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早乙女学園は音楽の専門的な学校。

とはいえど、ひとつの高校であることには変わりはないので、時々一般教養の授業も行われてたりする。英語や国語など、普通の高校生がやる授業もちゃんと受けているのだ。アイドルにはある程度、教養も必要だという学園長の意向みたい。なるほど!


「「あー疲れた…」」

私となおくんは揃って、机に広げた英語のテキストの上に突っ伏した。


暑さが増してきた7月上旬──もうすぐ期末テストが行われる。
そのため今日はみんなで集まって、Sクラスの教室を借りて勉強会をしているのだ。かれこれ2時間は勉強してるけど、まったく頭に入ってる気はしない。まずい、集中力切れてきた。


少し寝ちゃおうかな…なんて思って瞼を閉じようとしたら、「寝るな!」と丸めたテキストで翔ちゃんがコツンと頭を小突いてくる。力を入れてないせいか痛くはないけど、酷いよ翔ちゃん。翔ちゃんだって、お勉強得意な方じゃないくせに!



「香織はともかく、直希…お前がバカって意外すぎ」


私を叩いたテキストを広げて、くるくるとペンを回しながら翔ちゃんが言う。
その発言にムッとなる私となおくん。その発言、私にもなおくんにも失礼だと思う。


「ねぇ翔ちゃん、香織はともかくってどういうこと?」
「俺は断じてバカではない!ちょっと英語が苦手なだけだから!香織と一緒にするな!」
「ねぇねぇなおくんまでどういうこと?ねぇ」


翔ちゃんもなおくんも私の事を無視してわーぎゃー騒いでいる。だから酷いよ二人して!確かに前の学校では中の下…く、くらいの成績だったかもしれないけど…!

ははは、と楽しそうに笑うレンくんの横で大きな溜息が聞こえた。一ノ瀬くんだ。


「呆れますね。日頃の努力が足りないんですよ」
「……」
「いっ…!足を蹴らないで下さい!行儀が悪い!」


机の下で蹴り合っているらしいなおくんと一ノ瀬くんは置いといて、私は正面に座るレンくんに問題集を開いて見せ、分からない所を教えてもらう。レンくんは小さな頃からよく海外に行っていたらしく英語が得意で、丁寧に分かりやすく教えてくれる。


「そっか…ありがとうレンくん!」
「どういたしまして。お礼は、そうだね…一日デートに付き合って貰おうかな」
「えっ…」
「ちょ、ちょっと待ったー!」


私とレンくんの顔の間を、翔ちゃんのノートが遮った。で、でーと…どうやってお返事しようかと悩んでいると私が何か言うより先に「冗談だよ」とレンくんが笑った。それにしても翔ちゃんは何に引っかかったのか、そっちが気になってしまった。


「そんなにムキにならなくても…冗談だよおチビちゃん」
「べっ、別にムキになんて…!」
「香織さえ良ければオレはいつでも大歓迎だけどね」
「ああーっ!もう!油断ならねぇなホント!」


ぱちりとウインクをしたレンくんに、すかさず私もウインクを返す。完璧なレンくんのそれに比べてお粗末だったかもしれないけど…なんてね。「何通じ合ってんだよ」とブツブツ言う翔ちゃんは何だか機嫌が悪そうだ。


「ねぇねぇ翔ちゃん」
「なんだよ」
「私が翔ちゃんに質問しなかったから怒ってるの?でも翔ちゃんも英語苦手じゃ…」
「もう良い!何も言うな頼むから!」
「そもそも音楽用語はほとんどドイツ語なんだからさ…英語なんて別にできなくて良くない?」
「開き直らないで下さい」


私と同じようになおくんも完全に集中力が切れたようで、愚痴を零しながらペンを机に置いた。


もう英単語見るのも飽きちゃった…別の教科の勉強しようかな。私もなおくんも音楽系の科目は全く問題ないんだけどなぁ…うぅ、テストが憂鬱だ。


「ダメだ!気分転換にピアノ弾いてくる!」
「ダメに決まっているでしょう!」


呆気なく一ノ瀬くんに捕まったなおくんを横目に見ながら、私も気分を変えるために今度は数学の問題集を机に広げる。いざ解こうとペンを握りしめるけど、



…まずい。1問目から早速分からない!ここの範囲授業でやったっけ?私もしかして寝てた!?

教科書をパラパラめくって公式を確認するけどそれでも解き方が分からない。


こうなったらやっぱり誰かに聞くしかない…。一ノ瀬くん、教えてくれるかな?ちょっと厳しそう。「こんな問題も出来ないとは…」って絶対言われる。


あ、でもなおくんも数学なら得意だったはず。そう思ってなおくんを呼ぼうとしたら隣にいたはずのその姿が見えない。



「ねぇ、なおくんどこに行ったか分かる?」
「ん?そういやいつの間にかいなくなってるな」


翔ちゃんと一緒にきょろきょろと辺りを見渡す。テキストも広げっぱなし、スマホでさえ机に置いたままだ。



「まさか…」
「気分転換…ってやつか?」
「連れ戻してきます」
「わ、私も行くよ!」


氷のように冷たい声を出した一ノ瀬くんが怖くて、このままじゃなおくんの身が危ない!と思い慌ててついて行く。
結局、翔ちゃんとレンくんも一緒に自販機で飲み物を買いがてらなおくんを探しに行くことになった。結果、気分転換にもなってラッキー…なんて思っちゃったことは一ノ瀬くんには内緒だ。




いくつか練習室を覗いていくと、一番奥の部屋からピアノの音が聞こえた。
みんなで顔を見合わせて、練習室のドアを開ける。予想通り、そこにはピアノを弾くなおくんの姿があった。声をかけるのもはばかれるくらい、集中している。


美しいメロディ。でもどこか荒々しさがあって格好良い曲だ。ずっと一緒にいる私も聞いたことないから多分、今即興で作ったんだと思う。



「たく、マジの天才だなこいつ…」
「この熱量を勉強に向けることは出来ないのですか」


つい聞き入ってしまっていると曲の終わりと同時になおくんが顔を上げた。みんなで「おー…」と言いながら小さく拍手をする。


「なおくんすごいね…今、作ったの?」

もう本当に、私のお兄ちゃんの音楽の才能はすごくて参っちゃう。

「あぁ。ちなみに曲名は、」
「なんだよ、タイトルまでつけたのか…」



「タイトル 【英語なんか嫌いだ】」
「黙って勉強しなさい!!!」


みんなの協力もあり、私たち双子は何とかテストを乗り切ることが出来ましたとさ。





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