02



自分が一目惚れなんて、ありえないって思ってた。


一目惚れってその子の外見しか見てないみたいで、なんだか軽いみたいで。なんとなく俺様のプライドが許さなかった。

だから思ってたんだ、一目見ただけで好きになるなんて、そんなのある訳ないって。


そう思ってたのに…今朝からずっと考えているのは電車で助けたあの子のこと。



くりっとした大きな瞳、真っ白な肌、桃色の唇。背は…少し低めだったかな。

小柄で色白で、まさに人形みたいって表現がしっくりくるような、そんな子だった。
ありがとうございます、って言ったその声すら可愛らしくて。


…いや!まだ好きになったって決まった訳じゃねーし。

あの子のことで覚えているのはすごい…か、可愛かったってことと、同じ早乙女学園の制服を着ていたってことくらいだ。

…同じ学校ってことは、また会えたりすんのかな。可能性は…あるよな。




「おチビちゃーん」
「うわ!なんだよビックリするじゃねぇか!」
「さっきからずっと上の空じゃないか」


入学試験の時から仲良くなった、同じSクラスのレン、それからトキヤに不思議そうな目を向けられる。
やべ、俺今すげえボーっとしてたかも。


「…名前くらい聞いときゃ良かったかな」
「一体何の話だい?」
「なっ、なんでもねぇよ!」
「いい加減にしなさい、そろそろ入学式が始まりますよ」


二人に促され、入学式へと向かう。
席に着いて周りを見渡してみた。


つーか生徒数、思ったより多いな。
期待を込めて例の彼女を探してみたけど、残念ながら見つけることは出来なかった。




───

朝から色々あったけれど、ようやくの思いで学校へ到着する。なんとか間に合って良かった。

これも、助けてくれたあの男の子のおかげだ。
もし、あの時助けてくれなかったら、怖くて震えて動けなかったかもしれないから。


「それにしても、立派な校舎だなぁ…」


入学式が行われる体育館の中を覗くと、私が来たのは少し遅めだったみたいで、ほとんどの生徒が着席している。
思ったよりも規模が大きく、生徒の数も多く、つい圧倒されてしまう。


早くしないと、と思い慌ただしく自分の席に座ったとほぼ同時に、華やかなファンファーレが鳴り響いた。


え、えっと…入学式ってこんな華やかなものだったっけ…?


学園長の挨拶、先生方の紹介。そして、その後に現れたのは──

「続きまして、新入生代表挨拶。Sクラス、水谷直希」



「ねぇっ!あの人カッコよくない!?」
「本当だー!やっぱりアイドルコースかなぁっ!?」
「さっすが早乙女学園!レベル高いよね〜」


なおくんが前に出た瞬間、近くの女子生徒が騒ぎ出す。

うーん、確かになおくんは格好良くてアイドルコースでも通りそうだけど、実は違うんだなぁ…と周りのみんなに教えてあげたい、なんてね。

その後は、なんだか爆発があったりお花が舞ったり、とにかく色々と派手で…

私はとんでもない所に来てしまったのかも…しれません…。






────

あっという間に入学式を終えて、私たち生徒はそれぞれのクラスの教室へ向かう。

なおくんはもちろんのこと、私もなんとかSクラスに滑り込むことが出来た。


Sクラスというくらいだから、すごい人が揃ってるんだろうなぁ…と思いながらそっとドアを開ける。すると、ほとんどの生徒がすでに着席していて、近くの席の人と談笑している様子だった。

わ、私また出遅れてる…!
またノロノロしてるってなおくんに怒られちゃう…!


急いで座席表を確認し、席に着く。
一番後ろの、窓際から2番目の席。

すると、私の隣…1番窓際の席の男の子がこちらに視線を向けた。


「あっ…水谷香織といいます。よろしくお願いします」
「…一ノ瀬トキヤです。どうも」

うわー!綺麗な顔…
ほ、ほんとに早乙女学園はレベルが高い…!
私ここでやっていけるのかなぁ…


そんな風に不安を抱きながら、教室内をきょろきょろと見渡して、なおくんの姿を探す。


あ、いた!
一番前の席に座っていて、隣の席の男の子と楽しそうに談笑している。
なおくんと話してるのは、白いパーカーを着て、帽子を被った金髪の男の子…


あれ?もしかして…と思ってると、


彼がさり気なく後ろの方をちらりと見た。
その瞬間、


目が、ぱちりと合った。







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