03
「「あの!!」」
目が合った瞬間、私と帽子の彼が同時に立ち上がった。
思っていたより大きな声が出てしまったようで、一気に教室内が静かになる。
みんなが座っている中で、私と彼だけが立っている。注目を一斉に浴びてしまい、急に恥ずかしくなり、急いで席に座った。
「香織?」
彼の横に座るなおくんも、キョトンとした顔をしてこっちを見ている。
あああどうしよう!クラスのみんなに絶対変な奴だと思われた!
…でも、また会えた。
恥ずかしさより、今はそれがただ嬉しい。
「全員席に着けー!ホームルーム始めるぞー!」
間もなく教室のドアが開き、担任の日向先生が入ってくる。
それぞれ自己紹介を終えたあと、今後のスケジュールや、授業の概要が説明された。それから寮生活の注意点と、この学園の大原則。
「アイドルを目指すたるもの、恋愛は禁止だ。見つかったら即退学。いいな?お前ら」
鋭い眼差しを生徒に向ける日向先生に、クラスのみんなの背筋も伸びる。
そうだ、ここに来ているみんな、真剣にアイドルや作曲家を目指してるんだ。
「今の芸能界は本当に厳しい。デビュー出来たとしても生き残れるのはほんのひと握りだ。ここにいる全員がライバルだと思え。いいな」
私はやっぱり、大変なところに来てしまったようです。
───
「香織」
「なおくん!」
ホームルームが終わり、昼休みに入るところで、なおくんが私に声をかけた。
「おはよ。一人で来れたか?」
「おはよう!だ、大丈夫だったよ」
本当は色々あったのだけど、出来ればなおくんには余計な心配をかけたくない。なおくんは昔から少し過保護で、痴漢に会ったなんて言ったら何をするか分からないから。
小さな頃から私をずっと守ってきてくれた、大好きなお兄ちゃん。しっかりしてて、頼りになる自慢のなおくんだからこそ、朝のことを言ったら自分のせいだと思ってしまうだろうから。
「心配しないで!もう15歳なんだし」
「そっか、ならいいけど」
笑いながらそんな話をしていると、なおくんの後ろからひょっこり顔を覗かせた男の子とまた目が合った。胸がどきんと鳴る。
「なぁ、お前らもしかして双子?」
「おー、そんなとこ」
そうなおくんに話しかけたのは、帽子を被った金髪の男の子。
やっぱり!朝、私を助けてくれた男の子で間違いない。名前は確か、
「来栖翔くん!」
「お、おう!名前…覚えてくれたんだ」
「うん!さっきの自己紹介で!」
私がいきなり名前を呼んだから、少し驚いた顔をさせてしまったけど、すぐにニカっと笑ってくれた。
あ、笑った顔、かっこいい。
「あの、朝はありがとう」
「礼なんか要らねぇって!無事学校着けたみたいでよかったな」
「ん?何?お前ら知り合いなの?」
私達の会話を聞いて不思議に思ったらしく、なおくんが尋ねた。
「あー…この子朝電車で痴漢に会っててさ、」
「ちょ、来栖く…」
「ちかっ…!?」
あぁ…なおくんにバレてしまった。
もう来栖くんてば!そんなこと教えなくていいのに!
案の定なおくんは一気にブラックな顔になって、ゆらゆらとドアの方まで歩いていく。
「ちょっとそいつシメてくる」
「わーわー!なおくん!私は大丈夫だから!来栖くんが助けてくれたし!」
本当に何をしでかすか分からないなおくんを必死に止めた。なおくんはすぐに落ち着いたようで、そうか…と溜息をついた。
「やっぱり一緒に行けばよかったな…ごめん香織」
「本当に大丈夫だよ、ありがとうなおくん」
「へぇ。双子というだけあって、顔立ちはそっくりだね」
するとまた後ろから別の男の子に話しかけられる。
スラッとしたモデル体型の男の子…うわ!彼もかっこいい!
「はじめまして麗しきレディ。神宮寺レンです」
「(れ、れでぃ…)水谷香織です!よろしくね!」
「お前!本当に見境ないなっ…」
私の肩を抱いてくる神宮寺くんに向かって、呆れた顔をしているのは来栖くんだ。
「気を付けろよ水谷、こいつ危険だから」
「う、うん…?」
「全く、失礼なこと言うなぁおチビちゃんは」
「よーしそう言うならその手をさっさと離してもらおうか神宮寺」
「わお、怖いねぇお兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんだ!」
私の肩から神宮寺くんの腕を必死に離そうとするなおくん。だから顔が怖いって言ってるのに、なおくんてば。
そんな様子に苦笑いしながらも、素敵なみんなと一緒に過ごす、一年間の学園生活に期待を持たずにはいられなかった。
「ていうか来栖はちっちゃいな」
「うるせ!その内すぐにビックになってやるんだからな!」
「あ、帽子取れた」
「や、止めろよ水谷!」
「ドンマイおチビちゃん」
「だから頭を触るなぁぁ!」
いつの間にかなおくんと神宮寺くんに、からかわれている来栖くんがちょっぴり可愛くて。
笑ってみんなの様子を見ていると、また来栖くんと目が合って、優しく笑いかけてくれたから、またドキドキしてしまった。
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