04



今日は授業は始まらず、入学式とホームルームだけ。午後はそれぞれの寮の部屋で自由な時間を過ごすことになっている。


昼食の時間となり、なおくんや来栖くん、神宮寺くん、そして私の隣の席にいた一ノ瀬くんを誘って、一緒に食堂にやって来た。そこには他のクラスの生徒もたくさんいて、かなり賑わっている。




「ちょ、なおくんまたラーメン食べるの?」
「なんだよ、悪い?」
「そんな物ばかり食べてると、太りますよ」


ラーメンをトレーに乗せて席に着くなおくんを、冷ややかな目で見つめてくる一ノ瀬くん。
彼のトレーにはサラダにヨーグルト、アサイードリンクが並んでいた。


「一ノ瀬おまえ、女子かよ…」
「体重管理はアイドルの基本ですから」
「別にいいんだよ俺は。そもそもアイドルコースじゃないし」


その瞬間、三人が一斉になおくんの方を見た。
そういえばなおくん、自己紹介の時にはそこまで言ってなかった気が…する。


「水谷お前、アイドルコースじゃなかったのかよ…」
「いや、レディの双子だから、てっきりそうかと」
「うん、なおくんは作曲家コースだよ」
「そうですか、それは失礼しました」
「え!?俺もしかしてアイドルコースと思われてた?」

自分のことを指差して驚くなおくん。
三人はうん、と頷いた。



「無理無理!他人に愛想振り撒いて、歌って踊る仕事なんて俺には出来ないね」
「おま、ここにいる全員敵に回す発言だぞ」
「あー、それとさ」
「おいっ!俺様の話を無視するな!」

「紛らわしいから俺と香織のことは下の名前で呼んでよ。前の学校でも皆そうだったし」

お箸でラーメンの麺をすくい上げながら、なおくんが言う。
確かに私たちは名字で呼ばれるのはあまり慣れていない。なおくんの言葉に、私も大きくうん、と頷いた。

「まぁ…確かに分かりづらいですね」
「本人達がそういうなら了解したよ。直希に香織、だね。俺のこともレンって呼んで」


ぐい、と顔を近づけて私の左隣の席に座る神宮寺くんが言った。ち、近い…!


「わかった!よろしくねレンくん」
「おーおー分かったよレン。それとお前今後香織の横の席に座るの禁止な」


私の右隣の席に座るなおくんが、レンくんに向かってそう言った。あれは笑ってるけど、怒ってる顔。
こめかみがピクピクしてる…もうなおくんてば。今日怒るの何回目なんだろう…

レンくんはすぐに察してくれたようで、はいはい、と言って私から離れた。


「ていうか…真っ先に名前呼ぶなよな…」
「なんだい、おチビちゃんも香織のこと呼びたかったの?」

牛乳が入ったグラスを持ったまま、レンくんの方をじっと見つめる来栖くん。
あ、背低いこと気にしているのかな…でもそんなこと言ったらちょっと怒られそうだから、とりあえず言わないでおこう。


「ち、ちげーよ!そういう訳じゃないけど、さ!!」

顔を赤くして話す来栖くんはひとつ咳払いして、正面の席に座る私の方へ向き直った。


「…香織、」


真っ直ぐ見つめられて、名前を呼ばれる。
あ、改めて呼ばれると緊張してしまう。


「あ…はい、」
「香織」
「はい…来栖くん」
「…翔で良いよ」
「はい、翔ちゃん」
「な、なんでちゃん付け!」
「えっ…だって可愛いかなと思って…」
「お、お前にだけは言われたくない!絶対!」
「ていうかさ、何ちょっと甘い雰囲気になってんの」

私たちの会話をじっと聞いていたなおくんはどこか不満そうな顔をしている。

レンくんは楽しそうに笑って青春だね、とからかってくるし、一ノ瀬くんは翔ちゃんの横でもくもくと食事を続けていた。


「なんだ、やっぱり呼びたかったんだね、おチビちゃん」
「翔…じゃなくておチビちゃん、香織に惚れるなよー?」
「お前らさっきから…!ていうか、直希は何言ってんだ!」

なおくんとレンくんはすっかり翔ちゃんを弄るのにハマってしまったらしい。
あはは…ちょっぴり気の毒かも…。






───



そのあとはひとまず解散し、それぞれ今後生活することになる寮へと移動する。


寮はとても大きな共同スペースを隔てて、男子寮・女子寮と別れている。

門限は夜の10時で、その時間を過ぎると男子寮と女子寮の行き来も禁止される、と説明を受けた。


でもそれ以外の時間は、基本は行き来は自由(恋愛禁止なのに、)とされているのは、今後のペアが男女の組み合わせになる可能性があるから、らしい。


私は入口で他のみんなとバイバイして、女子寮の自分の部屋の前に立つ。



ど、どうしよう…。ルームメイトの子どんな感じの子だろう…
緊張しながら、数回ノックしたあと声が聞こえたので、がちゃりとドアを開けた。



「あ、どもどもー」
「はじめまして!水谷香織です!」
「知ってるよ、同じクラスだし。作曲家コースの蜂谷優子です。仲良くしようねー」


サバサバした、明るい女の子。
よ、よかった…感じのいい子で…


「水谷さん、双子なんだもんね。ややこしいから香織って呼ぶね。あと、私のことは優子でいいよ」
「うん!よろしくね優子!」

部屋は思っていたよりも広く、それぞれのスペースがきちんと確保されている。

既に整頓がされている優子のスペースは、楽譜やCDなどが溢れていた。


「すごい!さすが作曲家コースだね」
「そう?ごめんね散らかってて」
「全然だよ!」



そう笑い合う私たち。慣れない寮での生活なんて不安しかなかったけれど、みんなと一緒なら楽しく過ごせる予感がして、明日からの授業も頑張れる気がした。




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