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「やぁ、香織と一緒か。嬉しいね」
「ワタシも嬉しいデス!」
「うん!よろしくね」


私はレンくんとセシルくんと同じチームになった。テスト2位のレンくんが一緒だなんて、心強い。それに違うクラスのセシルくんの歌を聴く機会はあまりないから、それも楽しみ。そして担当の作曲家は──


「七海春歌と申します!」


勢い良く頭を下げたのは、テスト3位の七海さんだった。初めましてだったけど、優しそうな女の子で安心した、うん!


「水谷香織です!香織って呼んで欲しいな」
「えっと…では、香織ちゃん」
「うん!よろしくね春ちゃん!」


やった!女の子のお友達が増えた!二人で笑って手を握り合う。これからのテストが憂鬱どころかむしろ楽しみになってきた。




「…なんか楽しそうだなー」
「香織と一緒じゃなくて残念だな翔」
「あぁ…って何言わせるんだ直希!」
「でも直希が作曲なら心強いよ!」
「あぁ、よろしく頼む」
「ん、こちらこそ」


なおくんのチームは翔ちゃん、一十木くん、聖川くん。

優子のチームは一ノ瀬くん、四ノ宮くん、渋谷さんと分けられた。なんだかんだでクラスが上手に分かれているみたい。



「テストは二週間後、場所は講堂。他の生徒は会場には入れないで、私達の前だけで披露してもらうわね」
「曲のジャンルは自由だ。しかし、それぞれあるテーマを盛り込んでもらう。」
「て、テーマ?」


先生の言葉に瞬きを繰り返してしまう。

皆ではてなマークを浮かべていると、作曲家コースの三人が前に呼ばれた。



また用意された別の白い箱──もう一度くじを引くという事みたい。

三人がそれぞれくじを引いて、中身を確認する。その様子をアイドルコースの私達はじっと見守った。


ん?と首を傾げた三人…それぞれ引いた紙にテーマとなる文字が書かれているみたい。




「切なさ…これがテーマ?」
「癒し…」
「エロティック…ちょっと待て俺のだけ明らかにおかしいんだけど」
「そのテーマを表現する曲を作って披露して欲しい」
「おい先生無視かよ」


テーマが先にあって曲を作るんだ…それを作るのも表現するのも難しそうだ。
やっぱりこの追加テスト…簡単にはいかないかも。



「どう考えてもこの三人じゃ無理だろ!絶対全員童貞じゃ」
「直希それただの悪口だからな」
「エロティックのエの字もないメンバーでどうやって作れと!?」
「その前にお前は自分のクジ運の悪さを恨めよ!」
「まーまー!二人とも喧嘩しないで!」


月宮先生がなおくんと翔ちゃんの間に入って二人をなだめる。でも確かに、なおくんのところのテーマは相当む、難しそうだなぁと思う。私達のテーマは癒しか…え、えろてぃっくじゃなくて心から良かったと思ってしまう、なおくん達には申し訳ないけれど。同じ事を思ったのか春ちゃんと目が合ったから、二人で苦笑いしてしまった。


「まぁ確かに…この中で一番難しいのはなおくんチームのかしらね!」
「お前になら出来ると思ったんだけどな、水谷」
「……」
「自信がないなら仕方ないな。テスト1位であろう生徒がこの程度もこなせないとは…そりゃ残念だ──」
「上等だ!やってやろうじゃねぇか!」

「…香織、アイツって結構負けず嫌い?」
「気づくの遅いよ翔ちゃん」


呆れ顔で話す翔ちゃんに同情する。
こうなったなおくんは中々止められないのは、昔からよく知っている。



「テストは二週間後だ、時間がないが各々努力するように!」


日向先生の一言で、改めて気合を入れた私達。
よし!追加テスト頑張らなくちゃ!









───

「ねぇ聞いた?レコーディングテスト上位者で追加テストするんだって!」
「知ってるー!そうそうたるメンツだよねぇー!」


追加テストの案内をされた翌日。今日はクラス合同の作曲の授業があります。
どこから情報を得たのか、もうあちこちで噂されている追加テストの話題。

一人ぽつんと座る私の席の横で、わざとなのか聞こえるような声で話す他の生徒達がいました。



「つーかさ!なんで七海が?」
「ほんとほんと!テスト三位って…一体どんな手使ったのー?」
「いえ…私は、」
「ま、ほぼ一十木君の歌のお陰だけどねー」


作曲家コースの生徒だけでの授業。
いつもは助けてくれる友ちゃんも、一十木君達もいない。陰口を言われるだけなら我慢出来るけれど、いざ面と向かってこう言われてしまうと…私も何も返せずにいました。


「まぁほら!この子コネ入学なんでしょ?この前うちのクラスの授業で、ピアノすら弾けなかったよ」
「うわマジかよ。ないわー」


違うのに…そう否定しようとしても、上手く声が出ない。

どうしよう…耐えられない──。
そう思っていた時、





「はっ、カッコ悪」


後ろから嘲笑うかのような声が聞こえて、思わず勢い良く振り返った。



「そんな話する暇あるなら真面目に授業でも聞けば?」


香織ちゃんとそっくりな男の子…話したことは無いけれど、よく知っている。
水谷直希君──私の後ろの席に座っていた彼が、私に話しかけていた生徒達に冷たく言い放ちました。


「…っ!何だよてめぇ!」
「じゃあお前らは七海より良い曲書いたわけ?」
「ちょっと!馬鹿にしてるの!?」


「悔しいなら実力で勝てよ。そういう世界だろここは」


力強い彼の言葉に、何も言えなくなった生徒達は黙り込んで前を向いた。それ以上、私は何を言われる事も無かった。


助けて…くれたんだ。



「アンタ、見かけによらず喧嘩っ早いわよね」
「見かけによらずって、どういう意味だよ蜂谷」


彼の横に座る女の子をちらりと見ると、ぱちりと目が合いました。今度一緒に追加テストを受けることになっている二人を見てぺこりと頭を下げる。


「あの…すみません、ありがとうございました」
「いいえ、こっちこそ。この男が勝手にごめんなさいね。よく言っとくから」
「お前だって舌打ちしてたろ」
「あらやだ、そうだった?」


そんな二人のやり取りを見て、つい笑みが零れました。面白くて、優しい人だなっていうのがすぐに分かって。


「ま、同じ作曲家コースとして仲良くしましょ。私、蜂谷優子ね」
「水谷直希です、よろしく」


笑ってブイサインする二人。心から安心した私は、


「七海春歌です、よろしくお願いします」

そう言って小さくブイサインを返すのでした。





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