06



「せっかくだから外まで夜ご飯食べに行こうか」
「うん!」


外も暗くなってきた頃、優子とどこかへご飯でも食べに行こうという話になった。

まだ会ったばかりだけど、優子は飾らずにサバサバした性格でとても話しやすい。ルームメイトが優子で本当に良かったと思った。




共同スペースを通って外へ出ようとしていたところ、ソファーの周りに何人かが集まっている。そこに見知った顔があったから思わず立ち止まった。


「ねぇ、あそこのソファーで死んでるの、香織の兄貴じゃない?」
「本当だ…どうしたんだろうなおくん」



ソファーで真上を見ながら項垂れているなおくんを不思議に思い見つめていると、なおくんの隣に座っていた翔ちゃんがこちらに気が付いてくれた。


「おー香織!…と、同じクラスの蜂谷だっけ?」
「翔ちゃん。なおくん…は一体どうしたの?」
「俺らが通りがかった時からずっとこんなん」
「おーい、大丈夫か直希」
「だいじょ…ばない…」

レンくんがなおくんの耳元で声をかけてるけど、反応が鈍い。本当にどうしたんだろう。



「私の所に来て部屋を替えてくれと言っていたので、同室の愛島さんと何かあったのでは?」


そう冷静に答えるのは一ノ瀬くん。
愛島さんって…?と尋ねると、これまた近くに立っている男の子が、私ですと手を挙げてくれた。


「愛島セシルです!直希と同室です!」
「双子の妹の水谷香織です」

愛島くんに向かってぺこり、とお辞儀をする。褐色の肌をした愛島くんは、少し日本人離れした容姿の男の子だった。ハーフとか?かな。
そっか、この子がなおくんと同室なんだ。


「んで、セシルは直希と部屋で何かあったのか?」

翔ちゃんの質問に愛島くんは、何もしてません!と首を大きく横に振った。



「ワタシはただ直希と仲良くなりたくて挨拶しただけです!キスはアグナパレスでは挨拶がわりです!」
「え?何…お前らキスしたの?」

恐らくこの場にいた全員が、原因はそれか…と悟ったと思う。



「それに唇にはしてないです!ほっぺたです!」
「当たり前だろうが!口にされてたまるかぁぁぁ!」

ずっと黙っていたなおくんが突然大きな声を出した。今日のなおくんはなんだか怒ってばかりだ。



「男からキス…あぁ…一生の不覚…」

また頭を抱えて項垂れるなおくんの肩を、翔ちゃんがぽん、と優しく叩いた。


「まぁ…そういう日もあるよ、ドンマイ」
「顔が笑ってるけど、翔」

午前中の仕返しとばかりに、翔ちゃんは楽しそうに笑う。それに釣られてみんなで一緒に笑ってしまった。



「愛島くんはどこの生まれなの?」
「アグナパレスです!音楽の神、ミューズに愛された地です」

………ん?


「あ、ぐな…?」
「カタカナばっかりでよく分かんないわよ」

聞き慣れない言葉に首を傾げてしまう私と、バッサリ切り捨てる優子。
色々話を聞いていると、アグナパレスは日本から離れた異国の地で、愛島くんはそこの第一王子だとのこと。

「そっか!よろしくね愛島くん!」
「ありがとうございます、麗しきマイプリンセス」

……んーと、

「えと、今なんて…?」
「香織はとても美しくて優しくて、ワタシ好きです」
「「はぁぁ!?」」

私のことをじっと見つめながら、すっと片手を取る愛島くん。その発言に真っ先になおくんと、何故か翔ちゃんが反応した。


「好きって…おまっ、何言って…!」
「好きって…親愛とか友達としてとか、そういう意味だと思うよ」

笑いながらそんなこと言ってみるけど、二人は納得していないみたい。
うーん…そんなに深く、捉えることでもないと思うんだけどなぁ。



「香織、」
「愛島くん?」




──ちゅ


愛島くんはそのまま私の手の甲に、ひとつキスを落とした。これには、さすがに私も顔が赤くなるのが分かった。


「ちょっ…愛島く…!」
「セシルでいいです、香織」
「こんのキス魔がぁぁぁ!」
「直希落ち着きなさい!」

暴れるなおくんを一ノ瀬くんが制止する。
赤くなった顔をなんとか抑えながらも、この空気をなんとか変えたくて、私はみんなに向かって声をかけた。


「まぁまぁ…とりあえず、みんなで夜ご飯でも行かない?」
「うん。本当は私と香織と二人で行く予定だったけど、ついてきてもいいわよ」
「メシか…確かにそろそろ何か食べないとな」
「俺もお腹すいたー!みんなで一緒に行こうよ!」

大きく元気よく手を挙げた一十木くん(名前は先程聞いた)に続いて、皆もそうだな、と言いながら立ち上がった。


ぞろぞろと並んで寮を出て、外へと歩いていく。



「ちなみに皆、何か食べたいものはある?」

「ラーメン」
「カレー!」
「パスタの気分かな」
「サラダがあればどこでも」
「うーん…これはファミレスかな…」




───


「すみません、禁煙席10名でお願いします」

お父さん、お母さん。おじいちゃんにおばあちゃん。
私、お友達がたくさん出来そうです。



「ど、どりんくばー…だと…?」
「ファミレスに来たことない人間て本当にいるんだな」
「直希!ボタンを押したらコーヒーが出てくるぞ…!」
「ドリンクバーはそういうものなんだって、聖川」
「香織、これは一杯ごとにチップを払わなくていいのかい…?」
「大丈夫だよレンくん…」

しかもそのお友達は、みんな個性的なようです。





[ 7/48 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -