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「ライブお疲れ様でした!!」」
「皆、本当にありがとう」


大盛況のうちに俺達の出番は終了した。楽屋で缶ジュースを開けて、全員で乾杯をする。

まぁ急遽ではあったけど、良い経験になった。バンドで歌う機会なんて滅多にねーし、それに純粋に楽しかったと思える時間だった。


大体、香織も意外と無茶を言い出すというか、目が離せないというか…。一時は本当、どうなることかと思ったぜ。

ニコニコしながら嬉しそうに蜂谷と話す香織を見て、自然と笑みが零れる。つい口角が上がってしまったのを隠すように、こっそりと缶ジュースを口元に運んだ。


…なんだかんだで一日ハードだったな。けどまぁ、


「(香織が楽しかったなら何よりだ)」
「香織が楽しかったなら何よりだ」
「は!?え!?」
「あ、当たってた?そう思ってそうだなぁって」

心の声とシンクロした事に驚いて横を見ると、声の主は音也だった。肯定も否定も出来ずにいる俺と対照的に、音也はいつものニコニコとした笑顔を浮かべている。


「な…は、」
「だってさ、翔って香織のこと──」
「わわっ!何も言うな!」

余計なことを喋りそうな音也の口を慌てて手で塞ぐ。音也は悪びれもせず「ごめんね〜!」なんて言って笑う。…ったく、油断ならねぇこの野郎!

こっそりまた香織を見るが、音也の声は届いてなかったようだ。



「なんでバレてんだよ…」
「え?だって分かりすいんだもん。ね?マサ」
「?何の事だ?」

分かりやすい…?分かりやすいのか俺!
そんな…確かにまぁ、無意識に目で追ってるし…いやでも!マジかよ…。

音也にあっさり自分の気持ちがバレていることに動揺し、誤魔化すようにまたジュースを一口飲んだ。



「翔ちゃん」
「…っ!?」
「優子がそろそろ解散しようって…ってごめん、何かあった?」

いつの間にか隣にいた香織の声に、またむせそうになる。きょとんと俺を見上げる大きな瞳。
「何でもねぇよ」と、とりあえず返事をするが香織は俺を心配するようにじっと見上げてくる。俺より身長の低い香織は、当然上目遣いになる訳で。


「…大丈夫だって!ほんとにさ」
「そ、そう?」


…やめろって。その目に弱いんだって、俺は。



「じゃあ俺はマサと先に帰るね!行こ!」
「あ、あぁ」

解散すると聞くやすぐに、聖川と肩を組んでその場を後にしようとする音也。恐らく俺と香織を二人きりにする算段なのだろう。帰り際振り返った音也にばっちりウインクを決められた。

現場の片付けがあるからと残った蜂谷を置いて、音也の思惑通り香織と二人きりで帰ることになった訳だが…。








────


「んーっ!ライブ本当楽しかった!!」


俺の一歩先を歩く香織は満足そうに大きく伸びをした。

寮までの帰路…いつの間に時間が経っていたのか、辺りはすでに暗くなっていた。頬を撫でる風が生暖かく感じる。そっか…そろそろ夏が来るのか。



「そういえば、そろそろ夏合宿だね!」


俺と同じ事を感じたのか、香織が笑顔で振り返った。みんなとお泊まり楽しみ!と楽しそうに話していた香織だったが…ふと、


「…今日は本当にありがとう」


と言いながら立ち止まった。
俺もそれに釣られ立ち止まり、二人で向かい合わせになる。



「翔ちゃんが一緒にバンドに参加するって言ってくれた時…私、すごく嬉しかった」
「香織…」
「それにね、なおくんのこともあって、思いがけず二人きりになっちゃったけど…なんだか、デートみたいだなって思って…それもすごく、楽しかった」

急に雰囲気を変えて優しい声でそんなことを言い出すものだから、変に心臓が速くなっちまう。



「…て、こんなこと勝手に言って迷惑だったよね!ごめ─」
「そんなことねーよ!」


俺は香織の力になりたかっただけだ。

それに単純に、香織と一緒に歌ってみたかった。
他の奴が相手だったら、あんな風にすぐ決断出来なかったかもしれない。

迷惑なんかじゃない、俺だって同じくらい楽しかった。


今日隣にいたのが…お前だったから。




「迷惑、とかじゃねぇから」


そう言うのが、今の俺の精一杯だった。


俺の返答が意外だったのか香織は少しだけ驚いた顔をする。だけどすぐに目を細めて、満面の笑顔で「ありがとう!」と言った。

その笑顔にまた、俺の心臓が音を立てる。




「じゃあ翔ちゃん、おやすみ」
「お、おう!おやすみ」



この感情の答えを、俺は多分知ってる。
きっとあの日、出会った時からだ。俺は──



「これからアイドルになるってのに、どーすんだよ俺…」



俺は、香織のことが好きだ。




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