!!!」」
「…は?」


ドアを乱暴に開けて部屋に入って来たのは、翔とレンだった。


「え、いやだよ面倒臭い」
「なっ!お前冷たいな!」
「大体なんで部屋替えたいなんて…」

片付けをしていた手を止めて、立ち上がって翔の顔を見ると、やたら青ざめている。


「那月…昔の馴染みが一緒なんだよ!俺殺されるかもしれない!」
「大丈夫だよ、人はそんな簡単に死なないよ」
「なんかさっきから冷たくね!?」


大きな声を出して騒ぐ翔。ちなみに俺の態度は断じて冷たくないと思ってる。だって本当のことだし。そもそも部屋って多分勝手に替えられないと思うし。



「ちなみにレンは?」
「聖川…昔からの知り合いと一緒でね。要するに気が合わないんだ」
「そんな子供みたいなこと言わなくても…」

大体、寮での相部屋の相手なんて誰だって良いと思う。大事なのは学校での生活と成績な訳であって。
なんてことを話してるけど、翔とレンは納得していない様子だった。



「翔ちゃーん!ここにいたんですかぁ?」
「げ、那月…!」
「俺も可能であれば是非とも替えて欲しいものだな」

翔とレンの後ろに現れたのは、知らない顔の二人。Sクラスじゃないから…違うクラスか?


「えーと、二人は?」
「すまない、挨拶が遅れた。Aクラスの聖川真斗だ」
「同じく、四ノ宮那月です!」
「Sクラスの水谷直希です、よろしく」

俺達が挨拶をしてるところでも、翔はぎゃんぎゃん騒いでいる。ちょ、落ち着き無さすぎと思うけど…そんなに四ノ宮と一緒が嫌なのか?



「こう替えたらどう?俺とシノミー、直希と聖川、おチビちゃんととこの部屋のもう一人が相部屋」
「よし!完璧だな」
「ちょっと待てなんで勝手に話進めてるんだよ」
「水谷か、同部屋としてよろしく頼む」
「いやだから、俺は賛成してないって…」
レンも翔も イェーイってハイタッチしてる場合じゃないんだよ!なんで誰も俺の話を聞かない!

はぁ、と溜息を吐いていると、四ノ宮が俺の顔を見つめながらぐっと近付いてきた。

「直希くんはとっても綺麗なお顔です!アイドルコースですか!?そうなんですね!」
「いや違うけど…じゃなくて!部屋の話はどうなるんだ!」
「え?今話まとまったけど」
「だーかーらー俺は了承してない!」

ケロッと言う翔にやたら腹が立つ。
ダメだ。ここの人間は人の話を全く聞かないらしい。


「良いから自分の部屋戻れーっ!」

そう叫んで4人を俺の部屋から追い出して、部屋のドアを勢いよく閉めた。





「はぁ…疲れた…」

こんなに賑やかな環境は新鮮だけど、度が過ぎるとやっぱり疲れる。

ルームメイトは落ち着いた奴が良いな、と心の底から思った。


気を取り直して制服の袖を捲り、荷物の整理を続けた。



「よし、こんなもんかな」

元々荷物は多い方ではなかったから、片付けはすぐに終わる。

作曲の本といくつかのCD、今まで書きとめた楽譜とか、そんな感じ。あと作曲の時に使ったりするパソコンとか。こんな時、なにか趣味でもあれば良いだろうけど、特にはないしな。


なかなか来ないルームメイトが気になりつつも、なんとなく浮かんだメロディーを口ずさみながら、五線紙にペンを走らせる。


あ、意外といい感じかも。


そんなことをしていると、ようやくドアをノックする音が聞こえた。

振り返ると、ルームメイトと思われる男子生徒が立っていた。




「…初めまして、愛島セシルです!」
「水谷直希です、よろしく」
「直希ですね!よろしくお願いします!」
「何て呼べばいい?」
「セシルでいいです!」


立って握手をする。肌が褐色で、ちょっと日本人離れした感じ。年は…俺と同じか、少し下くらいかと思う。

へぇ、色んな生徒が来るものなんだな。




「セシルはどこの出身なの?」
「アグナパレスから来ました!」

………ん?


「あ、あぐな…何?」
「アグナパレスです!こう見えても第一王子なのです!」
「へ、へぇ…よく分かんないけど凄いってことは分かったよ…」

ま、まぁ!若干個性的だけど悪い奴じゃなさそうだ。平穏に過ごせるのならそれが一番だ。



「直希は、作曲家コースですか?」
「そうだよ」
「コレ、今書いたのですか?」
「あ、コレね。今なんとなく思い浮かんだから」

セシルは俺が書いた楽譜に興味があるようで、横から覗き込んだ。目がキラキラしている。


「ファンタスティック!直希は才能があるのですね!」
「いや、適当に書いただけだよ。まだ完成してないし」
「いえ!でも素晴らしいです!私もアイドルとして、負けないように頑張ります!」

あまりにストレートに褒めるものだから、少し照れ臭くなった。セシルはアイドルコースなのか、そんなことを思いながらメロディーの続きが思い浮かんだからペンをまた走らせる。




「直希」
「ん?」
「あなたにミューズの御加護があらんことを」


ちゅっ





「…ぎ、」


──ぎゃあぁぁぁぁぁ



「?トキヤー、今叫び声聞こえなかった?」
「さぁ…聞こえませんでしたが」
「そう?ほら、なんかドタドタ足音も聞こえな…」
「一ノ瀬!部屋を替えてくれ!!」
「はい?」

前言撤回。
部屋割りは重要だ。




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